第55話 そんな彼女の親友は。
昨日、一歌は1人で先生のお見舞いに行ったらしい。その時の様子を話してくれている。
「あのね、先生。一緒に怒られた看護師さんと付き合い始めたんだって」
「え? まじ?」
ってことは、騒ぎを起こした俺たちのおかげじゃん。
一歌は胸を張った。
「ほんと、それもこれもドラゴンフルーツのおかげだし」
ドラゴンフルーツ推しすぎて、俺の存在は完全に抜け落ちてる……。
先日から思ってるんだけど、この子、実はドラゴンフルーツ協会の回し者かなにかか? ドラゴンフルーツ愛が激しすぎるんだけど。
一歌は続ける。
「親戚から送ってもらった甲斐あった。本物じゃないと伝わらないと思ったの」
すごく考えてくれていたみたいだ。
ただのドラゴンフルーツ狂かと思ってた。ごめん。
「んで、先生は、どんな様子だった?」
「あのねー。彼女さんにヘラヘラしてて、全然元気。たぶん、学校であったことなんて、もう忘れてると思う」
「そうなんだ」
「あ、先生から伝言」
「なんだって?」
「色々ありがと、彼女の話をしたいから、連絡ください、だって!!」
あほくさ。
絶対に連絡しない。
ま、でも、
それで立ち直れたなら、それに越したことはない。たしかに、好きな子がいると、色々と前向きになれるもんな。
やや拍子抜けではあるが。
俺が一歌を眺めていると、目が合った。
「なに? イヤらしい目で見るなだし」
一歌はジト目になると、本を書棚に戻した。
実はいまはバイト中だ。
「いや、好きな子がいるとやる気が出るなって」
俺の言葉を聞くと、一歌は嬉しそうな顔をした。そして、人差し指を唇にあてて足を組み直した。
組み直した足の間から、チラッと下着が見えたような気がした。
「ふぅーん。スカートの中身みたい?」
一歌がこういうフリをするのは珍しい。
せっかくだから、全力で乗ってみよう。
俺は大きく頷いた。
「ふぅーん。じゃあ、どんなことしたいの?」
一歌は聞いてきた。
口角をあげてニマニマしている。
今なら大抵のことが許される気がする。
だから、この熱い想いをぶつけるんだっ!!
「スカートの中に顔を入れて……」
「いれて?」
一歌もこの先の展開に興味があるようだ。
ビビるな、俺!!
「……思う存分、嗅ぎたいっ!!!!」
脱ぎたて下着という言葉はあるが、脱いですらいない下着は、それを遥かに超える最強の存在だと思う。
すると、次の瞬間、強い衝撃を受け、視界が暗転した。
「きも、きも、へんたい!! きもすぎ!!」
俺の身体は後ろに大きくのけぞり、椅子から落ちた。そして、着地とほぼ同時に一歌に踏まれた。一歌は、続ける。
「まだ、早いし!!」
あれ、完全拒否じゃないっぽい。
「いつになったらいいの?」
「そんなことされたら、もうお嫁にいけないから、蒼くんがもらってくれた後なら……考えないでもない」
なんだかんだで、甘々だなぁ。
凶暴だけど。
繰り返すが、今はバイト中だ。
今日は雨で店が空いているので、結構、自由にらやせてもらっている。
「お前ら、イチャつきすぎ」
愛が割って入った。
今日は珍しいことに、愛と一歌と俺の組み合わせでシフトに入っている。
愛とは個人的に話したりすることはないが、何気にファーストキスの相手だからな。俺のこと、嫌いってことはないと思うんだけど。
地雷であることには変わりはない。
極力、関わらないようにしよう。
一歌と愛は仲が良い。
バイトの間も、息がぴったりだ。
まさか、この2人も……百合ってことはないよな?
俺はジーッと観察してみた。
すると、愛の目つきは、沙也加のような熱視線ではなさそうだった。
……良かった。
これで、愛も一歌の元恋人だったりしたら、俺の脳と心のキャパ超えちゃうよ。
愛の性格はよく分からないが、悪評ばかりの一歌と仲良くしてくれていたのだ。悪い子のはずがない。
ま、俺にはあまり関係のないことだけど。
バイトが終わって、控え室にいると、愛に声をかけられた。
「蒼。この後ちょっと時間ある?」
え?
俺、何かやらかしたのかな。
心当たりないけど。
でも、一歌と帰るつもりだし。
「ごめん、俺、一歌と帰ろうかと」
「あ、それなら問題ない。一歌には了解とってあるから」
え?
どういうこと?
いきなりホテルに預けられたペットの気分だ。
「でも……」
愛は眉間に皺を寄せている。
この人、俺の態度に明らかにイライラしていらっしゃる……。
「あ? 煮え切らないヤツだなぁ。黙ってついてこい」
ママ……この人、怖いよ。
「あの、どこいくの?」
愛は言った。
「デートすんだよ」
……は?!
直後、一歌からメッセージがきた。
「愛のお手伝いはして欲しいけど、浮気はダメだし……」
俺は頭を抱えた。
どうすりゃいいんだよおぉぉ!!




