第13話 そんな彼女のギャル友達。
一歌は、学校でいつも3人で一緒にいる。
1人は愛。そして、もう1人は、飯島 美桜という。
美桜は、ショートカットで暗めの茶髪だ。
ギャルといえばギャルだが、他の2人とは少し毛色が違う。陸上部に入っていて、足がめっちゃ速い。
正直、体育会系が、なんであの格好で見逃されてるのか謎だが、見逃されている。
俺の陰キャ友達の隆、相葉 隆が、彼女に恋をした。
美桜は一歌と違って、ビッチとは言われていない。俺の彼女はビッチ……、あ、なんか考えてるだけで、泣きそうかも。
こほん。
美桜は、すごく面食いなのだ。
最近は、背が高いイケメンの韓流アイドルにハマっているらしい。
隆は、身長も高くないし、顔は悪い訳ではないが、イケメンとは程遠い。魔改造しても、決して、韓流アイドルみたいにはならないだろう。
さて、どうするか。
一歌に頼ってみるか。
放課後、一歌を探してみるがいない。
ん、どこだろう。
クラスメートが、一歌が屋上の方にいくのを見たと言うので行ってみる。
階段を上がって、ドアを開けると一歌がいた。
校庭から吹き上がる風にあおられた髪を押さえて、誰かと話している。
その前には、男子生徒がいた。
彼は確か、野球部のエースだ。成績もよくて、将来の進路も期待されている生徒で、しかも顔が良い。女子がよくキャーキャー言っている。
モブの敵だ。
そんな彼が、一歌にどんな用事だろう。
真面目そうな人だし、悪名高い一歌のことがタイプってことはないだろうけど……。
聞き耳を立てると、微かに男子生徒の声が聞こえた。
「……付き合ってください」
その意外な言葉に、俺は心臓のドキドキして息苦しくなった。彼は、いつものヤリ目チャラ男とは違う。恋愛のサラブレッド……、女子生徒の憧れの的だ。
正直、俺なんかより全然良い男。
自己評価でもそう思うのだから、女子から見たら天と地ほど差があるだろう。
一歌じゃなくても。
普通の彼氏持ちの子でも、心が揺らぐのではないか。
心臓がキリキリと痛む。
(ここから、逃げ出そうか)
すると、一歌が答えた。
「無理」
え、なにその答え。
相手も納得がいかないらしく、食い下がっている。
すると、一歌は少し手振りを交えた。
ちゃんと理由を説明するのだろうか。
「むりー!!」
声が大きくなっただけだ。
相手も負けじと叫ぶ。
「納得いかない!! せめて理由を教えて欲しい」
ま、普通、そう思うよね。
へんな話だが、俺は相手に同情してしまった。
すると、一歌は口を大きく開けた。
「……だから、むりー!!」
風で、「だから」の前に何を言ってるか聞こえない。
相手は諦めたらしく、肩を落として階段を降りていった。
俺は彼の肩を叩きたい気分になった。
だが、やめた。立ち去る強者をそっと見送るのが、武士の情けであろう。
そして、俺の方は、一歌と目があった。
野生動物のように俺を睨みつけている。
……さて。
ここから立ち去るか。
身体を反転させると、何者かに手首を掴まれた。
「今の聞いたの?」
一歌の声だ。
俺は首を横にふる。
「ふーん。キス魔の上にストーカーなのかと思った。ストーカーしてる暇あるなら、わたしの相手をしろ!!」
いたっ。
こいつ、思いっきりスネを蹴りやがった。
理不尽すぎる。
一歌はため息をつくと言った。
「付き合ってって言われた」
「んで、どうしたの?」
「その質問意味あるの?」
「え?」
意味があるか聞く、あなたの意味が分からんよ。
そんな俺を気に留める様子もなく、一歌は言った。
「断るに決まってるし」
……そっか。うん。
振った理由は不明なままだが、一歌は告白されたことも、すぐに教えてくれた。
俺は、不安になった自分が恥ずかしくなった。
ちょっとずつでも、動じなくなりたい。
だから、階段を下りようとする一歌に声をかけた。
「一歌、俺のこと好き?」
「は? 言わないと分かんないの?」
一歌は不機嫌そうに声を出した。
男にも、言葉にして欲しいときはあるのだ。
一歌はボソボソと言葉を続けた。
「……が足りない。だから、力が出ない」
「え?」
「最近、一歌カワイイが足りない」
確かに、最近いってないかも。
でも、なにそれ。
力が出ないって、あなた、頭が濡れたアンパン◯ンですか?
いつも、頭の中では思ってるんだけどね。
でも、恥ずかしいんだよ。
気持ちのこもってる「可愛い」は少し気恥ずかしい。
……言葉に出さないと伝わらないか。
「一歌カワイイ」
「声が小さくて、力がでない……」
「一歌カワイイ!!」
「どれくらい?」
「世界一かわいい!!」
すると、一歌はニヤニヤした。
「ふーん……、世界一か。当然カナ。まっ、わたしも蒼がくれるカワイイが、世界一力が湧くんだけど」
ん?
「どういう意味?」
「しらなーい♡」
そう言うと、一歌は下りていってしまった。
って、隆の相談、まだ何もしてないし!!
「一歌、まてよ!!」
俺は一歌を追って、階段を駆け下りた。




