第42話 そんな彼女の秘密の過去。
食事がひと段落すると、一歌の部屋に案内された。
「あのね。これこの前のクジの景品のゲーム。一緒にやろ」
ゲームはまだ箱に入っていた。
俺は説明書を見ながら、テレビに接続する。
改めて周りを見渡す。
すると、オレンジ基調の可愛い部屋だった。部屋いっぱいに一歌の匂いがする。
俺がスーパーしていると、一歌が真っ赤になった。
「なんか、恥ずかしめられてる気がするんですけど……」
「じゃあ、本人を嗅いでもいい?」
「良い訳ないでしょ!! この変態っっ」
一歌に蹴られた。
さっきまでの絶望的な状況からの蹴りは、むしろ、ご褒美に感じた。
すると、一歌のスマホが光った。
「出ていい?」
電話は沙也加らしかった。
俺が頷くと、一歌は部屋から出て行った。
「それで、いーちゃん仲直りできたの?」
え? 沙也加の声?
部屋を見渡しても、一歌はいない。
どうやら机の上のスピーカーから聞こえているようだった。きっと、普段はハンズフリーで話しているのだろう。どういう設定なのか分からないが、この部屋のスピーカーにも同時接続されているようだった。
「うん……」
2人の会話が聞こえてくる。
気が引けるが、普段の一歌がどんな感じなのか興味がある。
スピーカーの消し方も分からないし、どうせすぐに戻ってくるだろ。
沙也加の声が聞こえる。
「そっか。よかった。いーちゃんが相手してくれないから、蒼きゅんに近づいてたんだけど」
「そんなのやめてよ」
「だって、蒼きゅん落とせば、いーちゃんだってボクの遊び相手してくれるでしょ?」
「しないし」
「ひどいよ。いーちゃん、ボクの気持ち知ってるくせに。いーちゃんといるとドキドキするし」
え。
どういうことだ? きもち?
女の子同士の会話ってこんな感じなの?
でも、もし、俺が隆に一緒にいてドキドキするとか話してたら、BLと思われそうなんだけど。
「わたしのは勘違いだし。蒼くんいるし」
2人の会話は続いている。
勘違い? 俺がいる?
俺と沙也加は対抗関係なの?
これって、もしや……。
「うん、ボク、蒼きゅんもいいなぁって。だから、3人で付き合おうよ」
さっき踏切で沙也加に提案された話し、本気だったのか。
「だから、あの時、ホテルで断ったじゃん。女同士は無理って」
ホテル……?
「そんなこといって。いーちゃん、キスしたら感じてたよ?」
「感じてないし」
「乳首たってたよ? あっちも……」
「って、待って!! なんか会話がキーンってハウってるんだけど。あ!! スピーカー!! わぁぁーー!!」
一歌がそういうと、スピーカーから「ブツッ」と音がして切れた。どうやらこの部屋のスピーカーの存在に気づいたらしい。
タタッと足音が聞こえてくる。
『百合』
俺の頭の中には、その言葉がリフレインされていた。




