特別回 そんなヒロイン達のマルチエンディング。
負けヒロインたちのための応援歌。
それはすなわち、オマケ回。
【IFルート①】雅
※第82話、観覧車での告白からの分岐です。
(ここから本文)
雅は真剣な顔になった。
俺のことをじーっと見つめてくる。
なぜか、その頬は赤い。
「わたし、蒼くんの事が好き。君がいれば、他には何もいらない」
俺は、雅の告白を聞きながら、◯△オンラインで一緒に過ごした日々を思い返していた。俺が気づけなかっただけで、雅は何度も何度も俺に好意を伝えてくれていたのだ。
こうしてマサさんと雅が一致して、俺はようやく、自分が雅に対してどういう感情を持っていたかを自覚した。
俺は雅のことが好きだ。
「遠回りをしてごめん。俺も雅のこと好きだよ」
雅は両手で口を押さえて、嗚咽した。
そして、観覧車が乗り場に戻る頃、雅にキスをされた。
優しく、さえずる小鳥のように。
何度も何度も。
俺は雅と付き合うことにした。
付き合ってからの雅は、別人のようだった。
すごく素直で明るくて。
俺以外の人間にも、すごく優しい。
……これが雅の本質なのだろう。
雅のお母さんには「泥棒猫」みたいな事を言われた。先が思いやられるが、雅のことは、俺が命をかけて守るつもりだ。
そんなある日、雅のお父さんに呼び出された。
豪華な調度品で飾り付けられた応接間で待たされる。
(お父さんには、何度会っても緊張するよ。胃が痛い)
俺がお腹を摩っていると、雅のお父さんが入ってきた。すると、意外にも俺に微笑みかけてくれた。
「そんな気弱じゃ、政治家にはなれんぞ? 藍良くん。明日から、わたしの事務所に通いなさい。雅との結婚は、君が家業を継げることを証明してからだ。だが、これは強制じゃない。どうするかは君自身で決めなさい」
雅のお父さんは政治家だ。
その地盤を継いで家族を守っていく。これは、雅パパも乗り越えたことだ。
俺はいま、男として試されている。
だから、逃げることはできない。
「はい。必ずご期待に応えてみせます」
俺はそう答えた。
今は虚勢でもいい。
いつか必ず、自信を持って言えるようにするのだから。
(雅ルートEND)
【IFルート②】愛
※第97話、自転車ツーリングでの愛の告白からの分岐です。
(ここから本文)
髪が落ち着くと、愛は言葉を続けた。
「蒼。アタシ、アンタの事が好き。大好き。愛してる。ずっとアタシと一緒にいて」
遠くの方で、車のクラクションが聞こえる。
ププーって。何にイライラしているんだろう。
いや、イライラしているのは俺自身だ。
俺は迷っている。
初めて屋上に呼び出された時に、なんて綺麗な子だと思った。その後も、強くてカッコよくて、でも、たまに危うい。
その危うさには、俺以外のヤツはきっと気づかない。愛を守れるのは俺しかいない。
「わかった」
だから、そう答えた。
「……なんで?」
それが愛の反応だった。
愛は言葉を続けた。
「だって、蒼は一歌の彼女で、告白しても絶対に無理だって思ってたのに、なんで?」
「愛は、綺麗でカッコよくて、でも、実は甘えん坊で。そんな愛を、ずっとそばで支えたいって思ったんだよ」
「そっか。アタシのことを見てくれる人は、きっとどこにもいないと思ってたから、……嬉しいよ」
そう言って俺のことを見る愛の笑顔は、初々しくて、抱きしめたくなるほど可愛かった。
俺は愛と付き合い始めた。
愛は本当に気がきく。
至れり尽くせりで、お世話好きで。
いつも「蒼が喜んでくれるなら、アタシなんでもする♡」と言って抱きついてくる。
彼女の愛は、姉御肌の印象とは全然違った。
俺は気づいてしまった。
この子は、甘々のダメ男製造機だ。
これは、責任をとって、俺が嫁さんに迎えるしかないな。
「愛、卒業したら結婚しよう」
すると、愛は泣き出してしまった。
「蒼のお嫁さんになれるの? 夢みたい。すごい幸せ」
そして、トントン拍子に話が進み、高校を卒業して、俺らは近々、籍を入れることになった。
「門出早々親に頼りたくないし、結婚式はお金がたまったらかな。愛、ゴメンな」
