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第5話 そんな彼女はスタンプがない


 その日以来、一歌はメッセージに返信してくれるようになった。そして、向こうからも不定期にくる。


 だが、どれも「ばか」、「きしょ」等の無愛想かつ意味不明な短文なので、全くやり取りが続かない。キャッチボールではなく、下手くそな監督の千本ノックを受けている気分だ。ま、陰キャモブの俺にとっては、かわいい女子とやり取りしているだけで、ご褒美なのだが。


 クラスにいても、一歌から話しかけてくることはない。でも、メッセージはくる。


 一歌は仲良し女子3人でいつも一緒にいる。3人とも、制服を限界突破で着崩していて、ギャルっぽい。いや、ギャルそのものだ。 

 

 まあ、派手なので3人とも悪目立ちしている。


 俺は今日も、数席先で話している一歌たちを眺めていた。


 すると、その中の1人がこっちに来た。

 彼女は山西 愛。ピンクメッシュのストレートヘアが威圧的な女の子だ。


 なんだろ。

 一歌のことを宜しくとか言われるのかな?


 山西は俺の前に立つと、俺を見下すように腕を組んだ。


 「きも。こっち見んなよ。モブ男」


 ……ま、まあ。

 そんなものだよな。


 きっと、これが彼女達のデフォルトの対応なのだ。すると、一歌が必死にスマホを打ちはじめた。


 もしかして、俺のこと慰めてくれるのかな?

 「そんなことないよ、元気だして!!」とか。


 内緒で付き合ってる彼女が、2人きりのときだけデレてくる、とか王道のラブコメ展開だし。


 ほどなく、一歌からメッセージがきた。


 「こっち見るな。このキモオタ童貞、おったて男!!」


 ……。

 おいおい、一歌さんや。

 山西より毒舌じゃないかね。


 しかも、おったて男って。

 この前のラブホのことか。事実だけに耳が痛い。


 「って、一歌だって、この前、当たって喜んでたじゃん」


 「バカなの? それ痴漢が言い逃れするときの常套句なんですけど? 童貞の上に変態とか。最悪すぎ」


 俺が一歌を凝視すると、目を逸らされた。

 そんなに嫌わなくてもいいじゃない。


 俺は反撃したくなった。


 「童貞じゃなかったりして」


 すると、視界の一歌は机につっぷした。


 「…ほんと? 他の子としたことあるの?」


 珍しく会話文がきたぞ。

 それにしても、俺の経験なんて聞いてどうするのかね。


 「うそだけど」


 すると、一歌からスタンプがきた。

 珍しい。


 そのスタンプは、笑顔のおじさんに包丁が刺さってるスタンプだった。


 ……。


 絵こそ、デフォルメされていて可愛らしい。

 でも、こんなサイコパスなスタンプ売っていいのか?


 一歌は、続け様にメッセージがくる。


 「……それで、土曜は何時に待ち合わせする?」 

 


 うーん。


 誹謗中傷はするが、日時の確認もしてくるとは。でも、先週も会ったし、俺なんかの相手してていいのかな?


 「ほんといいの? 別にイヤならいいんだけど」


 「は? こっちはバイトの曜日も変えたのに、会えないとかあり得ないんだけど」


 一歌は、なんだかご立腹らしい。


 それにしても、わざわざバイトの曜日を変えてくれたのか? それって、俺と会うのが、かなり楽しみってことだよね。


 本人に聞いてみるか。


 「バイトのシフト変えてくれたの? そんなに俺に会いたいの?」 

 

 視界の一歌は、足をバタバタして悶絶している。謎すぎる。


 「はぁ? バカじゃないの? こっちは責任があるっていうか、それだけだから!!」


 そっか。


 そうだよな。あんな派手派手美少女が、俺なんて相手にする訳ないし。


 俺が返信をやめて机にうつ伏せると、またメッセージがきた。


 「寝てるくらいなら、返信しろ!! あと、蒼は、わたしに着てほしい服ある? ナース服? チャイナドレス?」


 相変わらずこの子は。

 そんなんじゃ、外歩けないでしょ。


 「それコスプレだから……」


 外を歩けない服……。他の男とは、コスプレエッチとかしてたんだろうな。 

 

