表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】モブの俺。クラスで1番のビッチギャルに告白される。警戒されても勝手にフォーリンラブでチョロい(挿絵ありVer)  作者: 白井 緒望


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/107

第34話 そんな彼女の花火大会。

 

 一歌から聞いたことを考えていた。


 一歌パパや愛が、一歌は恋愛に臆病で繊細だというようなことを言っていた。それはきっと、さっき聞いた話が関係あると思う。


 一歌の経験が、彼女をすごく傷ついたことは想像に難くない。でも、その傷の痛みは、本人にしか分からない。まさか、本人に聞くこともできないし。


 でも、もし、俺が一歌の立場なら。 


 そんな経験をしたら、恋愛や性的なものを嫌悪するか、その逆かのどちらかだと思う。恋愛や性行為を無価値と感じて、相手の顔色を伺う手段にするかもしれない。


 一歌もそうなのではないか。

 自分に向けられる好意が怖くて、生き残るためのにえとして……自分を提供したのでは。


 だとしたら、ヤリマン、ビッチと言われていた彼女の実像は、全く変わってくる……。




 「くん。……そうくん?」


 気づけば、一歌が俺の顔を覗き込んでいた。


 「ごめん、ちょっとボーッとしてた」


 考えても仕方がないことだ。

 いまは、目の前の一歌をちゃんと見よう。


 「不安そうな顔をしてたよ? わたしがあんな話をしたから……?」


 俺は一歌をハグした。


 「そんなことない」


 「痛いよ? 蒼くん」


 「ごめん」


 「あのね。わたし、そんなに可哀想じゃないよ? あの人はそうだけど。その他は、少しは性欲的なものもあったし……?」


 前言撤回。

 もう、この子は。


 (サキュバスみたいなこと言ってるし……)


 そう思いながらも、俺は、自分の口角が上がるのを感じていた。


 もしかしたら、俺に気を遣ってくれてるのかな。謎だが、俺は一歌のこんなところも、嫌いではない。


 気づけば、16時を回っていた。

 花火大会は18時からだったっけ。


 そろそろ準備しないと。


 花火大会の会場には、色んな露店も出ているらしい。今日の夕食は、会場で済ませるつもりだ。


 すると、部屋のドアがノックされた。

 ドアを開けると、オーナーさんが立っていて、肩幅ほどの箱を渡された。


 「これ、お連れ様のお母様から届きましたよ」


 一歌は袋を受け取り開けた。

 すると、浴衣とカードが入っていた。


 一歌はカードを読み上げる。


 「「お誕生日おめでとう。やっぱり花火には浴衣よね」……蒼くん。ママからのプレゼントみたい」


 そういうと一歌は、浴衣を両手で持って、くるりとその場で回った。


 さすが四葉さん。

 ナイスプレゼント。


 中には、着付けの簡単なマニュアルが入っていて、一歌でも1人で着れそうだ。


 「着替えるなら、俺、部屋の外にいるね」


 「ううん、この部屋で一緒にいて」


 俺は同室を許された。

 背を向けているが、すぐそこで一歌が着替えていると思うと、すごい背徳感だった。


 ゴソゴソという音が気になる。


 「……一歌、いま何してるの?」


 「……ブラはずしてるけど?」  


 「見たい」


 「……、来年の誕生日ならいいよ……」


 今日の一歌は優しい。

 もう少し攻めても大丈夫かな?


 勇気を出して、次のステップの質問をしてみた。 


 「ち、ちくび立ってる?」


 トガッ。

 背中に鈍い痛みを感じた。


 「この変態!! シネ!!」


 怒りをかったらしく、背中を蹴られて、部屋の外に出されてしまった。


 廊下で待っていると、水着のカップルが何組か通った。みんな真っ黒だ。


 ここ下田は、白浜海岸が近い。

 白い底砂が乱反射して、海がエメラルドグリーンに見えるらしい。人気のスポットだ。


 「海は、次の楽しみかな」


 すると、扉が開いた。

 

 真っ白な浴衣だった。

 白地に、藍色のバラの模様が入っている。帯も藍色で、小さい子供がつけているような、ふわふわのヘコ帯だ。だが、真珠のついた飾り紐とボリュームのある巻き方で、なんとも色気がある帯に見えた。


 「ど、どうかな?」


 一歌は不安そうだ。


 「せかい……、世界一可愛いと思う」


 俺はびっくりしてしまい、気づけば、口から本音が出ていた。


 「えへへ。嬉しいし」


 一歌は両手を蝶のようにあげると、くるりと回った。


 「お、おう」


 「ねっ、いこっ」


 一歌に手を引かれて、外に出た。 


 (元気な一歌に戻ってくれて良かった)


 下田港に向かうペリーロードには、両側に提灯がかかり揺れている。7月の空は、まだ茜色だが、もう少ししたら、ユラユラと幻想的に街並みを照らすのだろう。


 一歌に手を引かれて歩く。

 2人を繋ぐ手は、恋人繋ぎだ。


 途中、カップルの若い男性や家族連れのお父さんが、何人も、一歌の方の振り返った。


 (ふふっ。可愛くて見てしまうのだな? その気持ちわかるぞ)