愛は、はにかんだ。
「ううん、2人で頑張ろう♡」
実はいま、起業の準備をしている。
レーベル会社だ。
愛紗の学園祭バンドを誰かがSNSに投稿したらしく、美少女バンドとしてバズったのだ。俺が抜けたらますます人気がでて、いまではフォロワー100万人を超えている。
いくつかの事務所からデビューの声が掛かっていたが、3人は、俺が始めるレーベルに所属したいと言ってくれた。
責任重大だ。
絶対に期待に応えたい。
そして、仕事が落ち着いたら、愛に結婚式をプレゼントしたい。
愛は急にパンと手を叩いた。
「どうした?」
愛はあっけらかんとして言った。
「蒼に言うの忘れてた。姉様……雅ちゃんが、結婚する前に蒼に話があるって」
「え? 雅が?」
……嫌な予感しかしない。
「うん。浮気しちゃダメだよ。浮気防止のために……ねっ、これから今夜の分のスキンシップしよ?」
「ち、ちょっと愛……」
「蒼。ドキドキしてるでしょ? かわいい♡ 物理的にも浮気できないようにしてあげる♡」
毎日こんな調子で、朝から疲労感が半端ない。
愛は綺麗で優しくて、でも、なにより、名前の通りに、すごく情熱的なのだ。
(愛ルートEND)
【IFルート③】禁断の愛紗ルート
※第101話、愛紗の告白未遂からの分岐です。
(ここから本文)
愛紗の顔は真っ赤だ。
目も虚ろな気がする。
「もし、……もし、わたしが本気で頼んだら、蒼くんは、わたしのこと、妹じゃなくて、ひとりの女の子に見れる?」
愛紗は可愛い。
日に日に女性らしくなっていて、それに目を背けている自分がいた。
でも……。
「……わからない」
気づけば、俺はそう答えていた。
すると、愛紗は言葉を続けた。
「蒼くん、好き。わたし、本気だよ? 君を1人の男の子として愛してる」
俺は頷いた。
「俺もだよ」
答えてしまった。本心をさらけ出してしまった。最後まで、愛紗に嘘を突き通すことができなかった。
俺らの関係が、許されないことは理解している。両親にも秘密にしなければならない。
でも、もう自分の気持ちに嘘はつけない。
俺らは、俺が高校生の間だけの期間限定で付き合うことにした。高校の2年生と3年生の間だけ、彼氏彼女として付き合い、俺の卒業式の日に、恋人を終わりにすると約束をした。
愛紗も納得してくれた。
決して許される関係ではないのだ。
他者に引き裂かれる前に自分達で終わらせること。それこそが、お互いの気持ちを永遠にするための、唯一の方法に思えた。
そして、約束通りに高校を卒業して、俺らは兄妹に戻った。
あの頃は、愛紗に夢中でとにかく必死だった。
懐かしいな。
俺は大学に入学して、それなりに充実した4年間を過ごした。
そんな俺も、今日で大学を卒業した。
家に帰ると、同じ大学の2年生になった愛紗が花束をくれた。
愛紗は俺に抱きついてくる。
「ね、今日だけ復縁しない? 結局、兄貴、キスもエッチもしてくれなかったし。家には誰もいないし……わたしまだ処女だし、なんなら、卒業のお祝いに、兄貴にあげてもいいよ?」
「ばーか。安売りするな」
俺は愛紗にデコピンした。
すると、愛紗はおでこを押さえながら言った。
「ちぇっ。ノリが悪いなあ。……安売りの訳ないじゃん。でも、付き合ってた時は、わたしを大切にしてくれてありがとう。手を出されなかったのは愛情だって、ほんとは分かってた。……これからもよろしくね。お兄ちゃん♡」
俺は愛紗の頭を撫でた。
(愛紗ルートEN……)
「あっ!」
愛紗は急に何かを思い出したらしい。
「そういえば、パパが兄貴に何か大切な話があるって言ってたよ。なんでも、兄貴の出生の秘密がどうとか」
俺は誘拐事件の影響で、それ以前の記憶が曖昧だ。特に小さな頃の記憶が欠落している。
次の日、父さんと飲みに行くことになった。
思えば、2人きりで外で酒を飲むのは初めてだ。
テーブルにつくと、父さんはビールを一気に飲みほして言った。
「あのな。蒼。まず最初に言っておく。父さんも母さんも、お前を本当の子供だと思っているからな」
え。意味がわからない。
本当の子供『だと』って?
