第22話 そんな彼女の期末試験。
「そこまでっ」
担任の声で、皆、ペンを机に置いた。
一学期の期末テストが終わった。
……後は、一歌と旅行に行くだけか。
あ、水着とか買いにいかないと。
一歌、胸大きいし、水着姿が楽しみすぎる。
数席離れた一歌を見ていると、俺の視線に気づいた一歌が、ベーっと舌を出した。
やばい。
ヘラヘラしてるのバレたかな
あとで「エロい目で見るな!!」とか、クレーム言われそうだ。
スマホをみると、着信で画面が光っていた。
一歌からのメッセージだった。
「皆の前で、そういうの恥ずかしいから。そういうのは2人きりの時にして欲しい……」
えっ!?
2人きりならいいの?
これって、海に行く前に、部屋で水着鑑賞会とかさせてくれる展開?
四つん這いにさせたりして。
最高すぎるんだけど。
すると、また一歌からメッセージがきた。
「目つきがエロすぎる。ヨダレでてるし。蒼は、変態ロリ男だから、やっぱダメ!!」
……エロすぎはダメらしい。
パンッ。
音のした教卓の方を見ると、先生が出席簿をもって、こっちを見ていた。
「藍良君!! まだ説明は終わってませんよ」
先生は続ける。
「明日と明後日は、自宅学習で休み。休み明けは、答案返却と解説をします。赤点をとった者は、再試験。それに合格するまで、夏休みも学校に来ることになるから、そのつもりでいてください」
俺は隆に聞いた。
「な、隆。赤点って何点からだっけ?」
「39点以下。なに、お前、ヤバいの?」
「いや、そんなことはないんだけど……」
(再試験とか、夏休みの登校は大変すぎるし、下手したら旅行の日程に被るかも……。一歌。大丈夫かな)
ちなみに俺は、モブらしく中の下くらいの成績だ。優はつかないが、不可にもならないバランス感覚。数学は苦手だが、現代文は得意なので、それにいつも救われている。まあ、万が一、数学で落ちても、得意科目の余剰点を考慮してくれるらしいし、大丈夫だろう。
帰り道、一歌と帰る。
心なしか、一歌に元気がない気がする。
「どした? 一歌」
「試験、わたし。現代文苦手なんだ。大丈夫かな……」
すごく、しおらしい。
そんなに旅行を楽しみにしてくれてるのか。
ま、受けてしまった試験の結果は変えられないし、なにか気分転換はないかな。
「あ、一歌。帰り道に、スポーツ用品店につきあってくれない? おれ、水着もってなくてさ」
「うん。いく!!」
スポーツ用品店にいくと、夏が近いこともあり、水着フェアをしていた。
男女の水着をペアで買うと、2着目を無料にしてくれるらしい。つまり、男の水着を買えば、女の子の水着はタダなのだ。
すごいサービスだ。
「一歌、せっかくのフェアだし、水着を選びなよ。俺が買えば、水着もらえるよ」
「え。わるいし」
「いや、全く悪く無いよ。俺の金額は変わらないし、むしろ、貰わない方が損っていうか」
「そっか。ありがとう!! 蒼からプレゼント。うれしい♡」
一歌は、はしゃいでいる。
少しは元気でたかな? 喜んでくれてよかった。
いつものことだが、男の水着選びは、すごくつまらない。
……消去法なのだ。
予算内のいくつかの選択肢から、不要な枝を切り捨てていく。そして、「ま、これでいいか」という妥協の結果で、自動的に決まる。
中には、少しくらい「いいな」という物もあったりはするが、あくまで誤差の範囲内で、予算の壁を突き破るような物ではない。そして、たまに凄く気に入るのがあると、異様に高い。
そんな訳で、決まるのは早いが、感動はない。
物を買って、こんなにときめかないことってあるんだろうか……。よく母さんが「男の子は、服を選ぶ楽しみがなくて、つまらない」と言ってたが、今は、その気持ちが分かる。
「どしたの? 蒼? なんか遠く見てるよ?」
俺が諦観していると、一歌に声をかけられた。
一歌は何着か水着を持っている。
「どれが好き?」
「一歌の好みで選びなよ」
「蒼が好きなのじゃないと意味ないし」
「ん。でも、水着だけじゃイメージわかないよ」
「なら、試着するね!!」
それから、何着か試着してくれた。
白いの、青いの、スカートみたいなのがついてるの。
正直、どれも似合い過ぎていて、決められない。ワンピースの時は、色白の子に目がいってしまったが、水着に関しては、健康的な小麦色は、最強だと思う。
「今のなら、どれでも良いと思うよ」
一歌はむくれた。
「わたしの水着なんて関心ない?」
「いや、どれも似合い過ぎてて分からないんだよ。99点と100点を比べてるみたいで難しい」
「そっか」
一歌はシュンとした。
「でも、その中でも、さっきの白いのがいいかな。スカートみたいなのが付いてたヤツ。他の男に一歌の裸を見せたく無いし……」
すると、一歌は分かりやすく笑顔になった。
「そっか。蒼はわたしの裸を独占したいのか♡」
なんか、やや卑猥な意味に誤変換されてる気が、まあ、間違ってはいないか。
レジで会計をしてもらう。
すると、レジを打っていた店長さんが、一歌の水着を持って首を傾げた。
「うーん。ごめんね。これは、フェア対象外なんだよね……」
案内の説明文を見返してみると「〜ただし、フェア対象は、10,000円の商品まで」と書いてあった。
一歌の水着は、それを500円ほど超えていた。
「そうですか。他の選びます」
一歌は、肩を落としている。
今にも泣きそうだ。
「あの。差額の500円を払いますので、なんとかなりませんか?」
俺がそういうと、店長さんはパンッと手を打った。
「おじさんも、女の子泣かせたくないし、お嬢ちゃん可愛いから、特別サービス!! いいよ。それ無料で。さっきは悲しませてごめんね。これオマケ」
店長さんの裁量で、追加料金も不要になった。しかも、オマケでシュシュまでもらった。
「ありがとうございます♡」
一歌は大きくお辞儀をすると、店長さんに手を振って店を出た。
「えへへ。シュシュもらっちゃった。これカワイイ」
一歌がもらったシュシュを見せてくれた。
たしかに、リボンやビーズみたいなのが編み込まれて、凝っている。
あれ。
値札がついているぞ……?
ん。
2,500円!?
「マジか……」
衝撃で思わず声に出てしまった。
美人は得って、どうやら本当のことらしい。
ま、イケメンも得なのかもしれないが、平凡な俺には確かめる術がない。




