第19話 そんな彼女は旅行にいきたい。
俺は、部屋に戻りチケットを眺めている。
さて、どうしよう。
海に花火、俺的には最高の組み合わせだ。
だが、女子的にはどうなんだろうか。
濃過ぎないかな。
我が家の一応女子に相談してみるか。
愛紗の部屋をノックする。
「何者だ?」
中から厨二病の芳ばしい声が聞こえた。
「兄だ。ちょっと相談事があるんだが」
「あー、新しい女のことか?」
「だれだよ、それ。ってか、新しいもなにも、初めての彼女なんだが」
ドアを開けると、藍紗が泣き真似をしていた。
「我との結婚の誓いを忘れたのか? 前世で誓ったではないか。来世では、兄妹……どんな関係でもいいから近くにいようと……」
「ほお。世の兄妹はみんなそうなの?」
「我の調査によると、世の兄妹の99%は、運命的な再会」
「99%……。そうか。残念、ウチは残り1%だったな」
「みなまでいうなあぁ」
みなまもなにも、普通に家に2人だけなんだけど。愛紗は、ちょっと面倒くさいヤツだが、悪いヤツではない……と思う。
「まぁ、なんでもいいんで、教えてくれ。旅行に花火。女子的はどうかな?」
「そんなの決まっているであろう。花火で盛り上げて、夜のスキンシップで夢中にさせてやれ」
は?
なんてこというんだ。
こいつ、中2なんだけど。
世間の中2女子とは、こんななのか?
妹の猥談とか、マジでひくんだが。
愛紗は続ける。
「童貞モブの兄貴には無理か。ま、追加でサプライズ入れたらいいんじゃないか? もとから感動してるなら、チョロいぞ? めっちゃ効率いい」
効率って。。
……おれ、なんか。
こいつが怖い。
中2でコレ。
大人になったら、どんなことになるんだ。
しかも、俺を見上げならも、小馬鹿にされている気がする。兄妹の運命的な再会とか言うなら、もう少しリスペクトして欲しい。
でも、たしかに。
サプライズ追加は、いいかも。
「サプライズ、どんなのがいいと思う?」
すると何故か、藍紗は顎を軽く上げ、決めポーズになった。
「クククッ。愚兄めっ。サプライズといえば、バースデーに決まってるだろうがっ!!」
「いや、普通に相手の誕生日の日程的な縛りもあるんだが……」
……そういえば、一歌の誕生日っていつなんだろ。
明日、聞いてみるか。
ま、誕生日は誕生日で、そのうちくるイベントだし。
「サンキュー!! 厨二妹!!」
「ちょっと!! いま、なにやら見下したニュアンスだったのだが?」
見下してるのは、愚兄とかいってるアナタなんですけどね。
でも、まあ、ちゃんと相談に乗ってくれて。
ありがと。愛紗。
部屋に戻ると、母さんからメッセージがきた。
「チケットのペンションは父さんの知り合いがやってるんだけどね。高校生の息子と彼女が行くと伝えたら、シングルルームを2つ用意してくれることになったよ。蒼、よかったね」
一歌からはクレームがでそうだが、別部屋の方が、きっと、一歌のご両親を説得しやすいだろう。
少し、寂しいけど。
よかった。
次の日、一歌と帰り道を歩く。
すると、街路樹の隙間から西陽がさし、規則正しく俺に当たる。俺が目を細めていると、一歌が真似をして、目を細めた。
「蒼。変な顔っ」
学校帰りの時間でも暑い。
一歌は汗ばんで、ワイシャツから下着が透けている。
「一歌」
「なに?」
「今日のブラ、白なんだな」
すると、一歌は両手で肘を抱えて、大袈裟に後ずさった。
「見るな!! 恥ずかしいから」
「いいじゃん。それに、前はバスタオル巻きでも平気だったくせに」
一歌の頬は夕焼け色になっている。
「他の男にはそんなことないのに、蒼とは、目が合うだけでドキドキする……胸がギュッとなるの」
俺も、一歌と目が合うたびドキドキしてるのだけれどな。気づかれてはいないようだ。
うん、でも。
一歌も同じか。
ちょっと嫉妬で、ちょっと嬉しい。
「一歌のバスタオル姿、他のやつに見せたくない」
すると、一歌は手で口を押さえた。
「あっ。でも、もう絶対に見せないし。それに、わたし、もっと綺麗になるし。だから、蒼に見せるわたしは初めてだし……わたし、また。ぐすっ」
えっ。
泣いてるのか?