「……これは、蒼にとっては辛い話かもしれないが、実は俺の親友が亡くなる時に、生まれたばかりのお前を俺たちに託……」
(愛紗ルートEND?)
【本ルート後日談】一歌。
一歌は、留学先の大学で、飛び級で博士号をとった。俺は無事に一歌と同じ大学に合格できて、経済学部生をしている。いずれは、MBAを取得したい。
実はいま、俺はカフェにいる。
リンゴのついたそれっぽいノートPCで、ビジネス風に日記的なものを書いているのだ。
一歌は隣で、クシャクシャにしたストローの紙に水を垂らして遊んでいる。
「一歌、それ好きだよな」
「うん♡ わたしこの遊びに毛虫って名前をつけてたんだけど、実はイモムシだったかも知れない。あ、これ。展開のパターンに規則性があるかも。次の論文に使えそう」
この子は、一体全体、何の研究をしているのだろうか。
先日、日本の編集者が取材に来ていて、一歌が期待の日本人研究者として紹介されていた。雑誌の読者のみんなには、こいつは普段からこんな遊びばかりしていることを教えてあげたい。
まあ、一歌は才能に溢れていて、どんどん遠くにいってしまうのかなって不安になってしまうこともあるけれど、同時に鼻が高かったりもする。
それに、2人でいるときの一歌は、ずっと甘えん坊のままだ。
それから数年が経ち、無事にMBA取得の目処がたったある日。リンネ先生から手紙が来た。
いや、先生は昔の話か、
いまのリンネさんは、一歌パパの会社の代表をしている。バリバリの女社長なのだ。
そんなリンネさんが、何の用事なのだろう。
手紙を開けると、こんなことが書いてあった。
「藍良くん、久しぶり。無事にMBAを取得できるとのことで、おめでとう。ところで、相談があります。わたし、そろそろ婚活したいの。だから、後のことを君に丸投げしたいのだけれど、いい?」
これって、大学院が終わったら、俺だけ日本に戻るってことだよね。
どうしよう。
一歌に相談するか。
「んっ、戻るべきかな」
一歌は、まさかの即答だった。
俺が居なくなっても寂しくないのかな。ちょっとショックだ。
「え、俺がいなくて寂しくないの?」
「寂しいけれど……、パパがね。蒼くんはきっとMBAをとるから、そうしたら、会社を継いで欲しい、って言ってたの」
俺の進路を予見していたなんて、一歌パパ、すごすぎて怖いんだけど。
一歌は続けた。
「あのね。パパは家族を守るために会社を作ったんだって。だから、それを蒼くんに継いで欲しかったみたい」
であれば、迷うべきではない。
「分かった。おれ、日本に戻るよ」
俺の返事を聞くと、一歌は笑顔になった。
「ありがとう。蒼くん、わたし嬉しいよ。パパが遺したものを蒼くんが育ててくれる。……まるで、蒼くんとパパが仲良くしてくれているみたい。わたし2人が作り上げるものを見てみたい!!」
俺は一歌をアメリカに残して日本に戻った。そして、一歌パパの会社に入った。数年は各部署で働いて、その後、後継者として推薦してもらう予定だ。
仕事はきついが、リンネさんのサポートで、なんとかやれている。
リンネさんは、「蒼くんが早く一人前になってくれないと、わたしが結婚できないんですけれど〜?」って、毎日プレッシャーをかけてくる。
ほんと、圧が半端ない。
一歌とは、1ヶ月に1回だが、お互いに行き来してデートしている。
ちなみに、俺の仕事が落ち着き次第、一歌と結婚する予定だ。月1デートなのに式場選びなどにも時間を取られてしまって、結構、忙しい。
式場の場所、どこにしよう。
中間をとって、ハワイとか?
