第24話 そんな彼女の家庭訪問。
今日から一歌が勉強を教えてくれる。
勉強会はウチですることになった。
昨日の一歌の話。
あれから色々と考えてしまった。
ウチの高校は一応は進学校だ。だから、テストも実際の大学入試問題が使われていたりして、簡単な方ではない、と思う。
それなのに、だ。
他の生徒が80分で解く問題を5分……、問題を読む時間を引いたら、実質1,2分しかかかってないだろう。
正直、得意を通り越して、異常だ。書くのが苦手なのは、思考が早すぎて追いつけないということなのかも知れない。
昔、数学の天才と言われた人の幼少期のエピソードで、同じような話を聞いたことがある。
一歌みたいな子は、きっと国内の大学じゃ物足りないんじゃないか?
海外の大学に行くことになるかも知れない。
……いや、きっとそうなる。
そんな時に俺が足枷になるのはイヤだ。
俺は凡人だから、今から、一緒に行けるように準備しないと。同じ学部は無理でも、せめて、同じ大学にいけるように。
だから、昨日、両親と話した。
「おれ、海外の大学を志望するかも知れない。負担をかけたらゴメン」
2人とも、むしろ喜んでくれた。
父さん、母さん。ありがとう。
ピンポーン。
一歌が来たみたいだ。
今日に限って、何故か家族が勢揃いしている。
皆、頼んでもいないのに、都合をつけてくれたらしい。
父さんに至っては、わざわざ仕事を休んだっぽい。
モブの息子に彼女ができたのは、藍良家の一大事なのだ。
彼女に勉強を教えてもらうだけなのに、こんな大事になってしまった。なんだか、すごく緊張する。
「いらっしゃ……い」
玄関ドアを開けると、目の前の美少女に、俺はハッと息を飲んだ。
黒髪でお嬢様系のワンピースをきている一歌。肌色もメイクだろうか。ラメでキラキラしていて、いつもより色白に見える。
やばい。
一目惚れしそう。
もうしてるけれど。
でもな。一歌。
前に、金髪はポリシーみたいなこと言ってたけど、いいのか?
目が合うと一歌は膨れた。
「文句あんのかよ。ロリ男」
お嬢様な服でも、中身は元のままらしい。
「いや、ないけど、髪色……」
一歌は前髪をペタペタと直した。
「変と思われないかな?」
今日のために染めてくれたのかな。
相手に合わせるのは一歌らしくないけれど、俺のために、そんなことまでしてくれるのは、ちょっと嬉しい。
「いや、いいと思う」
ま、ウチの父さん、普通に金髪の長髪なんだが。どうせすぐ気づくことだ。触れるのはやめておこう。
「いらっしゃい!!」
すぐに家族がやってきた。
父さんと母さんは、一歌をジロジロみている。
「へぇ。可愛らしいお嬢さんじゃん。正直、蒼にはもったいなさすぎる」
「ほんと、可愛らしいわね」
一歌は前髪を引っ張って顔を隠すような仕草をした。
「片瀬、片瀬 一歌といいます。あの、本日はお日柄もよく……えっと、あの。その、蒼くんをわたしにくださいっ!!」
え。
この人、テンパるにも限度ってもんが。
すると、父さんと母さんは顔を見合わせた。
「片瀬……?」
「え、あの。ハイ……」
一歌はとまどっている。
父さんが言った。
「たしかに、四葉さんによく似て美人だ。一歌ちゃん、お母さんに似てるって言われない?」
(あれっ。たしか、四葉さんも意味深なこと言ってた。ダメだ。父さん。ここには母さんもいるんだぞ? 昔の女の話はダメだ!!)
「よく言われます……」
「あなた!! 蒼の彼女ちゃんに鼻の下を伸ばすんじゃありません!!」
ほら。母さん怒ってるじゃないか。
これはもしかしたら、藍良家解散の危機かもしれない。
「あの。ママとお知り合いなんですか?」
一歌は聞いた。
……答えを聞くのが怖い。
馬鹿正直に元カノって答えられても困るが、自己保身のために嘘をつく父さんをみたくない。
すると、なぜか母さんが答えた。
「んー。まあ、昔の話かな。片瀬 一歌ちゃん。蒼をもらってくれてありがとうね」
母さんはそう言うと、笑顔で一歌の手を握った。どうやら、ブチギレてはいないらしい?
……父よ。
寛容な妻でよかったな。
そんな俺の両親の様子を見て、一歌は笑顔で言った。
「はい。大切にしますっ!!」
ん?
俺は、もらわれたっぽい?
明日から、片瀬 蒼?
俺が狼狽えていると、父さんが言った。
「一歌ちゃん、ノリいいね♪」
「えへへ。ほんとに欲しいけど、まだ学生だから、働き始めてからでお願いしますっ!!」
俺としては、どう反応していいか分からないが、とにかく、一歌の印象が上々なようでよかった。




