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【完結済】モブの俺。クラスで1番のビッチギャルに告白される。警戒されても勝手にフォーリンラブでチョロい(挿絵ありVer)  作者: 白井 緒望


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第52話 そんな彼女の幼なじみ。

 

 バイト帰り、自転車に乗ろうとすると、ちょいちょいとすそを引っ張られた。


 「ぱぱー、ぱ?」


 え?

 ぱ、ぱぱぱ?


 視線を落とすと、小さな女の子が居た。

 ど、どうしよう。


 幼児の取り扱い方法なんて知らないよ。


 (子供は、目線を合わすって何かに書いてあったよな)


 女の子は、2歳か3歳くらい。

 身長も俺の膝上くらいまでしかない。


 俺は屈んで目線を合わせた。


 「えと、俺はパパじゃないんだけど、ママは?」


 お母さんとハグれてしまったのだろうか。

 その子は「えーん」と泣き出した。


 簡単な言葉は話せるが、複雑なことは伝えられないらしい。俺が話しかけても、要領を得ない。


 ど、どうしよう……。

 この辺には交番もない。


 おれは、その場に立ち尽くしてしまった。



 「アイラくん?」


 不意に声をかけられて振り返ると、知ってる顔だった。黒髪の清楚な雰囲気の女の子。北村さんだ。


 彼女は、艶やかな黒髪をかき上げると、中腰になって、少女に話しかけた。


 「迷子になっちゃったかな? お名前は?」


 「ぐすっ。うんっ。秋桜こすもすっていうの……」


 「こすもすちゃんかぁ。可愛いお名前ね。どっちから来たのかな?」


 すると、秋桜ちゃんは、駅と反対方向を指差した。


 どうやら、北村さんは、秋桜ちゃんと意思の疎通がはかれるらしい。よかった。


 「ごめん、用事あったんじゃない?」


 俺が聞くと、北村さんは、秋桜ちゃんの頭を撫でながら答えた。


 「んっ。わたしは本を買いに来たんだ。時間あるから大丈夫だよ。それよりも、こすもすちゃん心配ね」


 「あれ、今日の一人称は、『わたくし』じゃないんだ」


 北村さんはペロッと舌を出した。

  

 「あ、あれは学校用のわたくし。こっちが本当のわたし」


 北村さんは、俺の知っている北村さんと違った。話し方もフワフワしてて、言動の端々に笑みを感じる。柔らかな印象だ。


 「そ、そうなんだ。北村さん、ありがとう。おれ、途方にくれててさ」


 「大丈夫。わたしも乗り掛かった船だよ。あ、それと、わたしを呼ぶのは、下の名前でいいよ?」


 「雅さん。了解です!!」


 すると、北村さんはクスッと笑った。


 「ほんとは、さんも要らないんだけどな。ま、いっか。きっと、お母さんも探しているし、動き回らない方がいいね。ここで待とう」


 俺1人だと、秋桜ちゃん号泣だし。

 

 「ほんと助かる。ありがとう」


 それから、秋桜ちゃんの好きな歌や友達のこと、好きなアニメの話などをした。秋桜ちゃんが喉が渇いたというので、キッチンカーで、たい焼き3個とジュースを頼んだ。


 焼き上がりを待って戻ると、秋桜ちゃんのママが走ってきた。買い物の途中で、はぐれてしまったらしい。


 何度もお礼を言われて、2人と別れた。秋桜ちゃんも手を振ってくれている。


 「蒼おにいちゃん、みやびちゃんと仲良くしてねっ」


 そう言い残して、去っていった。

 雅さんは苦笑いしていた。

 

 俺は雅さんに、たい焼きとジュースを渡した。


 「ありがとう。これ、たいしたもんじゃないけど、お礼です」


 ベンチに座って、たい焼きを頬張る。


 「ありがとう。わたし、たい焼き食べたことないんだ。だから、嬉しい」


 たい焼きを食べたことがないって、本物のお嬢様なんだな。


 「あ、こすもすちゃんに渡さなかったから、たい焼き1つ余っちゃった。どうしよ」


 すると、自分の分を食べ終わった雅さんが、俺のたい焼きに、ハムッとかじりついた。そのまま、ハムハムと食べ切ってしまった。


 雅さんは、ペロッと唇を舐めた。


 「ごちそーさま。美味しくて、2匹たべちゃったよ」


 「え。それ、おれの食べかけ……」


 「あっ、ごめんっ」


 雅さんは、あたふたとする。


 「いや、俺はいいんだけど」


 「つい、美味しくて。普段は食事は1人だから……。食いしん坊なのバレちゃった」


 「あはは。ギャップ萌えかも」


 「アイラくん、萌えって久しぶりに聞いたぁ」


 「え? そなの? 俺、ふつうに使ってるけど」


 「じゃあ、今のは、わたしの秘密とアイラくんの秘密。2人だけの内緒ね。って、あっ!!」


 俺の萌え発言は、現代では秘匿ひとくされるべき発言らしい。


 雅さんはちょっと恥ずかしそうな顔をした。


 「ん?」


 雅さんは膝の上で両手を握った。


 「……間接キスしちゃったね」


 雅さんは、耳まで赤くしている。


 秋桜ちゃんの扱いもうまかったし、なんか意外と普通の女の子なんだな。   



 ベンチで、お互い無言になった。

 カラスが、かあかあと泣いている。


 俺が帰りを切り出そうとすると、雅さんは自分のことを話しはじめた。


 「わたしね、お母さまがあんなだから、皆んなに身構えられちゃって。友達少ないんだ」


 クラスでいつも取り巻きがいるし、そうは見えないんだが。


 雅さんのお母さんは、大学の先生だ。高校にもよく顔を出している。たしか、児童心理学で有名なんだっけ。


 あ、なるほど。

 それで雅さんも子供の扱いがうまいのか。


 「雅さん、友達多いじゃん」


 俺がそういうと、雅さんは、小さくため息をついた。


 「そう見えるだけだよ。だから、わたしを特別扱いしないアイラくんと話せて良かった。久しぶりにリラックスできたというか」


 それから、雅さんは自分について色々と教えてくれた。大学教授の母親がすごく厳しく、勉強だけの中学生活を送ったこと。

  

 実はアニメやゲームが好きなこと。でも、家族には内緒にしていたこと。


 苦労のなさそうなお嬢様も、色々と大変なんだな、と思った。


 「うん。お母様が教育委員会の顧問してるから、変なことできないし」


 「雅さん、すごく勉強頑張ってるのにね」


 「あの人には、それでも物足りないのよ。小さい時は、娘の不出来は自分の恥だって、叩……」


 「たたく?」


 「いや、なんでもない。ホント、わたしはずーっと我慢の連続だよ。髪染めたり、彼氏作ったり、バイトしたり。そんな毎日が送りたい。……あ、お母様からのメッセージだ。そろそろ帰らないと」


 雅さんは立ち上がると、スカートをパンパンと叩いた。


 「んじゃあ、また補習でね。あ、メッセージアプリのID交換しない?」


 「あ、いや。おれ彼女いるし」  


 しまった。

 これじゃ、自意識過剰みたいだ。

 変態勘違いヤローと思われたかな。


 「そっか。そうだよね……」


 そういうと、雅さんは帰っていった。

 肩を落としたように見えたが、気のせいだろうか。

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