最終話 そんな彼女のエピローグ
俺と一歌は、また以前のようにデートするようになった。
お互いの家は遠くなってしまったし、学校も違くなってしまったけれど、それはそれで、2人で会える時間は、より一層楽しくすごせたし、距離があることで、自分の勉強に充てられる時間も増えた。
お互いにとって、悪いことばかりではなかった。
そして、俺と一歌は、別々の高校を同じ日に卒業した。
卒業式の次の日には、2人で一歌パパのお墓に報告に行き、その後、2人でお祝いをした。食事をしていると、一歌が真面目な表情になった。
「あのね、わたしね。蒼くんに話してないことがあるの」
一歌は言いづらそうにしている。
なんだろう。
聞くのが怖い。
ここから急転直下とか、耐えられそうにないんだが。
一歌は俺の手に自分の手を添えると、俺の手の甲の傷を愛おしそうに撫でた。
「一歌、その傷を撫でるの好きだよな」
「……わたしね、おへその下くらいに大きな刺し傷があるの」
「それって、もしかして……」
「うん。あの事件の時に、蒼くんの手を貫通した刃物がわたしまで届いていて……きっと、そんな彼女イヤだよね。傷跡のある身体でゴメンなさい」
前に、一歌は子供の頃に酷い怪我をして、しばらく入院していたと言っていた。そうか、そういうことか。
「俺がちゃんと守れなかったからだ。俺こそ、ごめん」
「ううん。お医者さんが言ってた。蒼くんが居なかったら、きっとわたし死んじゃってたんだって。だから、ありがとうだよ。でもね、男の子はみんなこの傷をみると……、ううん。蒼くんは、傷跡を見ても嫌いにならない?」
他の男からすれば、もしかしたら、ドン引きしてしまうような痛々しい傷跡なのかも知れない。でも、俺からすれば、その意味は全く異なる。
「なるわけないじゃん。俺なんて手の甲にも尻にも傷跡あるし、お揃いというか、同じ辛い経験をした2人だけの絆の証だよ」
俺の言葉を聞くと、一歌は笑顔になった。
一歌は俺の手を自分の下腹部のあたりに当てた。
「そっか。ちょっと全然ロマンティックじゃないけど、2人の絆だ♡」
「ああ」
一歌は「傷が気になるなら形成手術を受けようか?」と聞いてくれたが、俺は断った。少なくとも、俺はそのままでいいと思っている。
そして、俺は今。
成田空港で、一歌を待っている。
やはり一歌には、アメリカの大学から招待が来たのだ。一歌は留学を決めて、相談を受けた俺はそれについて行くと決めた。
一歌は俺の返事に驚いていたが、そうなったらついて行こうと、俺の中では予め決めていたことだ。俺は秋の入学を目指して、現地で語学と入試勉強を続ける予定だ。
あの誘拐事件は、子供向けのツアーの最中に起こったらしく、被害者家族には、お見舞い金という名目で、多額の賠償金が支払われたらしい。
留学は両親にも負担をかけてしまう。
そう思って俺が両親に相談すると「賠償金は全額残してある。父さん偉い? な? 偉いよな? だから、思う存分勉強してきなさい」と言われた。
たしかに感謝しているけれど、得意げな父さんを見ていると、なんだかちょっとイラっとした。
待ち合わせ時間を15分ほど過ぎると、一歌がやってきた。
「ごめん、年単位の海外だから、荷造りに時間かかっちゃって。それよりも、ニュースみた? 目的地に大型ハリケーンがきていて、航空便は、のきなみ大幅な遅延だって」
「あぁ。みたよ。さっきカウンターで聞いたら、うちらの便も出発が10時間ほど遅れるって。どうする?」
すると、一歌は俺の手を握ってきた。
「最初のデートと同じとこいこ?♡」
「ラブホ?」
「うん♡」
「初デートも留学初日もラブホって、ある意味、俺らってすごいよな。……いや、俺ららしいのか」
「そうだね。でもね、初デートの時とは違うこともあるよ?」
「え? なに?」
「高校も卒業したし……わたし、もっと蒼くんと仲良くなりたいの。だから、今日は……最後までしてほしいかも♡」
一歌は照れくさそうに笑って、言葉を続けた。
「蒼くん、……大好き」
(おわり)
ご愛読ありがとうございました。
連載当初は10万字程度の予定でしたが、気づけば20万字を超えていてびっくりです。読者さまの応援のおかげで、無事に完結させることができました。大感謝です。
もし、本作を気に入ってもらえたら、コメントや評価ポイント★★★★★をいただけますと幸いです。
では、また別の作品でお会いしましょう。