第29話 そんな彼女のプレゼントさがし。
すると、愛紗が身を乗り出した。
「おじ……、片瀬さん。ちょっとサブカルチャーに造詣のある、年下の女の子とかどう思いますか? それとご年収は?」
パチン!
「いたっ。このアホソウタめ。何すんだよ!!」
デコピンしてやった。
愛紗は両手で額を押さえている。
「それはこっちのセリフだ。おまえ、初対面の人にどんだけ失礼なんだよ」
俺が謝ると、お父さんは笑って許してくれた。いい人でよかった。
少なくとも、短気な人ではないらしい。
「一歌さんは、高校で仲良い友達が2人いて、いつも楽しそうにしていますよ」
「そうか。よかった」
悪評のことは、あえて言う必要はないだろう。
一歌の話を聞いているお父さんの目は潤んでいるようだった。
一歌の話だと、お父さんは、四葉さんから別れを切り出されたとのことだった。お父さんは、まだ四葉さんに未練があるのだろうか。気にはなるが……。
(気軽に聞けることでもないか)
せっかくの機会だ。
他のことで、聞いておきたいことはあるかな。
すると、愛紗がまた乗り出した。
「片瀬さん。一歌さんの欲しそうな物わかりますか?」
愛紗ナイス。
お父さんは顎に手を添えた。
「うーん。教えてあげたいところだけど、いま、一緒に住んでる訳じゃないからなぁ。むしろ、僕が知りたいくらいかも」
それはそうだよな。
では、そろそろ、失礼させてもらって買い物を続けるか。
俺が挨拶しようとすると、お父さんが何かを思いついたらしく、手を叩いた。
「そうだ。ブレスレット。ちょうど、妹さんがしてるイヤリングについてるパールみたいなの? そういうの好きかも」
愛紗のイヤリングをみると、紫色のパールがついている。でも、パールのブレスレットって、数珠みたいなんだが……。
マダムならともかく、女子高生がそんなの喜ぶの?
「……教えてくれてありがとうございます」
でも、貴重な肉親からの情報だ。
……そろそろ買い物の続きをしないと。
「んじゃあ、そろそろ……」
俺がそう言いかけると、お父さんは言った。
「藍良君。一歌は、色々なことがあって……恋愛に臆病だったり、不器用なところがあると思うけど、仲良くしてやってくれな」
「もちろんです!!」
「あ、藍良くん。ご両親は元気?」
「え。うちの親とお知り合いなんですか?」
……一歌パパは、四葉さんと父さんの関係を知っているのか!? 四葉さんのとのことを、母さんも知っているようだったし、どういうことなんだろう。
お父さんは、咳払いをすると言った。
「いや、元気にしてるなら、いいんだ。……俺らとは違うか。変なこと聞いてごめんな」
(……デリケートな話題だろうし、これ以上、立ち入らない方がいいか)
俺と愛紗は、パフェのお礼をして、その場を後にした。片瀬さんが見えなくなると、愛紗が手を握ってきた。
「あのおじさん。まだ一歌ちゃんのお母さんのこと好きなんじゃない? せっかくお金持ちになっても、ひとりぼっちじゃ寂しいよね」
たしかに、そうなのかも知れない。
そして、マトモなことを言っている我が妹の成長に、ちょっと感動した。
愛紗は続ける。
「年収、億とかかなぁ。そしたら、わたし、ずっとニートできるかな……。課金も無制限かな……、ふひひ」
愛紗はニヤニヤしている。
「おまえなぁ……。ちょっと感動しちゃった俺の気持ちを返せ!!」
ま、こんなもんだ。
それにしても……、思いがけず、一歌パパに会ってしまった。この話したら、一歌、驚くだろうなぁ。明日の楽しみが、ひとつふえた。
それから買い物を続けたが、良さげなものを見つけることはできなかった。さしたる収穫もなく家に帰り、俺はベッドに顔を埋めている。
(もう、首にリボンを巻いて「俺がプレゼントです」とかでもいいかな……)
すると、愛紗が部屋に入ってきた。
「おまえな、入ってくる時はノックくらい……」
「兄貴、わたしのイヤリングのパール、ママに聞いたら、まだ余ってるって!!」
「えっ。あのイヤリングって手作りなの?」
「うん。ママに作ってもらった」
母さんはキッチンにいた。
「母さん、愛紗が言ってたんだけど、パールってまだあるの?」
「あるわよ。なに? 必要なの?」
「ブレスレット作りたいんだ。手伝ってくれないかな?」
「いいわよ。一歌ちゃんのプレゼント? ブレスレットなら、パールは20個くらいは必要ね」
そういうと母さんは、納戸でガサゴソと何かを探しはじめた。
「あぁ、あった。これね」
そう言う母さんの手には、小箱が抱えられていた。母さんは、箱の蓋をフウッと吹き飛ばすと、紫のパールと、ワイヤー、留め金具を取り出した。
「母さん。これは?」
「あなたが子供の頃によく使ってた小物入れよ」
母さんは俺の頭を撫でてくれる。すると、自分が子供の頃に戻ったような気分になった。
それから、母さんと一緒にブレスレットを作った。この歳になって手作りのプレゼントとか、ひかれるかな。
一歌、喜んでくれるといいのだけれど。




