第28話 そんな彼女は何が好き?
今日は7月28日。
旅行の前日だ。
俺は買い物に来ている。
明日の準備と、一歌の誕生日プレゼントを買うためだ。
何がいいかな。
正直、全く分からない。
昨日の夕食の時に、それを相談したら、何故か愛紗もついてきた。こんなのでも、いないよりはマシだろう。
それにしても、今日の愛紗……。
普通の服装だ。
女の子っぽいワンピースを着て、珍しくイヤリングをしている。普通にしてれば、可愛いのにな。
……さて、プレゼントは何にしよう。
愛紗に相談してみるか。
「Tシャツなんてどうかな?」
「兄者よ。サイズは分かるのか?」
「普通にMじゃ?」
「いや、一歌ちゃんのあの目つき、あれはきっとドSじゃな」
店内に入って物色すると、愛紗が平仮名で「まじょ」と書かれた変なTシャツをもってきた。
「妹よ。さすがにコレはないかと」
「そうか? 愛があれば乗り越えられるハズ」
「いや、誕生日プレゼントで意味不明な試練とか課したくないんだけど」
受け取ってはくれると思うが、これを外で着てくれるとは思えんよ。
ボツにすると、また愛紗はどこかに行った。
「ほれ、これはどうだ? 実用品だぞ?」
今度は六芒星のついたコンドームを持ってきた。
(こいつ、こんなんどこからもってきたんだよ)
中2の妹にゴムを渡される兄。
周囲の視線が痛いぜ。
愛紗は二重で目が大きい。
他のパーツもまとまりがよく、顔はそこそこ可愛い。普通なら、男ウケも悪くないと思うんだけど。こんなんじゃ、カレシとか、まだまだ先だろうな。
「いや、これはナイ。戻してこい」
「じゃあ、わたし、自分用にするから買って」
何が悲しくて、妹のゴムを買ってやらねばならんのだ。
「ってか、お前、使うアテあるの? 彼氏いるとか」
「ある。そして、イル」
え。ちょっとショックかも知れない。
「……ショック? お兄ちゃん」
「いや、あ、やっぱ少しショックかも」
すると、愛紗が腕を組んできた。
「相手はキ•ミ❤︎」
は?
「妹からのそういうフリとか、まじひくわー。これ戻してこいよ」
「恥ずかしくて……無理」
何こいつ、なんでいきなり乙女になりやがってるの。仕方なく俺が返しにいくと、すごく不審な目で見られた。
そりゃあ、そうだよな。
中2女子が待って行ったゴムを高2男子が返しにきてるんだもん。不審だよ。
戻ると、愛紗がニヤニヤしていた。
ほんとコイツは……!!
1人で来ればよかったぜ。
その後はゲームコーナーに連れて行かれ、UFOキャッチャーで愛紗が欲しい変なネコのヌイグルミをとらされた。
愛紗はご満悦だ。
「んじゃあ、用事も済んだし、そろそろ帰るかの?」
どんだけ自分本位なのよ。
「いや、まだ用事は全く済んでないし。お前、役に立たないし、先に帰ってていいよ」
愛紗は大きな目をパチパチさせた。
「あのね。お兄ちゃん。わたしたち、実は血が繋がってないの……」
俺の呼び方をコロコロ変えるのやめて欲しいんだけど。つか、俺も知らないような血縁の秘密を、年下のお前がだけが知っているとか、普通にあり得ないし。
「はいはい。お前が生まれた瞬間、俺も病院にいたから、それは絶対にない」
本当は、小さな頃の記憶なんて曖昧なんだけどね。
「お兄ちゃんは、つれないねぇ。こういうのを王道展開っていうんだぞ♡ 」
「お前といかなる展開も欲していないんだが……」
「ほんと、わかってねーな、このモブ兄は……」
お前に言われたくない。
「君、蒼くんだよね?」
すると、背後から男の人の声がした。
振り向くと、見覚えのある男性だった。
「あっ。ハイ」
服装が違うので、わかりづらかったが、この人、一歌のお父さんだ。
「やっぱり。一歌から君の写真を見せてもらってね。それでこの可愛い子は?」
あぁ。愛紗のことを勘違いして声をかけてきたのか。
すると、愛紗は不安そうな顔をして、俺の腕を組んできた……。目は何故か潤んでいる。
「蒼くん。……この人は?」
あなた、今まで一度もそんな呼び方したことないでしょ? 紛らわしいことするのヤメテ。このひと、嫌がらせの天才なんだけど。
「あ、こいつ妹なんです。ほんと、ただの妹です」
俺は一歌のお父さんに訴えた。
「そうか。なら良いんだけど。いきなり声をかけてゴメンね。君の写真、見せられてたから、つい、気になっちゃってね」
「こちらこそ、なんかすいません」
一歌のお父さんは、短髪でさっぱりした印象の男性だ。服装はポロシャツにストレートのパンツで、年齢は父さんと同じくらい、40代前半に見える。
一歌の話から、もっといい加減な人を想像していたんだけど、ピシッとした真逆のタイプだった。
「あっ、せっかくだし、少し普段の一歌の話を聞けないかな。そこの妹さんも……、おいしいパフェをご馳走するよ」
「兄者。わたし、この人のお願いを聞いた方がいいと思うの」
愛紗は大きく頷くとそう言った。
パフェ目当てか。
「わかりました。あ、俺、藍良 蒼と言います」
「わたしは、片瀬 光顕といいます。今更だけど、一歌の父です。あいら……」
「どうかしましたか?」
「……いや、なんでもないよ」
俺と愛紗は、お父さんに連れられて、おしゃれなカフェに入った。ここは確か、最近、話題になっているお店だ。テレビなどでも紹介されていて、都心の一等地を中心に何店舗かあるらしい。
そういえば、一歌のお父さんは、なんでこんなところにいるんだろう。ここはファミリー層が多い商業施設だ。
もしかして、再婚しているのか? 子連れとか。俺がキョロキョロしていると、お父さんは言った。
「今日は仕事も兼ねていてね。あ、相澤くん、この2人にスペシャルパフェを」
店員を名前呼び?
やけになれなれしい口調だな。常連?
まさか、あの店員さんが、今の恋人とか?
「は、は、はい。オーナー」
えっ。一歌のお父さん、ここのオーナーなの? この店ってたしか、他業種の上場企業が展開してるってきいたけど。
一歌のお父さんって、もしかして、社長さん?!




