第21話 そんな彼女は駄々をこねる。
食事をしていると、その家の人間関係がよく分かる。
ここでの一歌は、学校とは全然違った。よく笑う普通の子だった。
お母さんに心配かけないように、いい子を演じているのか、学校では悪ぶっているのか。
あるいは、どちらでもないのか。
食事がひと段落すると、3人はデザートを物色しはじめた。
(そろそろ言わないとな)
俺は旅行の話を切り出した。
「あの。一歌さんと泊まりで海にいく許可をいただけませんか?」
四葉さんは、目を細め、俺を値踏みするように見た。
「んー。君のことイヤな訳じゃないけど……」
やばい。
断られそうだ。
「あの。寝室は、もちろん別々にします。一歌さんには、変なことはしません」
「んー。でもねぇ」
すると、一歌が会話に入ってきた。
「あのね。わたしは、最初、愛と行くことにしたらいいと思ったんだ。でも、蒼くんが、嘘はダメだって。蒼くんは信用できる人です」
んー。
俺を全肯定してくれる我が彼女。
尊すぎるぜ。
四葉さんは、肘をかかえて首をかしげた。
「君たち、まだ高校生だからねぇ。日帰りならともかく……」
四葉さんは、一歌を見ると彼女の手首をつかんだ。
「一歌、ちょっといい?」
2人で席を外した。
テーブルには、俺と妹さん(歌葉)だけになった。ちょっと気まずいな。
すると、歌葉ちゃんが言った。
「おにーちゃん。おねーちゃんと、どこまで行ったのー?」
は?
この子、保育園児だよな。
ほんと、女子ってすごい。
そりゃあ、同い年の男子のことがガキに思える訳だ。
「え、えと。きっと、新宿駅くらいまでかな〜?」
すると、歌葉ちゃんは頬を膨らませた。
「子供だと思ってバカにしてないー?」
いや、あなた。
現に思いっきり子供だし。
「こまったな……」
すると、ドンとテーブルを叩く音がした。
「歌葉にセクハラしないで。ロリ男」
一歌だった。
歌葉を抱きしめて、俺をキッと見ている。
いや、セクハラうけてるのは、むしろ俺の方なのだが……。
四葉さんも戻ってきて、席についた。
「こほん」
俺はすごく緊張している。
だって、ダメって言われたら、それで終わりなのだ。
四葉さんは続けた。
「旅行の予定はいつなの?」
「夏休みの7月29日からいくつもりです」
「7月29日ね。ふぅん。そうかそうか」
なんだよ。
意味深だな。
四葉さんは続けた。
「旅行は……、いいわよ。いってらっしゃい。ただ、節度はわきまえるようにね。……信用してるわよ? 蒼くん」
「ハ、ハイ! もちろんです」
よかったぁ。
心の底からホッとした。
「でも、どうしてOKしてくれたんですか?」
「んー、それはねぇ。一歌が……」
「わー!! ママだめっ!!」
一歌が俺と四葉さんの間に割って入った。
鉄板の熱気のせいだろうか。一歌の頬は赤みを帯びて見えた。
「え、なんで? 別に恥ずかしがることじゃないじゃない。初こ……」
「もう。ママ、やだ……」
一歌はむくれてしまった。
「まぁ、娘が彼氏を紹介してくれたの初めてだし、楽しかったわ。これからも、うちの娘をよろしくね。……藍良くん」
ご馳走になったお礼を言って、解散になった。
「駅まで送る」
一歌が追いかけてきた。
2人で並んで歩く。
「一歌。さっきの四葉さんが言ってたのって何? 初がどうとか」
一歌は、目をキョロキョロさせた。
「は、は、は、ハツマグロ!」
は? なにそれ?
……しりとり?
「ロリコン!」
「……それ、オマエのことだろ。しかもンで終わってるし」
一歌はジト目で言った。
「ってか、なんで俺ら、しりとりしてんの?」
「わかんない」
一歌は笑った。
「そういえば、一歌。誕生日はいつ?」
一歌は前髪を顔の方まで引っ張ると、身体を横に振った。
「ん。7月29日だよ?」
「え。旅行の日じゃん!!」
「びっくりした?」
「うん。わりと本気でビックリした……」
一歌は後ろ手を組むと、こちらを見て前屈みになった。
ショーウィンドウの光が反射して、彼女の笑顔を、ぱあっと花が咲くように照らし出す。
「えへへ。サプライズ成功♡」
一歌はニコニコしている。
満足してくれたようで良かった。
2人でいると、些細なことも、すごく楽しくて鮮やかに感じる。
そんな彼女に出会えたことこそ、俺にとっては一番のサプライズなのだ。




