第51話 そんな彼女と映画館。
一歌が好きって言ってくれた。
正直、このタイミングでくるとは思わなかった。
必要なのは、観覧車でも夕焼けでも、ムード満点のデートプランでもなかった。一歌が欲しかったのは、ただ「変わらない」という安心感だったのだ。
「パチパチ」
隣のカップルが拍手をしている。
気づけば、周りには数組のカップルやファミリーがいて、皆んなこっちを、優しい顔で見ている。
「涙を拭けだし」
一歌にハンカチを渡された。
なるほど。
俺が泣いているから、みんな注目してるのか。
「彼氏さん、よかったね」
見ず知らずのカップルの男性に、声をかけられた。
うう、恥ずかしい。
すると、一歌が手を差し出した。
「はやく映画館にいこっ」
映画館につき、ポップコーンや飲み物を買う。ドリンクを2つ買おうとしたら、一歌が「一緒がいい」とのことで、一つにストローを2本刺してもらった。
すると、一歌はストローを一本抜いた。
どうしたんだろう。
「ストロー、ゴミでもついてた?」
俺が聞くと、一歌が答えた。
「一緒のストローがいいの」
映画は新進気鋭のホラー監督の期待作ということもあり、思ったよりも数段怖かった。スリル満点で、場面が目まぐるしく変わっていく。
場面が変わる度に登場人物が死んでいき、その度に、一歌が手を握ってくる。
一番衝撃的だったのが、ヒロインが開始5分くらいで死んだことだ。しかも、回想シーンすらなく、そのあとは一切、出てこない。
(すげー展開だな。これヒロイン出す意味あるの?)
横を向くと、一歌は真剣に観ていた。
(話しかけるのはヤメとこう)
そして映画が終わった。
(スリルはあったけど、ヒロインへの謎でストーリーが頭に入ってこないし、ヒロインがばら撒いた伏線未回収だし、なんかモヤっとする内容だった……)
映画が終わると、一歌が肩に寄りかかってきた。
「面白かったね♡」
(なら良かったよ)
映画の後は、カフェに入った。
一歌は身振り手振りで映画について熱弁している。
「わたし、ヒロインは絶対最後まで生き残ると思ったし」
ま、それはそうだよな。
普通、ヒロインって死なないから。気づいたら死んでて、俺もビビったし。
「たしかに」
「それと、まさか自分が死んでいたとは思わなかったし!!」
「それな」
「でも、面白かったし!!」
一歌は大満足なようだった。
俺は正直、微妙と思ったが、あえて言うまい。
「んじゃあさ、ネットの口コミを見てみない?」
ネットで調べたところでは、口コミリサーチは、デート後の感想会を盛り上げるブースト効果があるとのことだ。
「みるみるっ。絶対に皆、★5(5個がMAX)に決まってるし!!」
一歌はとても楽しそうだ。
さて、どれどれ。
ユーザー名、マサ……「最悪の駄作。いきなりヒロイン死ぬとか意味不明。そんなヒロインそもそも出すな(★×1)」
うんうん。
俺もそう思う。
ユーザー名、キタ……「ヒロインが撮影途中で不倫バッシングで降板したという噂でしたが、映画を観て納得。無理にヒロイン除去したせいでストーリーが意味不明(★×1)」
ヒロイン降板したの?
どうりでストーリーが変なわけだ。
それにしても、アンチな感想ばかりだよ。
「ちょっとトイレいってくる」
一歌は突然、席を立った。
もしかして、一歌、気分を害した? これじゃ、ブーストどころか、恋人気分もしらけそうなんだが……。
一歌が、なかなか戻ってこない。
少し心配になっていると、さっきのサイトに口コミが一つ増えた。
ユーザー名、イチ……「大傑作だし。恋人も最高。いきなりヒロイン死ぬけど、きっと次作で生き返るし!!(★×5)」
イチって……わかりやす過ぎ(笑)。
ってか、たぶん。
これ、続編ないと思うぞ?
それに、この「恋人」は映画の主役のこと?
すると、一歌が戻ってきた。
ご機嫌だ。
「トイレでスマホいじっちゃいけませんよ?」
俺がやんわり言うと、一歌は少しあせあせした。
「だ、だって。悔しいんだもん。みんな、意見が偏りすぎ」
「ちなみに、恋人が最高って俺のこと?」
「きまってるし」
「どんなとこが最高なの?」
「大切にしてくれるし、優しいし、いつも安心させてくれるし……。かっこいいし。きっと子沢山してくれるし」
好意の理由が、前よりも具体化している気がする……。
ってか、この人、いま「カッコイイ」って言った? 女の子にカッコイイって言われたの、生まれて初めてだよ……。心の中のガッツポーズが止まらないぜ。
それにしても「子沢山する」という動詞を生まれて初めて聞いたぞ。
「一歌、子供好きなの?」
一歌は頬をピンクに染めた。
「好きな人の子供は好きに決まってるし」
それにしても沢山って……、俺が考えていると、一歌は続けた。
「あの、でも。ごめんね。スマホ、もうしません……」
一歌が一生懸命にコメントしてる姿を想像すると、少し笑えた。
ま、一歌は楽しそうにしているし、それだけでこの映画は満点なんだけどね。ちゃんと感想会もできたし、よかった。
カフェを出て、駅まで歩く。
一歌と初めて観た映画。
ずっと忘れないと思う。
って、さすがにクサすぎか。
この想いは、心に秘めておこう。
すると、一歌がタタッと駆けて振り返った。
「蒼くんと観た映画。ずっと忘れないよ」
「おれも」
「あとね……」
「ん?」
一歌は俯くと身体を左右に振った。
「好き♡」
脈略がないけど、嬉しい。
一歌は続ける。
「でもね……」
「ん?」
「ほんとは、ね。映画館で……、もう少しくらい、わたしに触れてほしかった♡」
「え? そういうのイヤなのかなって」
「蒼くんなら怖くないし。もっと可愛がってほしいの♡」
ええっ。
俺もしたかったけど、我慢したのに……。
「蒼くん。もっと可愛がってにゃん♡」
一歌はペロっと舌を出して、悪戯っ子のような顔になっている。
表情がころころ変わって、猫の目みたいだ。
そのコロコロのたびに、俺は楽しくて幸せにな気分になる。




