表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】モブの俺。クラスで1番のビッチギャルに告白される。警戒されても勝手にフォーリンラブでチョロい(挿絵ありVer)  作者: 白井 緒望


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/107

第54話 そんな彼女の差し入れ。


 一歌が手を握ってくる。

 すごく悲しそうな顔だ。


 一歌も気づいてしまったのだろう。

 先生は、きっと、俺たちの学校に戻ってくることはない。



 さっき、ここに来る前に話したのだ。

 病院の玄関前で。


 「先生、また復帰できるかな?」


 俺がそう言うと、一歌は声のトーンを下げた。


 「トラウマって、そんな簡単にいかないよ」


 「じゃあ、時間をおいてもらうとか」


 すると、一歌が俺を握る手に力を入れた。


 「あのね、わたし、恋を諦めてたんだ」


 なんで、いまその話?


 「どういうこと?」


 一歌は続ける。


 「男の子からの好きが怖くなって、わたし逃げ出したの。そうすれば、相手の気持ちと向き合わなくても良かったから」 


 義父から虐待をうけて、一歌にとって無価値になったもの。それは自分自身。贄として、そして罰として、自分の身体を提供したんだよな。知ってる。


 「……うん」   


 俺は、ただ、そう答えた。


 「でも、もし。あのとき、我慢を続けてたら。蒼くんに出会っても、今みたいな気持ちになれなくなってたかも」


 「そっか。たしかに……、頑張って乗り越えるだけが正解じゃないよな」


 俺たちは、それで出会えたんだから。


 「うん。無理して傷を大きくするなら、逃げてもいいと思う。乗り越えることが正解かもしれない。でも……」


 「逃げることが間違いとな限らないよな」


 一歌は頷いた。



 …………。


 一歌のために北村さんの情報を提供して贔屓ひいきを許容した先生は、きっともう。俺たちの学校に戻ってくれることはない。


 だから。


 「先生。こういうの照れ臭いんだけどさ。俺、先生のことマジで好きだったよ」


 ちゃんと伝えておきたい。

 一歌と俺は、先生の手を握った。


 先生は俺たちの手の上に手のひらを重ねると、俯いた。


 「ありがとう」


 「先生って、大学院出てましたよね? 博士号もってるんですか?」


 「あぁ、そうだけど、なんで? 藍良も大学院に興味があるのか?」


 赤点再試験の俺には、そんなの妄想する権利すらありませんよ……。


 「……先生の専門は心理統計学でしたっけ?」


 「そうだけど、よく覚えてるな」


 「古文の先生なの不思議だったもので。さっき、先生に本能の話を教えてもらってた時、すごく面白かったんで」


 「そうか? なら良かった」


 「だから、そういうの。もっと勉強に興味がある大学生に教えたりできないんですか?」


 「ん。教授とはまだ交流はあるし、研究室に戻ることも可能だとは思うが」


 「大学なら、アホな保護者も、くだらないこと言う生徒もいないのかなって」


 逃げてくださいとは言えないけれど。

 教えることをやめて欲しくない。


 「あぁ。そういうことか。そうだな。考えてみるよ」


 先生は笑った。


 「違う学校になっても、俺ら先生の生徒ですから」



 ぱんっ


 一歌が手を叩いた。


 「先生、わたし、ドラゴンフルーツもってきたんだ。切り分けるから、おやつにしよう♡」


 一歌は手慣れた手つきで、切り分けてくれる。

 赤玉のドラゴンフルーツの果肉は、ざくろのように真っ赤だった。


 「食べたら、びっくりするよ?」

  

 一歌に渡されたドラゴンフルーツを口に入れる。すると、本当にビックリした。


 もはや、俺の知っている果物とは別物だった。


 ジューシーで、シャリシャリで。

 とろけるように甘い。


 新鮮なドラゴンフルーツは、こんなに美味いのか。


 「これが、ドラゴンフルーツの本気だし!!」


 一歌は得意そうだ。

 食べる俺たちを見て、クスッと笑って。


 言葉を続けた。


 「せんせぇ。ドラゴンフルーツってね。サボテンの実なんだよ。辛く厳しい土地でも、みずみずしくて甘い立派な実をつけるの。そして、なにより、龍の鱗なんだよ。カッコいい。わたし、そういうのカッコいいと思うな」


 一歌は、はにかんだ。


 この子の言葉には、力がある。

 ボキャは多くないし、ドラゴンフルーツ=龍の鱗ではないけれど。


 色んな思いをして、笑って泣いて。一歌は自分で逃げ出したっていったけれど、そんなことない。逃げたけど、逃げ出したんじゃない。だから、心は龍の鱗のように強く美しくて、言葉に力があるんだと思う。

 

 先生は頷いていた。


 泣きながら夢中で食べている。

 真っ赤な果汁を入院着にポタポタ垂らしながら、龍の鱗にかぶりついていた。



 トントン


 すると、看護師さんが入ってきた。


 「新川さん。検温のお時間……」


 看護師さんは動きを止めた。

 その視線の先には、入院着まで真っ赤に染めた新川先生が嗚咽していた。


 「ひっ……、新川さんが吐血してます!!!!」


 看護師さんはナースコールを連打した。

 すぐに、医師や看護師が集まってきて、大騒ぎになってしまった。


 新川先生も怒られ、大騒ぎした看護師さんも、とばっちりで怒られたらしい。

 

 それ以降、ドラゴンフルーツの差し入れは禁止になったらしい。


 ごめん!! 先生!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランキングサイトに登録しました。 面白いと思っていただけたら、クリックいただけますと幸いです。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