第44話 そんな彼女の聞いてほしくないこと。
別れ際、俺は一歌に言った。
「な、沙也加の弟さんの墓参りに付き合ってくれないか?」
一歌は少し迷った様子だったが、頷いた。
「うん。大切なことだもんね。……わかった」
そんな俺には聞いてみたいことがあった。
「ところでさ。沙也加とどんなことしたか、もっと教えて欲しいというか」
なんだろう。
すごく興味があるのだ。
こうやって人は、NTRに目覚めていくものなのかも知れない。まぁ、童貞モブの俺には百万年早い気もするが。
「……そんなに知りたいの?」
一歌が小声でそう言った。
俺は頷く。
「わかった。一つだけなら答えてもいいよ」
まじか。
えーっと、何を聞こう。
すごく迷う。
あまり突き抜けた質問は、即答でNOと言われる可能性が高い。だから、絶妙な力加減が要求される。
「あのさ。沙也加が、一歌の乳首が立ってたって言ってたけど、何をされたの?」
客観的な事実を、主観を交えずに述べる。
……パーフェクト。
この紳士的な質問なら大丈夫なハズ。
一歌は足を擦り合わせて、耳を真っ赤にしている。よっぽど、恥ずかしいのだろう。
「んとね。その……ね。舐められた……」
俺が口を開こうとすると、一歌に遮られた。
「でもね。こういうの。女の子は大切な人だけには知られたくないものなんだよ……?」
俺は頷いた。
その様子を見て、一歌は声のボリュームを落とした。
「蒼くんに隠し事をしたいわけじゃないの」
一歌は俺の手を握った。
俺の目をじっと見つめている。
「でもね、興味半分で聞かれるのは、自分がモノ扱いされている気分になるの。だから、そういうのは、もう聞かないで欲しい……です」
そう言うものなのか。
男の俺には、思いもよらないことだった。
でも、理解した直後、俺は激しく後悔した。
一歌は自分が傷ついても答えてくれてしまう。
だから、こういう質問はもうやめよう。
そう心に誓った。
話を戻そう。
「さっきの沙也加の弟さんのことなんだけど、命日だったらしくて。でも、一歌の気が進まないなら、無理しなくていいんだよ?」
「ううん。わたしね、さーちゃんのこと嫌いな訳じゃないんだよ。辛い時に、精神的に助けてもらったのは本当だし。良い子だと思うし」
その週の日曜日。
駅前で3人で待ち合わせをした。
「やばい、遅刻だ」
一応、ちゃんとした服がいいかな、と思って服を漁ってたら、遅くなってしまった。
駅前につくと、2人は先に待っていてくれた。
一歌がブタカフェ以外で時間通りに来るなんて……。もしかして、時間にルーズなの直ったのかな。
一歌と沙也加。
やはり一歌の方が少しだけ大きい。
一歌は、大きなリボンのついたベレー帽をかぶり、半袖のパーカーで少しウエストが見えている。ボーイッシュな服装で、下はズボンだ。珍しい。
沙也加は黒のワンピースだ。肩から先はシースルーになっている。
……やっぱ、中学生にしか見えない。
2人とも美少女すぎる。
俺がこんな可愛い女の子2人とお出かけなんて、少し前には考えられなかったことだ。
「ごめん。遅れた」
謝ると、一歌はぷーっとなった。
「どうした?」
「蒼くん。いつもよりカッコいい服きてる……。さーちゃんいるからオシャレしたんだ……」
いや、ただのワイシャツなんだけど。
これで、おめかししてると思われてしまう俺って、別の意味でヤバくないか?
これからは、もうちょっと、身だしなみに気を使うようにしよう。
「沙也加もおはよ」
沙也加は「やほー」と手を振ると、俺と一歌の正面にたってお辞儀した。
「今日はありがとう。命日すぎちゃって、バツが悪くて陸に会いづらかったから、来てくれて嬉しいよ」
一歌は微笑んでいる。
なんだか、すごく優しい目だ。
やはり、元恋人だからか?
そう考えると、少しモヤっとする。
おれも、ヤキモチを覚えたかも。
そんな俺に気づいたらしく、一歌は俺の右手を握ってきた。それに対抗してか、沙也加は左手を握る。
(両手に花とはこのことだな)
すると、一歌が沙也加を睨みつけた。
「さーちゃんは、わたしの彼に触るなだし!!」
沙也加も言い返す。
「片方の手、空いてるしいいじゃん!! ボクも蒼きゅんと友達なんだし、手くらい握るさ!!」
まだスタート地点なんですけど……。
ふぅ。先が思いやられるぜ。
っていうか、これからお墓参りなのに。
陸くん。ごめんっ!!




