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第6話 そんな彼女はラブホが好き

 

 3度目の正直。


 今日はアウトドアデートしようと決意した矢先、日焼けNGと言われてしまった。


 「じゃあさ、どこ行きたいの?」


 一歌はラブホを指さした。

 

 「え。また?」


 「あそこ落ち着くし」


 ……ラブホは君の家じゃないんですが。できれば、落ち着かないでください。


 「いやさ、せっかく可愛い格好してくれてるのに、もったいないっていうか」


 「わたし、蒼に見せるために着てきたし。別に他の人は……、とにかくっ。あそこがいい!!」


 まじか。

 こんなに来るなら会員カード作っておけばよかったよ。


 それにしても、エッチしないラブホデートとか、すごくコスパが悪い気がする。


 これは、バイトしないとキツイな。



 俺は一歌に手を引かれて、ラブホに入った。


 うわっ。

 一歌の手、冷たい。これ……手汗?

 

 すごい量だ。この前はそんなことなかったのに、なんでだろう。


 「あっ、わたしの手」


 「うん。すごい手汗」


 一歌はハンカチで手を拭きだした。


 「あれ、なんで? わたし普段、手を繋いでも汗なんてかかないのに……」


 一通り拭き取ると、首を傾げて手をグーパーしながら、一歌は言った。


 「また手つないであげてもいいけど……」


 俺は、一歌が他の男とも手を繋ぐのかなって思ったら、胸の中がザワザワした。


 気付いたら、口から言葉が出ていた。


 「一歌の手、俺以外と繋いで欲しくない」


 って、俺はなんてことを。

 俺は、ただの時間潰しの相手だぞ?


 こんなこと言っても、ウザがられるに決まってる。


 すると、一歌は、襟元のあたりを軽く握って、下を向いた。俯いた……、いや、頷いたように見えた。


 「一歌、それって。ウンってこと?」


 「内緒……」


 一歌は言葉を続けなかった。

 2人きりのエレベーターの中には、ガコンガコンと、吊り合い重りが下がる音が響いている。


 俺が手を出すと、一歌はギュッと手を握ってくれた、


 手を繋ぎなおして部屋に入ると、一歌はすぐに風呂に行ってしまった。俺は1人で手持ち無沙汰になった。


 トイレでもいっとこかな。


 トイレの手前の脱衣所の横を通ると、シャカシャカという音がした。


 歯磨きの音かな?

 一歌のやつ、随分と念入りに歯を磨いているようだ。


 俺は1人で待つが、落ち着かない。

 部屋を物色していると、へんな自販機を見つけた。中には、得体の知れないアダルトグッズ的なのが入っている。


 ……一歌、一通り使い方とか知ってそうだな。


 しばらくすると一歌が戻ってきた。

 

 「ガウン持って行くの忘れた……」

 一歌はバスタオルを巻いて出てきた。


 こうして見ると、ウエストはしっかりくびれていて、バストも大きい。Eくらいあるのではないか。


 みんな、この身体を好きにしたのか。

 正直、嫉妬してしまう。


 「ん? どうかした?」


 俺の目つきに何か気付いたのだろうか。

 一歌は首を傾げている。


 「別に」 


 俺の返事を気に入らなかったのか、一歌は目を細めた。


 「あ、嫉妬してるの? きも……」


 「してないし」


 一歌は反対を向くと、ボソボソと言った。


 「ふーん。まあ、蒼と付き合ってる間は、他の男とはしないし」


 ん。

 なんか、さりげに一途なこと言われたような。


 「何か言った?」


 「別に……」


 「……」


 前よりは話してくれるようになったけれど、まだまだ沈黙が多くて気まずい。


 あっ。そうだ。


 「あのさ。一歌どこか凝ってるとことかない?」


 一歌は肩をのばしている。


 「んー。肩が凝るかな。わたし、あまり机とか座ってないのになんでだろ」


 高校生なんだから、もっと座ってくれ。

 それに巨乳で重いだけなんだと思うぞ。


 「じゃあ、マッサージしてあげるよ」


 一歌の目が輝いた。


 「まじ? マッサージめっちゃすき!!」


 なんか、今までにない食いつきだぞ。


 いつか出会う恋人のために、密かにエア彼女とトレーニングしていた特技を使う時がきたらしい。


 一歌に正座になってもらう。たしか肩こりのツボは……俺は脇の下あたりを指圧した。


 「……あン」


 何故か一歌は、切なげに女の子の声を出した。

 ハスキーで可愛らしくて、いつもの無愛想な声とは全然違う。

  

