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第15話 そんな彼女は彼氏を内緒にしたい?

 

 一歌のオススメの店で服を探す。


 「身長が低めだと、五分袖のTシャツとかかな。袖とか襟の色が違うやつとか……、あと

、丈に気をつける事!! 長いと身長が低く見えちゃうし」


 一歌は、隆の肩に服を合わせると、どんどん次の候補をみつけ手際よく選んでくれる。


 「……パンツは、シルエットの緩いのがいいかな。裾が長すぎると、身長小さく見えちゃうから。相葉クン、ちょっとコレ、あてて屈んでもらえる?」


 一歌はそう言うと、隆にパンツを何本か渡した。


 「痛っ」


 それは、屈もうとした隆の声だった。足が痛むらしく膝に手をついている。


 「隆、まだあの傷が痛むのか?」


 「あぁ。ちょっと腱も傷めちゃったらしくてさ。なかなか……」


 「そっか。大怪我だったもんな」


 一歌が不思議そうに見ている。

 俺は説明することにした。


 「コイツ、入学早々に骨折してさ。二週間くらい入院してたんだよ」


 高校でスタート不在は辛い。

 隆の影が薄いのは、それも関係しているのかも知れない。


 一歌は「ふぅん。じゃあ、締め付けの少ないの選ぶね」と返事をすると、服選びに戻った。



 おれらモブ男は、見学に徹することにした。


 なまじモブ男が選ぶよりも、美桜の友達の一歌にチョイスしてもらった方が、良い服が見つかりそうな気がするし。



 ドスッ。


 「おい、お前らも選べよ」


 一歌に蹴られた。


 いや、でも。

 自由に選んだ結果が、今の隆なんだよ?


 すると、なにやら隆にアイコンタクトされた。

 意味がわからないので、俺は言葉で返す。


 「なに?」


 「いやさ、片瀬さんこえーな。お前、付き合ってるんだろ?」


 「え? なんで?」


 「見てりゃわかるよ。片瀬さん、藍良の前だとよく笑うし。藍良って、ああいう感じが好みなのな」


 「……付き合ってなんていないし。好みじゃないし」


 しまった。

 つい、嘘をついてしまった。


 でも、一歌だって否定してたし、同じような事言ってたし。


 これでいいんだ。


 

 カタッ。

 足音がした。


 「……蒼くん」


 振り返ると、目の前に一歌がいた。

 俺は、一歌の表情に心臓が止まりそうになった。


 すごくすごく悲しそうな顔をしていたのだ。 

 一歌と仲良くなってから、初めてみる顔だった。


 ……『あの子、脆いから』

 愛に言われた言葉が、頭をよぎる。



 「ごほん、そ、そうか。ならいいんだけどさぁ〜」


 隆は異変を感じたらしく、離れた棚の方に行った。さすがモブ男、危険察知能力だけは高い。


 一歌は、俺に背を向けた。

 「あのね。わたしも、あっちの方みてくるね」


 


 そして、俺は1人きりになった。


 俺は何か間違ったのか?

 一歌も、俺との付き合いを否定した。


 それはきっと、俺みたいなダサい男との交際は恥ずかしいのかと思った。


 でも、俺が知っている一歌は……。


 一緒にゲームしてる時も。

 街を歩いてる時も。学校でも。


 口では色々言っているが、そんな態度をとった事ははい。むしろ、いつもどこか触れていようとする。


 俺を恥じているのは、俺自身なんじゃないのか。

 

 ……俺はホント、小さい。


 『性悪、ヤリマン、ビッチ』


 自分の目の前の一歌よりも、俺は、そんな顔も見たことがないようなヤツが言ったことを信じようとしていた。



 ……一歌に謝らないと。

 このままにしたら、彼女は、きっと俺の前から居なくなってしまう。



 だから、走って一歌を追いかけた。


 すると、一歌は階段の端で、膝を抱えて座っていた。


 俺は一歌の背後に立った。

 彼女の顔をみるのが怖かったし、自分の情けない顔も見られたくなかった。


 「一歌」


 「……わたし、蒼くんの好みじゃないの……カナ?」


 一歌の消え入るような声。

 俺のせいだ。

 俺は、何を言って良いか分からなかった。

 

 恋愛厨を小馬鹿にして、他人の恋愛を学んで来なかった俺には、こんなときに大切な子を慰めるためのボキャブラリーすらない。


 ほんとモブだよ。

 自分でそう思う。


 だから、頭に浮かんだことを、そのまま伝えるしかなかった。


 「一歌。おれ、一歌だけだから」


 「……ぐすっ」

 

  

 「おれ、行くね」


 俺が身体を翻すと、一歌の声が聞こえた。

 

 「わたしも蒼くんだけ。これまでも、これからも蒼くんだけ」


 これまでも、ってどういう意味だろう。


 でも、こんなに弱々しい一歌を放っておけない。俺は後ろから一歌を抱きしめた。

 

 他の男なら、きっとこんな時にもっと気の利いたことを言えるのだろう。でも、今の俺には、これで精一杯だ。


 数分そのままでいた。  

 一歌の体温を感じながら、俺は思った。



 (皆んなに、俺らのことを言おう)


 一歌は、俺の右腕に彼女の右手を添えると、名残惜しそうに俺の腕を解いた。



 「隆くん、きっと探してるよ?」


 よかった。

 笑顔の一歌だ。



 今ならいけるかな。


 「一歌、……俺のこと好き?」


 「……言わなくてもわかって欲しいし。っていうか、気安く触るなっ!!」


 いやいや、言わんと分からんよ。

 昭和のお父さんみたいなこと言わないでくれ。


 質問を変えてみよう。


 「一歌。誰かに好きって言ったことある?」


 なんだか、すごくドキドキする。

 何度もあるとか言われたら、マジで凹むぞ。


 とんだ自虐プレイだ。


 すると、一歌は俯いて、つま先を擦り合わせて身体を微かに揺らした。


 「……ないけど?」


 そっか。

 よかった。


 なんだか目標ができたよ。

 いつか、好きって言わせたい。



 「ごほん……」


 一歌と俺が振り返ると、隆がいた。


 「俺をおいて2人の世界にいかないでくれ……」


 一歌は立ち上がった。


 「あのね、相葉くん。これはね、勘違いというか」


 俺は一歌を制した。


 「隆、ごめん。実は、俺ら付き合ってるんだ」


 一歌は、俺の袖をちょんと掴んで呟いた。


 「……わたしが言いたかったのに。とられたし」



 初めてできた俺の彼女は、後ろ姿が寂しげで……放っておけない女の子だ。

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