 ……なんだか、イライラする。



 そうだ。少し無理難題を言ってみるか。

 俺はメッセージを続けた。


 「そうだな、ワンピースのお嬢様っぽいのとか好きかな」


 さて、どんな返事が来るのだろうか。

 俺がニヤニヤして一歌を見ていると、一歌にすごい形相で睨み返された。


 やばい。

 怒らせたっぽい。


 「恥ずい。似合わないし無理」


 ……普通に似合うと思うんだけどな。


 

 そんなこんなで、土曜になった。

 俺は今日も駅前の時計台の下で待つ。


 待ち合わせ時間は12時。

 そして、今は12時45分。


 待たされる覚悟はしている。

 もう遅刻がデフォルトみたいなもんだ。

 13時までなら、腹もたたないさ。


 そして、13時になった。

 案の定というか、一歌はこない。


 メッセージを送っても既読にならない。

 これは、いよいよ……。


 ぶっちされたか?

 まあ、今まで来てくれていた事の方が奇跡なのだ。こんなもんだ。


 「あの」

 俺が腕時計を見ると、声をかけられた。


 「ごめん、遅れた」

 一歌だった。


 うんうん。1時間半待たされたね。

 でも、ちゃんとゴメンできたね? えらいえらい。


 「大丈夫」


 そういって顔を上げると、おれは一瞬、目の前の少女が誰だか分からなかった。


 「一歌?」


 今日の一歌は、髪色も亜麻色で、肩口にひらひらのついたワンピースを着ている。


 やばい。めっちゃ可愛い。

 タイプすぎる。


 この子、綺麗な顔だとは思ってたけど、俺の好みだったらしい。これで色白だったら完璧なんだけどな。おれは、いつものメイクが男避けの擬態になっていることに、ようやく気づいた。


 一歌は両手を身体の前で握りあわせると、言った。


 「ど、どうかな……」

 

 「すっげー、可愛い。一目惚れしそう」


 一歌はなぜか俺に背を向けた。

 なにやら、小さくガッツポーズをしている。



 2人で並んで歩きはじめた。


 すると、いかにもお嬢様な女の子とすれ違った。黒髪で真っ白な肌。ワンピースを着ている。


 やっぱ、清楚系は色白だよな。

 俺は無意識に目で追っていたらしく、一歌に袖を引っ張られた。


 一歌は頬を膨らませている。

 うん……、他の女の子を見たら失礼だよな。


 おれは、一歌だけを見ることにした。

 すると、目が合って、一歌が言った。


 「……きも。見るなよ」


 え……。

 俺はどこを見れば……。


 一歌を褒めてみよう。


 「一歌、可愛い」


 「……当然だし。でも、もう一回いって?」


 「一歌、すごーく可愛い」


 「それは大袈裟だし。あ、じゃあさ、他の子のこと好きにならない?」


 なんで一歌を褒めると、他の子の話が出てくるんだ?


 「……その予定はないけど」


 俺は初恋の子がいて、それ以来、他の子を好きになったことはない。だから、これは嘘ではない。


 すると、一歌が何かボソボソと言って手を握ってきた。


 そのボソボソ。

 普通は聞こえないだろうけど、俺は耳には自信があるのだ。だから、聞こえてしまった。


 「わたしだって、蒼がいれば、他の男いらないし」


 一歌はそう言っていた。


 いらないって、エッチのことかな。

 だとしたら、なにか素直に喜べない部分もあるが、逆のことを言われるよりは良いだろう。



 俺が空を見上げると、晴天だった。


 さて、どこにいこう。

 毎回ラブホじゃ申し訳ないからな。


 「今日は遊園地でもいかない?」

 やっぱ、デートといえば遊園地でしょ。


 「日焼けするし、ヤダ」


 「……」


 ヤダもなにも、あなた、最初から小麦色じゃないですか!!


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