ほんと、時間が足りないぜ。
プロポーズは一歌からだった。
前々回のデートの時に、空港で会うなり、突然、言われたのだ。
「幸せにしてあげるから、わたしと結婚しよう♡」って。
完全な不意打ちだった。あまりにびっくりしすぎて、俺は、ただ無言で頷くことしかできなかった。すると、一歌は花束とプレゼントを渡してくれた。
このプロポーズは思いつきではなく、俺の誕生日に合わせて、一歌は前々から準備してくれていたらしかった。
おれがとまどっていると、一歌は「ハッピーバースデー♪♪ サプライズ大成功♡」と大喜びだった。
すごく嬉しいのだけれど、先を越されてちょっと……いや、すごく情けないし、悔しい。俺だって密かに指輪選びしてたのに……。だからせめて、式場選びくらいは俺がリードしたいと思っている。
今月のデートはこっち(日本)の予定だ。
空港まで一歌を迎えに行くと、一歌が抱きついてきた。
開口一番。
「きみ、浮気してないだろうね?」
と詰められた。
あの時の失敗は、いつまで尾を引くのだろうか。
「してないし。ところで、今日はどこに行きたい?」
一歌は笑顔で答えた。
「ブタカフェ♡」
一歌と2度目のデートで行った場所だ。
懐かしいな。
ブタカフェに入ると、ピギ丸にそっくりなブタが居た。
一歌は、そのブタを抱きしめながら首を傾げた。
「この子、ピギ助っていうんだって。もしかしたら、ピギ丸の子供かなあ?」
「どうだろう。でも、そっくりだね」
ピギ丸はきっとお肉になったから、正確には転生な気がするが、あえて言うまい。
ピギ助を抱きしめると、一歌は言った。
「あのね、今日は蒼くんにお話があります」
え、なんだろう。
何かお説教されるのかな。
一歌は続けた。
「……赤ちゃんできた♡ 女の子かな男の子かな。お名前は何にしようか?」
「えーっ、おれ、女の子なら絶対……」
これからずっと続くであろう一歌と俺の生活。
きっと、来年には3人の生活になって、どんどん賑やかになっていくのだ。
俺はそれを、ずっとずっと大切にしていきたい。
「そ、そ、蒼くん?」
「どした?」
「ピギ助が、うんちした……」
「えっ?!」
「どこかシャワー浴びれるとこないかな……」
まあ、でも。
賑やかになるまで、もう少しの間だけ。
この2人きりの甘々な生活を満喫したいと思う。
(一歌ルートは永遠に)
さて、特別回はいかがでしたでしょうか。
最初はマルチエンディングだけの予定だったのですが、読者様からもうちょっと読みたかったというご意見をいただいて、本ルート後日談も追加しました。
あくまでIFなので、一歌との修羅場は書きませんでした。整合性もとっていないので、ふわーっとした感じでお楽しみいただけますと幸いです。
ご愛読ありがとうございました。
また別作品で皆様にお会いできることを、心より楽しみにしております。
※リンネ先生メインの作品はじめました
リンネちゃんは、みんなに優しい。〜〜隣の席の銀髪碧眼美少女が、俺に偽カレになってと頼んできた。
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