 俺は、気分が良かった。


 石畳の路には、沢山の露店が出ていた。

 焼きそば、おでん、たこ焼き、ソース煎餅など、多種多様だ。


 少し歩くと、一歌が立ち止まった。


 「あれ、型抜きだって!! うまくできると何かもらえるみたい」


 懐かしい。

 子供の頃、よくやった。


 画鋲を片手に、薄い板菓子を決まった形に切り離すのだ。うまく型抜きできると、店主のオジサンがポイント券をくれ、ためるとポイントに応じた景品と引き換えることができる。


 だがしかし、ポイントがたまる頃になると、オジサンは露店ごと居なくなるのだ。


 それにしても、さっきから一歌は、初めて来た子供のように大はしゃぎだ。もしかして、あまりお祭りには来たことがないのかな。


 「一歌、お祭りはあまり来たことない?」


 「うん。あまり来たことない。旅行もお祭りもあまり来たことない!! だから、すっごい嬉しい!!」


 一歌はまたすぐに立ち止まった。


 「蒼くん、あれ。紐を引っ張ると、ゲーム機が取れるみたい!!」


 あー、紐ひきクジだ。

 

 一歌よ。

 子供は皆、アレに鍛えられて、現実を知って大人になっていくのだよ。


 (あの紐、ほんとに景品に繋がってるのか? しかも、一回1,000円だって。高すぎる)


 「一歌、やめとけよ。あれは当たらな……」


 しかし、一歌は既にオジちゃんに一千円を渡した後だった。


 「おじちゃん。わたし、子供の頃、病気でね。あまり、旅行とかお祭りとかこれなくて。これ、ずーっとやってみたかったんだ。だから、すごく嬉しい」


 すると、おじちゃんは、うなじの辺りを何度か掻いた。そして、2束あるうちの奥の束を掴んで、一歌に差し出した。


 「お嬢ちゃん、おじちゃんも嬉しいよ。東京から? 下田を楽しんでな」


 一歌は、おじちゃんが差し出した束から一本を選んで、ぐーっと引いた。


 すると、なんと。

 一番大きい箱が引き上げられた。


 (マジかよ……)


 オジちゃんは、我が子を見るような眼差しをしている。ニコニコして箱を一歌に渡すと、周りにも聞こえるくらいの大きな声でいった。


 「まいったなあ。一等のゲーム機とられちゃったよ!! ハハッ。ウチはまっとうにやってるから、大損だぁ」


 (損して得とれってやつか)



 一歌は大喜びだ。


 「蒼くんっ。こんど、ウチで一緒にゲームやろ?」


 「そうだな。ゲームソフト持って遊びにいくよ」



 その後は、海が見える石段に座って、イカとたこ焼きを頬張った。


 一歌は俺の肩に頬を乗せて言った。


 「わたしね。旅行もお祭りも、ほとんど来たことなくて、すっごく嬉しいの。ありがとう」  



 俺はさっき聞いた、一歌の中学時代の話を思い出した。


 一歌は「好き」という言葉を怖がっている。自分の「好き」で、相手が変わってしまった経験があるからだ。


 だから、一歌より先に言わないといけない。

 変質する前に、俺の確定した気持ちを伝えたい。


 今までとは違って、ちゃんと真剣に。


 伝えないといけない。


 でも、ドキドキする。

 プロポーズする人の気持ちって、こんななのだろうか。きっと断られないと頭で分かっていても、俺の心臓は不安で酸欠になりそうだ。



 そのうち、花火がドンドンとあがり出した。

 夜空にのぼる花火が、真っ暗な海面を、一瞬、明るくする。


 一歌は、パラパラと落ちる火花に目を輝かせている。


 言わないといけない。

 ちゃんと勇気を出して、真剣に。


 一歌がこっちを見た。

 

 「どうしたの? 蒼くん。お腹いたい?」


 「一歌。うちら、付き合ってるのに、今更、こんなことを言うのは変だと思うかもだけど……」


 「ん?」


 「一歌に告白されたとき、半信半疑だったんだ。俺みたいな地味な男に、一歌みたいな子が声をかけてくれるなんて」


 ま、罰ゲームだったみたいだけど。

 でも、俺を選んでくれた。


 だから、ちゃんと伝えたい。

 今、一歌と付き合っているのは、俺の意志なのだ。


 「だから、伝えたいんだ」


 俺は言葉を続けた。

 一歌は、俺の目をじっと見ている。



 「一歌のこと好き、大好きだよ。……俺と付き合ってください」



 俺の好きは、自分勝手で独りよがりなんだろうか。一歌には、歪に見えるのだろうか。


 俺も不安だよ。

 俺の言葉が、また君を傷つけるのかも知れない。



 一歌。


 俺ね。子供の時、初めて「好」って文字をみたとき。お母さんが子供を抱っこしている形に見えたんだ。大事に大事に、子供を抱いている。


 この子は元気に育つかな?

 この子は幸せになってくれるかな?


 イジメられたりしないかな?

 いま、幸せと感じてくれてるのかな?


 きっと、そう想っている文字。



 だから、伝えたよ。

 ……この気持ち、一歌に伝わるといいな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランキングサイトに登録しました。 面白いと思っていただけたら、クリックいただけますと幸いです。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