第50話 そんな彼女といつかの約束を。
先生はあのまま入院になってしまった。
補習については、来週から別の先生が来るらしい。
もしかして、新川先生。
担任も外されちゃうのかな。
辞めたりしないと良いのだけれど。
体調も段々と落ち着いてきているみたいだし、今度、お見舞いにでも行ってみよう。
さて、明日は土曜か。
デートプランを考えよう。
最近、バタバタしてたからな。ちゃんとデートできてなかった気がする。
一歌と仲良くしたいし。
付き合ってるのだから、デートするのは普通なことなのに、会う前には今でもドキドキする。
デート、どこいこうかな。
ちなみち、一歌に希望を聞くってのはナシだ。なにせ、ラブホとブタカフェしか言わないし。
最近は、外に誘っても日焼けがどうのとか言って断られることも減った。なので、意外に選択肢は多い。
やっぱ、山とか。
うーん。でも、一歌が山登り?
ぷぷっ。
似合わな過ぎでしょ。
それか遊園地は?
黄昏時の観覧車でキスとか。
そろそろ、好きって言ってくれるかも知れないし。
んーっ。
想像しただけで、たまらん。
ま、後は映画館とか?
普通すぎる気もするが。
そもそも、一歌はどんなジャンルの映画が好きかも知らない。
すると、一歌から電話が来た。
俺は時計を見た。
もう21時か。
「やほ」
一歌は元気だ。
「よっ。今日はバイトどうだった?」
「どうだったって。昼過ぎまでは一緒に働いてたでしょ?」
あ、そうだったな。
「それで、一歌さ。デートするなら、いきたくない場所ってある?」
俺は消去法で聞いてみることにした。
一歌が行きたくない場所を削除していくのだ。
「ん。蒼くんと一緒ならどこでも楽しいけど……、強いて言うなら、山と遊園地」
さすが一歌。遠慮してる割には、しっかり自己主張している。
これで、必然的に映画館一択になった。
「じゃあさ、明日は映画館いかない?」
すると、一歌の声のトーンが上がった。
「いくっ!! 映画館、超楽しみっ!!」
まさか、そんなに喜んでくれるとは。
でも、映画館なんてデートの定番だし、一歌は何度も行ってると思うんだが。
「そんな喜んでくれて嬉しいよ。もしかして、一歌は映画館にはあまり行ったことないの?」
「いや、そんなこともないんだけど。でも、いつも集中して観れなかったし、ちゃんと映画を観たいっていうか。映画終わって感想言い合ったり、そういうの憧れるっていうか」
ん?
どういうことだ?
映画館って、映画に集中する以外にやることないんじゃ……。それに、映画終わりの帰り道って、自然に感想会になるよ?
「そうなんだ? でも、映画館って集中する以外にすることなくない?」
「いや、いじられたりするし。ほんとイヤ。終わったら……ホ……テ……、あ、あっ。ご、ごめん……」
一歌の声から元気がなくなった。
どうやら、本気でしょんぼりしているらしい。
詳しく追求したいところだが、あれこれ聞かないでって言われたしな。ここは我慢だ。
話を変えるか。
すると、一歌から話をフッてきた。
「ごめんね。あの、蒼くんも胸とかいじっても……いいよ? スカートで行った方がいいかな」
この人。自分から何をされたのか明かしてるよ……。ってか「とか」ってなんだ?!
悔しい。
だから、俺は同じことはしないぞ。
俺は小物なのだ。
「いや、俺は映画に集中したいかな。せっかく一歌と観るんだし」
「……そっか♡ そういうの安心する。やっぱ蒼くんはいいなあ♡」
ん?
なぜか好感度が上がったらしい。
「んで、ジャンルは?」
「んーっ。アクションとかファンタジーは苦手かなっ。それと、サスペンスとか恋愛ものは寝ちゃうかも」
って、ほぼ全ジャンルNGじゃん。
あなた……、ほんとは映画館好きじゃないでしょ? つか、それ以外のジャンルはアニメかホラーくらいしか思いつかないのだが。
「じゃあ、ホラーにする?」
そう言うと、一歌は甘えた声を出した。
「ほらー? あまり観たことないけどOK♡ かわいそうなのかなー。ワクワクするのかなー。楽しみだなーっ」
ということで、デートは映画館でホラー映画になった。ホラーの詳細については、実体験してもらおう。
あっ……。
きっと、一歌は電話を切ったあと、さっきの失言に自己嫌悪になるんだろうな。
それはイヤだな。安心させたい。
一歌のトラウマを知ってから、言うのは、少し気が引けていたけれど。
「一歌、おれ、一歌のこと、ちゃんと好きだから。んじゃ、おやすみ」
俺は電話を切った。
翌日、待ち合わせ場所にいくと、一歌は亜麻色の髪になっていた。それと、チェックデザインで膝上くらいまでのワンピースを着ている。背中にはリボンがついていて、メイドさんっぽい。
気づけば、小麦色だった肌も、だんだん白くなってるような? 俺の好みに合わせてくれているのかな。
「ど、どうかな?」
一歌は、落ち着かない様子で言った。
「うーん。控えめに言っても世界一かな」
「あはは。世界一って、ぜんぜん控えてないし」
一歌は口を大きくあけて笑った。
「あはは。控えても世界一なんだよ」
きっと。
俺も今、同じように笑ってる。
そういえば、最初に告白されたとき、俺はこの子を「中身には期待しない、外見が可愛いければいい」なんて理由で受け入れたんだっけ。
少し前のことなのに、懐かしく感じる。
今は、一歌の好きなところをたくさん見つけた。だから、好きな理由の一番は「かわいい」ではないけれど。
でも、やっぱり、俺のために可愛くいてくれるのは、嬉しいよ。
俺は一歌の手を握った。
もちろん、恋人繋ぎだ。
すると、一歌は立ち止まった。
ん?
振り返ると、真顔だった。
改まって、どうしたのだろう。
「あのね、昨日はごめんね。わたしバカだから、ほんと無神経。でも、でもね。こんなわたしを、ずっと、ずっと変わらずに好きって思ってくれて……ありがとう」
「こちらこそ。会うたびに、好きって気持ちが溢れてて、一歌を好きじゃなくなることの方が難しいかな」
「うん」
一歌は目を閉じて、胸に拳を当てている。
「俺ね、思ったんだ。初めて告白されたとき、一歌のこと何も知らなかったけど、結局は、あの時からずっと好きなんだなって」
……こういうのを、一目惚れというのだろう。
「わたしも。昨日、話しててね。思ったんだ。わたし、蒼くんに好きって言ってもらうと安心するの。ほんとはね。蒼くんと会うまでは、男の子に好きって言われるのも怖かったの」
「俺も安心したいな」
つい、口から本音が出てしまった。
一歌は胸元の拳をギュッとした。
「わたしね。蒼くんの好きが変わらないのが嬉しいの。だから……好き」
「え?」
「蒼くんのこと大好きだよ」
一歌は笑った。
え?
聞き間違え?
このタイミングでくるとは。
やばい、すげー嬉しい。
色んなことが走馬灯みたいで、泣きそうだ。
「どれくらい?」
おれがそう聞くと、一歌は答えた。
「控えめにいっても、この好きは、世界一だし」




