第11話 そんな彼女のお願い事。
ブタカフェで過ごす。
この店にはルールがあって、ブタに餌をあげてはいけない。他の店ではどうか分からないが、なんでも、餌をあげると、ブタが巨大化してしまうらしい。
俺はピギ丸を目の前に抱き抱えて、こっちに向ける。すると、ピギ丸と目が合った。
「ピギ……」
うん。よく見れば、こいつ可愛いかも知れない。
一歌はブタを撫でて悦に入っている。
一歌って、ほんとブタが好きだよなあ。
「一歌って、ブタ好きなの?」
俺の問いに、一歌は不満そうに答えた。
「そんなことないし」
「じゃあ、こんどは猫カフェいってみる?」
「……いく」
可愛ければ、ブタじゃなくてもら良いらしい。
相変わらず口は悪いし、あれではあるのだが、一歌は、意外と女の子趣味だ。
一歌は、俺のことをどう思っているんだろう。まだ、暇つぶしの遊びなのかな。ある日、俺は捨てられちゃうのだろうか。
ブタを撫でてニヘラニヘラしている、わが彼女を眺めながら、俺はそんなことを考えていた。一歌、ほんとに締まりのない口してる。
「一歌、ブタにニヤニヤしすぎて、ブタによだれ垂らすなよ?」
すると、一歌は口元をぬぐって言った。
「よだれなんて垂らさないし。こっち向くな!! モブのくせに」
へいへい。
さて、わか相棒のピギ丸は……。
「ピギー!!!!」
ピギ丸が盛大に鳴いて、尻を振り出した。
こここ、この動きは。
一歌に脱糞した時の動きだ。
やばっ!!
次の瞬間、ピギ丸は脱糞してた。
朝、何時間もかけて選んだ俺のお気に入りの服は、ピギ丸の糞まみれだ。
すぐにスタッフが飛んできて、平謝りされた。俺が答えようとすると、なぜか一歌が代わりに答えた。
「大丈夫です!! ブタのしたことですから」
……おいおい。
「勝手に許すなよ」
「どうせ、許すつもりだったでしょ?」
いや、たしかに。許す気だったよ?
クレームつけたら、ピギ丸、豚肉にされちゃうかも知れないし。
でも、自分で許したかったんだけど。
俺と一歌は、ブタカフェを出た。
あーあ。
この服、どうすんだよ……。
すると、一歌が俺を覗き込んで言った。
「蒼。今日の服、かっこいいね!! いまは臭いけど。ププ」
一歌は口元を押さえてニヤニヤしている。
こいつ、ほんとムカつく。
一歌は続けた。
「服、汚れちゃったし、いつものとこ行こうか」
いつものところって、ラブホだよな?
なんか、デート、ホテルばっかりだな。
ま、いいんだけど。
フロントにつくと、一歌は、手慣れた手つきタッチパネルを操作する。
一歌、何人とここに来たんだろ。
その様子を見るたびに、胸の中が、悲しいような、ザワつくような気持ちになるのだけど、最近は、それが嫉妬だと自覚している。
でも、今の一歌といると楽しくて。
その『今の一歌』の一部は、俺がザワつかされる経験の上にあるのかと思うと複雑な気持ちになるのだ。
一歌は俺を覗き込んでくる。
「どうしたの?」
その顔は、いつもの不遜な感じじゃなくて、不安そうだった。
俺は一歌の頭を撫でて言った。
「別に。はやく部屋いこう」
一歌の腰を抱き寄せようとすると、拒否された。
「気安く触るな!!」
……ま、そんなもんだ。
部屋に入ると、俺はシャワーを浴びることにした。ガウンをきて、部屋に戻ると、一歌がベッドに正座していた。
「どうしたの? そんなに改まって」
「いや、蒼に言わないといけないことがあって」
え。なに?
イヤな予感がする。
「ごめんね。蒼……」