 「変な声だすなよ」


 「……だって、勝手に出ちゃうし」


 「ふふっ。おれのゴッドハンドの実力だな」


 すると、一歌は俺の左手を撫でた。


 「蒼。手に傷があるんだね」


 俺の左手には、子供の頃の古傷がある。

 塞がっても生々しいからな。怖かったのかな。


 「傷、イヤだった?」


 すると、一歌は首を横に振った。

 

 「……そんなことない」

 

 なんだか、今日の一歌は素直らしい。

 よし、次のツボだ。


 一歌に手を開いてもらって、人差し指と親指の間の薄皮を挟むようにする。じわっと押すと、一歌の脈が感じられた。


 トクトクトクトク。

 すごい速さだ。


 「一歌、なんか脈がハムスターみたいに早いんだけど」


 「そんなことないし!!」


 一歌は手を振り解いた。

 

 「蒼のマッサージ、なんかエロいんだけど」


 「そんなことないよ。普通のサイトで勉強したやつだし。もっとする?」


 「大丈夫。それよりも蒼……」


 一歌は目を閉じた。なぜか頬はピンクで耳も赤い。おれに顔を近づけると、口を半開きにした。


 一歌のぷるんとした唇が近づいてくる。


 キス……。

 

 俺はなんだか恥ずさでいまたまれなくて、つい、つっこみを入れてしまった。


 「一歌、なにしてんの? パクパクして金魚の真似?」



 バチンッ。

 思いっきりビンタされた。


 「ばか!! しね!! してくれないと他の男とするから……それはないけど、とにかくしね!!」


 俺はジンジンする頬をさすりながら言った。

 

 「だって、うちらまだ3回しか会ってないし早いでしょ」


 一歌は頬を膨らませている。


 「じゃあ、いつになったらするの?」


 「うーん。3ヶ月目くらいかな」


 「ふーん。わかった」


 一歌はスマホを持つと何か入力しはじめた。


 「何いれてるの?」


 「別に。愛にメッセージ送ってるだけだし」


 「ふーん。あ、次も会う?」


 「え……」


 一歌はスマホを落とした。


 「いや、義務なのにずっと付き合ってもらうのも悪いかなって」


 「別にわたし暇だから、ただの暇つぶしだし」


 いや、あなた。

 バイトのスケジュールがどうのとか言ってたでしょ。


 「そっか。あ、じゃあ、次に会うときは、前みたいな格好でいいからね」


 「え。今日の服、可愛くなかった?」


 いや、むしろ反対なんだけどな。


 「可愛すぎて、他の男に取られそうで不安になるからだよ」


 一歌は真っ赤になった。


 「お、お世辞とか言わなくていいし。でも、わかった。んで、明日の待ち合わせは何時にする?」


 待ち合わせって、……どうせ、あなた時間、守らないでしょ。っていうか、明日も会うのか?



 次の待ち合わせをして、駅前で一歌と解散した。やっぱ、駅前でサヨナラは少し寂しい……。


 次は、一歌の家まで送ろうかな。

 でも、ストーカー呼ばわりされそうな気がするし。

 

 すると、一歌からメッセージがきた。


 「あのね。わたし、たまに保育園に妹を迎えに行くんだけど、その時も、手を繋いじゃダメ……? そしたら困るんだけど」


 「もちろんOKだよ」


 一歌は安心したらしく、子豚のスタンプを送ってきた。


 一歌は、妹がいるのか。



 その1ヶ月後。


 一歌とカレンダーを共有した時に「蒼と初チュウの日♡」というイベントが俺のカレンダーに流れ込んでくることになるのだが。


 ……それは、まだまだ先の話だ。



挿絵(By みてみん)

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