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第18話 そんな彼女はサプライズがしたい


 俺は、いま、隆の一件の事後処理ともいえる事態に直面している。一歌からこんな指令がきたのだ。


 「蒼にプレゼントしたいから、サプライズ復活させて」



 俺はこのメッセージを受け取った時、意味が分からなかった。だが、本人へのヒアリングによれば……。


 当事者の少女Y(一歌):「せっかくのサプライズなのに、バレちゃったし。わたしの希望としては、ちゃんとサプライズさせてほしいっていうか」


 お相手の少年S(俺):「じゃあ、サプライズのことを知らないフリをするっていうのは?」



 返答の直後、スネを蹴られた。    

 知らないフリはダメらしい。


 もう知っちゃったものを、どうしたら……。

 さすが一歌。無茶振りしてくれる。




 仕方ない。

 隆に相談するか。


 隆は結局、美桜と付き合い始めた。

 ほんと人騒がせなヤツだが、うまく行って良かった。


 だから、恋愛関係の話題も解禁されている。


 モブはモブだが、今の俺らは、より上位の「モブ改」にバージョンアップしたと言ってもいい。


 俺が隆を探していると、向こうから声をかけてくれた、相談する前に察知してくれるとは。


 やはり、持つべきものは、苦楽を共にした友達だな。


 さっそく、隆に事情を相談してみる。


 「〜って訳でさ。どうしたらいいと思う?」


 すると、隆は言った。


 「っていうかさ。美桜が可愛すぎるんだよ。この前なんてね……」


 ……コイツはダメだ。


 美桜に夢中で、共感機能が著しく低下している。近づいてきたのも、自分の話をしたかっただけのようだ。


 俺が立ち去ろうとすると、背中越しに、隆の声が聞こえた。


 「片瀬さん、たぶん特別なことは望んでいないんじゃないかな」


 なるほど。

 たしかに、そうなのかも。



 俺は手を振って別れた。



 ……仕方ない。


 

 女性絡みの相談は、やはり女性にするのが一番。でも、俺、女友達少なすぎるからなあ。


 うーん。誰かいないか。

 ……愛?


 唯一の女友達。

 どこもなく、ときめくフレーズだ。


 ま、向こうは顔見知り程度の認識だろうが。

 

 俺は愛にメッセージしてみる。


 「あのさ。ちょっと話が……」


 すると、なぜか屋上に呼び出された。


 あいつ、人のこと呼び出すの好きだよなぁ。

 そろそろ、「購買でパン買ってこい」とか普通に言われそうで怖い。



 屋上に上がると、愛は、風になびく髪をかきあげて、こっちを見た。こころなしか、いつもよりキラキラしているような?


 「アタシに話って……」


 「うん」


 愛は恥ずかしそうに俯くと、なぜか、髪をペタペタと整えた。


 「……いいよ」


 この人、何をいっているんだ?


 「何が?」


 俺がそう返すと、愛はちょっとイライラした様子で答えた。


 「いや、だから。アタシに告白する気なんでしょ?」


 は?


 「いや、そんなつもりは皆無なんだが」


 俺は事情を説明した。

 すると、なぜか愛は、プイッと向こうをむいた。


 「いくじなし。本気なら検討くらいはしてやったのに」 


 「え? どういうこと?」


 おれがそう聞くと、愛はムスッとした。


 「なんでもない。忘れろ」


 なんだか、壮大な勘違いをされている気がするが、そっとしておこう。


 さすが、おれ。

 大人の対応。


 愛は、小さくため息をつくと続けた。

 

 「じゃあ、一歌と別れたのか?」


 いや、だから。

 この人、食い下がってくるな。


 そんに俺に不幸になってほしいのか。


 「そういう訳じゃ……」


 チッ。


 舌打ちしたよ、この人。


 「ま、アイツ繊細だから。大切にしてやれよ。……んで、サプライズの復活だっけ?」


 「うん」


 「無理だな。時間は戻せないし。でも、その代わりに、一歌が喜びそうなイベントにでも誘ったらいいんじゃないか?」


 「いや、でも。一歌、紫外線がどうのとか言って、外に出たがらないし……」  


 愛は、パンッと手を叩いた。


 「だったら、夜のイベントは?」


 愛と俺、ほぼ同時に声を出した。


 「……花火大会!!」


 うん。夜のイベントだし。

 そろそろ、夏休みだし。



 「ありがと!! 誘ってみるよ」

 俺は愛に礼を言うと身体を翻した。


 背中越しに愛の声が聞こえてくる。


 「下見いくなら、声かけろよ〜」


 下見に付き合ってくれるつもりらしい。

 一見、怖いけど、愛は良い子だ。



 花火大会かあ。

 すごく良いと思う。  


 行けそうなのがあるか、調べてみるか。

 俺は電車に揺られながら、スマホを開いた。


 「んー……、まじか」


 行けそうな花火大会は、思いの外、少なかった。最近の猛暑の影響なのか、有名な花火大会は、秋以降の日程に変更されていているものばかりだった。

  

 唯一、行けそうな大会は、よりによって期末テストの前日だった。


 これは、さすがにな。

 一歌が赤点になったら困るし、


 ……他の選択肢を考えるか。


 

