第66話 そんな彼女の友達の話
「2,3回……」
隆はショックを受けている。
やっぱ、愛紗は追い出せばよかった。
愛紗は言葉を続けた。
「2、3回で1回に3回として……、まぐわった回数は、軽く両手の指を超えちゃいそう♡」
何を言ってるんだ、こいつは。
隆は泣いているし。
愛紗はドヤ顔で腕を組んだ。
「まあ、我の予想では、3度あることは4度目もある。浮気現場を押さえるのがよいじゃろう。隆とやらは、この写真の曜日と時間を確認するように」
こうして、美桜の浮気調査団が結成された。
カケルに聞いたところ、写真は土曜日の午後のものとのことだった。ちなみに、カケルとは、クラス一のチャラ男で、以前、一歌と共に、隆に掃除当番を押し付けた男だ。
次の土曜日の昼間。
現場近くのファミレスで待ち合わせした。
隆の話だと、いつも美桜はこのファミレスで、写真の相手と待ち合わせしているらしい。
一歌にも相談したがったが、美桜は一歌の友達だからな。内容が内容だけに話せなかった。
今日の愛紗は、すごく気合いが入っていて、ばっちりメイクをしている。服装もすごく大人っぽい。名探偵ということで、水色のベレー帽を被っている。そして……。
(こいつ、こんなに胸大きかったっけ?)
女子は怖い。
中2なのに、メイク次第では18,9歳に見えてしまう。
ファミレスに入ると、隆は山盛りポテトを食べていた。
「よぉ。随分と元気そうだな」
「んなわけないだろ。やけ食いでもしないとやってられねーんだよ」
まあ、そうだよな。
かなり荒れているご様子。
大人なら、ヤケ酒で絡まれるパターンだ。まだ酒が飲めない年齢でよかった。
愛紗は、ぺこりとお辞儀をした。
「こんにちは♡ 今日はよろしくお願いしますっっ♡」
……この女狐がっ。
隆は顔を上げた。
「おい。藍良。お前の妹ちゃん、めっちゃ可愛いじゃん。紹介してよ」
なんかこの人、案外元気そうなんだけど……。
もう。どいつもこいつも。
もっと真剣にやって欲しい。
まずは、基本方針を決めよう。
「それで隆。お前、どうしたいの?」
これは浮気被害者に突きつけられる、究極の選択。そもそも、別れたいのか、続けたいのか。
それによって、証拠を押さえる意味合いが変わってくる。
「どうしたいのって?」
「いや、だからさ、美桜が浮気していたとして、許せるのかってことだよ」
隆は頭を抱えた。
「そんなのわかんねーよ」
それはそうか。
初めての彼女だもんな。
「だって。ありえねーじゃん。俺だってまだヤってないのに、他の男とするとか……」
あ、まだしてないのね。
その横では、愛紗がポテトをパクパクとつまんでいる。そして、愛紗はおもむろに話し始めた。
「要は、その美桜とやらが、その男とセックスをしてたとして、そのままやらせ続けてもいいのか、ってことだね♡」
愛紗よ、語尾だけ可愛くしてもダメだから。
オブラートの発動を要請します……。
「……そんなの許さないにきまってるじゃん」
「そかそか。じゃあ、相手が謝ってきたら許してやるってことじゃな?」
「ま、まあ……」
「じゃあ、現場を押さえて、交渉じゃな」
俺は素朴な疑問がわいて、聞いてみた。
「でもさ、美桜が、その。その男を選んだらどうするんだよ」
「ま、シンプルにお手上げじゃな」
隆はテーブルに突っ伏した。
「そんな……」
愛紗は上から目線で続ける。
「そうなったら、我の友達を紹介してやるから安心せい」
いや、中2女子を紹介されても困るでしょ……。
すると、隆は身を乗り出した。
「えっ。じゃあ、目が大きくて巨乳の子をお願いしたいんだけど」
って、中2でいいのかよ。
このロリコンがっ。
愛紗は答える。
「ま、巨乳に関しては、我の歳では、将来の期待値で判断するしかないからのぅ。その母、姉が巨乳の子を紹介してやろうではないか」
しかも、なにげに手厚いサポート体制だ。
でも、母と姉の乳サイズをみてから口説いてくる男とか、普通に無理でしょ。
そして、俺はある疑問が湧いた。
「ってかさ、愛紗。ホテルは密室なのに、浮気の現場を押さえるって難しくないか?」
「バカか? 兄貴は。何のために、我が胸パッド入れて大人っぽい格好をしていると思っておる。ホテルの中に入るために決まってるだろうが」
あ、やっぱそれ、パッドだったのね。
「いや、ラブホって1人じゃ入れないかと……」
隆が手を挙げている。
いや、隆よ。
浮気現場を目撃したら、たぶんトラウマになるぞ? やめとけ。
愛紗は続ける。
「じゃあ、そこの隆とやらと入るしかないのぅ」
「いや、それは普通にダメでしょ」
愛紗はニヤリとする。
「嫉妬か? このシスコンがっ♡ なら、兄貴が我の相手をするしかないのぅ」
いや、妹ととか。
二重、三重にダメでしょ。
普通に逮捕されるよ。たぶん。
すると、愛紗が手で会話を制した。
「シッ。ターゲットが入ってきたぞ」




