第60話 そんな彼女のその後。
「変な声でた……」
なんだか、恥ずかし過ぎる。
「んじゃあ、俺はそろそろ帰るわ」
すると、一歌は真剣な目になった。
「今日はありがとう。わたし、信用できる男の子、蒼くんしかいなくて。愛も蒼くんに一目置いているみたいし。だから、変なこと頼んで、ごめんね」
なるほど。そういうことか。
彼女に頼られるのは、悪い気はしない。
「あ、いや。役に立てたならよかったよ」
俺は家に帰った。
家に帰るなり、愛紗に絡まれた。
「兄貴。一歌とヤったか?」
こいつ、中2だろ?
おませさんすぎて、兄は心配だよ。
つか、年上を呼び捨てにするな。
愛紗は続ける。
「ところで、今夜、一緒にやらぬか?」
「なんのこと?」
「男女が一緒に夜にヤルことといったら、アレしかあるまい」
いや、兄妹は、その男女に該当しないだろ。
すると、母さんが通りがかった。
(愛紗に説教してやってくれよ)
ところが、母さんはニコニコだ。
やけに機嫌がいい。
「まあまあ、仲のいいこと。いくら仲良しでも、赤ちゃん作っちゃダメよ?」
……。
まじでドン引きだ。
なんなんだ、この家族。
あたま大丈夫か?
続いて父さんがきた。
父さんは愛紗ラブだから許さないだろう。
「父さん、愛紗の悪ノリがひどいんだけど、いいの? あんなの放置してて」
すると、父さんは手に持っていたラノベを俺に見せた。
表紙には『この世で一番、妹が好きなんですけど、なにか?』とタイトルが書いてある。
父さんは遠い目をして言った。
「俺にも妹が居たら、こーいうのやってみたかったんだけど。禁断の恋とか。俺が言うことじゃないけど、愛紗、母さんに似てべっぴんだろ? 何の不満があるんだよ。ま、性行為はやめとけよ?」
いや……、アンタら3人に不満しかないんだが。
父さんは俺の肩を叩くと、言葉を続けた。
「あ、これから母さんとデートにいくから、戸締り宜しく」
父さんは鼻歌まじりだ。
くそ、それで母さんも機嫌が良かったのか。
いや、妹とかマジでないから。
そういうラノベみたいなのは、妹が居ないヤツの妄想なんだよ。
もし、世界に妹と俺しかいなくなったら、迷わず種の絶滅を選ぶね。俺は。
やべーぞ。うちの家族。
まじで腐ってる。
俺は部屋に入るなり、鍵を閉めた。
今夜は何があっても、この扉を開かない!!
何があってもだ。
ってか、暇だな。
俺の部屋にはテレビがない。
やることねーし、エロサイトでも見るか。
スマホじゃ画面が小さいし、やっぱ、臨場感重視ならタブレットだよな。
って、ん?
タブレットないぞ。
どこかに忘れたか?
仕方なく、本を読んで過ごすことにした。
トントン……
22時頃、ドアがノックされた。
「あけて……」
愛紗の声じゃない。
え、誰の声だ?
若い女性の声だ。
なんだか元気がない。
「あけて……。あけて……」
数秒のあと、ノックはドアを乱打するような音に変わった。
ドンドンドンドン!!
ドアの外から叫ぶような声が聞こえてくる。
「あけて!!あけて!!あけて!!あけて!!あけて!!あけて!!あけて!!あけて!!あけて!!あけて!!あけて!!あけて!!」
……。
泥棒?
いや、泥棒ならわざわざドアあけさせないよな?
じゃあ、何?
悪霊?
今日、うちには両親がいない。
愛紗。愛紗があぶない。
俺は部屋のドアをあけた。