 帰り道、家でテレビを見ながら、ゲームしながら、風呂に入りながら。ずっと考えたが、他にもは何も思い浮かばなかった。


 家族にも聞いてみるか。


 風呂を出て、ぐぐっと背中をのばす。

 すると、臀部にチクチクとした痛みを感じた。


 「んーっ。つっ。あの傷、まだ痛むのか」


 尻を鏡に向けたが、湯気で曇っていて見えない。俺は拭おうとタオルを手に取った。

 


 「蒼、ごはんよー!! パパも藍紗も待ってるから早くきて〜」  


 母さんの声だ。

 なんだか急かされている。


 「って、まだ脱衣所なんだけど……せっかちだなあ」


 俺は急いで身体を拭くと、一階に駆けおりた。



 ちなみに、ウチは4人家族で、両親と妹がいる。たぶん、貧しくも裕福でもない、普通の家庭だ。



 普通じゃないところがあるとすれば……。



 「よぉ。蒼。俺、腹へっちゃったよ」


 俺の顔をみるなり、両手で箸をテーブル立ててにドンドンしている金髪で長髪の男性。俺の父、藍良 くれないが自由すぎることくらいだろうか。


 ってか、行儀が悪すぎるから。


  

 その時、甲高い少女の声が響き渡った。


 「フハハハ。我にひざまずけぃ。我が究極の第14階梯魔術を込めた、そのプレートに刮目かつもくせよ!!」  


 顎を軽くあげ、決めポーズでそう叫ぶのは、我が妹の藍紗あいしゃ。中学2年生の厨二病だ。


 テーブルの上を見ると、「愚鈍で忌しき最愛の兄者の席」との魔法陣つきプレートが置いてある。


 ……ここにも問題児がいたわ。


 「愚鈍で忌しくて最愛」とか、こいつ意味わかってんのか? ま、忌まわしいの送り仮名を間違えてる時点で、分かってないんだろーな。


 はぁ。

 うちでまともなのは母さんだけか。


 「ちょっとぉ。箸を立てるパパかっこよすぎ♡ 蒼。藍紗、台詞に工夫が足りないわね。蒼は、早く席に座りなさい」   


 その声は母さんだった。


 あー、この人もダメだ。


 まあ、なんだ。

 この無駄に騒がしくて、陰キャと真逆な人たち。


 ……これがおれの家族、藍良家の面々だ。



 席に座ると、テーブルにはコンロが準備されていた。すぐに、母さんが鉄鍋を持ってきてくれる。


 今日の夕食は、すき焼きらしい。

 ぐつくつと揺れる椎茸や焼き豆腐。


 ハフハフして食べる。

 横を見ると、愛紗は、保育園から愛用している別皿で、うちわであおいで冷まして食べていた。


 (ふっ、所詮はガキだな)


 暑い季節の鍋は、なかなか良い物らしい。


 ワイワイと食べてひと段落すると、父さんが立ち上がった。


 「父さん、さっき帰ってきたんだろ。これから仕事?」


 「あぁ。海外でライブがあってな。これから成田までいかないといけないんだ」


 父さんは、それなりに名の売れたスタジオミュージシャンだ。時には、今回のようにサポートメンバーとしてバンドと共に海外に行くこともある。


 でも、どんなに忙しくても、こうして帰ってきて、家で皆と食事をとる。


 これは、遊び人だった父さんが、母さんと結婚するときの条件だったらしいが、父さんは結婚して20年近いのに律儀に約束を守っている。


 俺はそんな父さんを尊敬している。

 だから、父さんに相談すべきだと思った。


 「父さん、実は、彼女に、こんなこと言われてさ。花火以外には無いかなって」


 俺は事情を説明した。


 すると、父さんはギターケースを床に置いて、席に座り直した。


 「パパ、時間が」


 母さんが時計をチラチラと見ている。

 時間がヤバいのかな。


 でも、父さんはのんびりした口調だ。


 「まぁまぁ。あの蒼が彼女の相談だぞ? これは藍良家の一大事だよ」


 「んで、どうすればいいのかな?」


 父さんはテーブルに両肘をつくと言った。


 「んー。おれにもさっぱり分からんっ!!」


 俺がため息をつくと、父さんは続けた。


 「たとえばさ。仕事の時に、依頼主からロック調のオーダーがきても、こっちからはジャズ調のフレーズを提案したりする。そうしたら、すごく良くなって、相手もビックリするくらい最高の演奏になったりする。つまり、相手が望むものが、必ずしも相手のベストとは限らないんだよ」


 なんか、分かるような分からないような。

 父さんは話しながら、カバンの中に手を入れた。


 「まあ、今回の場合、無理にサプライズを復活させることがベストとは限らないんじゃないかな」


 うーん。


 「そんな蒼に、父さんからプレゼントだ。7月29日指定券だけど、蒼の高校は夏休みだよな?」


 父さんはそう言うと、俺に封筒を渡して、車の鍵を指先でクルクルと回した。


 「うまくやれよ、蒼。ただし、相手の親御さんの了解はとるように。俺はアラフォーで、爺さんになりたくないからな」


 父さんは母さんに送られて、空港に向かった。

 封筒を開けると、チケットが2枚出てきた。



 「下田海岸 ペンション◯◯宿泊券」


 こ、これ。

 一歌と行ってこいって意味だよね?


 そして、チケットのデザインには、花火の写真が使われている。


 これは、もしかして。


 裏面を見ると、「7月29日の下田花火大会をお楽しみください」と書いてあった。


 ……父さん、サンキュー!!

 ナイス過ぎるぜ。


 

 

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