「一歌……どした?」
「君に、初めてをあげられなくて、ごめんなさい……」
まいったな。
泣かせてしまうとは……。
一歌は不器用で純粋。
そんな言い方されたら、愛おしくなってしまって、何も言えないよ。
俺は一歌を抱きしめた。
「そんなことない。一歌は俺のはじめての彼女だし、一歌の全部が初めてだよ」
一歌のこと、ちゃんと守れるようになりたいな。
「蒼は……守ってるよ」
一歌は言った。
しまった。いつの間にか、思ったことが口から出ていたらしい。すごく臭い事を言ってしまった。俺は気まずくて、なんとなく左右の手を握り合わせた。
すると、一歌は言った。
「蒼の手、女の子を守れる男の子の手だよ。左手の傷も、きっとその証」
一歌は、時々、妙に勘がいい。
母さんが言っていたのだが、俺の傷は、友達を庇ってできたものらしいのだ。
一歌はトボトボと歩き出した。
肩に掛かったリュックのベルトを握っている。
旅行の話をしたら、元気でるかな。
「父さんに旅行チケットもらったんだけど、夏休みに行かない?」
勝手に一歌も行ってくれると思っていたけれど。
よくよく考えたら、うちら、キスもまだだ。
旅行なんて、もしかしたら、断られるかも。
しかも、一歌は涙を拭っている。
……言うタイミング間違えたかな。
答えを待つ間、鼓動が激しくなって心臓が止まりそうだった。
一歌は、数歩あるき、俺の前に立ち止まると、振り返った。その顔は笑顔だった。
「いくに決まってるし」
……よかった。
いつもの一歌だ。
「でさ、ご両親になんて言おう」
「ん。普通に愛といくって言えばいいし」
それはダメだ。
「いや、ご両親の許可は欲しい。それがうち親の条件だし、俺自身もそうしたい」
嘘ついて行くのはイヤだった。
一歌のことを、コソコソと扱いたくない。
「そっか。わかった!! ママに話してみるねっ。それと、うち、パパはいないんだ」
「あ、いや。……なんかごめん」
ごめんということが、失礼という自覚はあったが、言わずにはいられなかった。
すると、一歌は笑った。
「ちゃんと話してなかった、わたしが悪いし。それに、パパ元気だし、死んじゃったわけじゃないから、安心して」
なら良かった。
俺、一歌のこと、何も知らないんだな。
毎日のように会ってるのに。
おれが落ち込んだと思ったのだろう。
一歌は俺の耳元で囁いた。
「お泊まりだけど、エッチは、もーちょっと先にしようね♡ もっともっと。うまく言えないけど、もっとお互いが大切になったら」
「それって、いつ?」
「んー。蒼が、わたしを世界一好きになってくれたら?」
「そっか」
「世界一じゃ、何年もかかっちゃうかな?」
「いや、その条件なら、もうとっくに達成してる。だから、今日、これからする?」
すると、一歌は目をまん丸にして、真っ赤になった。
「チュウもしてないのにエッチは、ちょっと刺激的すぎるというか……。蒼がそういう趣味なら、わたしも合わせるけど。ちょっと、すごく寂しいかも」
あれれ、話が変な方向にいってるぞ。
「いや、別にホンキでは……」
「あのね。イヤなんじゃないよ? 蒼のお願いは叶えてあげたいし。ちょっとくらい変態さんでも我慢するし。でもね。できれば、蒼の希望は、2回目からがいいかも」
「いや、そういうプレイが好きなわけじゃなくて」
「えっ。そうなの? ……勘違いさせるなっ!!」
イタっ。
蹴られた……。凶暴すぎる。
でも、ちょっとイヤでも付き合ってくれるのか。ふふっ。
ま、そんな変態なこと、頼まないけどっ。
「ちょっと待ってて。ママに旅行の話してみる」
一歌はそう言うと、街路樹の方に駆けいった。おれは、そんな一歌を眺めている。
なんの変哲のない通学路なのに、一歌は、泣いたり笑ったり、大忙しだ、
この子といると、暇しないなぁ。
俺が浸っていると、一歌が戻ってきた。
「あのね。ママが、蒼と会わせてだって」
「いつ?」
「……今から」
え?