第101話 そんな彼女の義妹の決意。
家に帰ると、いつもより豪華な夕食だった。
「とんかつに、寿司まであるじゃん!!」
俺が感想を述べると、父さんはビールを飲みながら返事をした。
「娘の晴れ舞台だからな。愛紗、かわいかったなぁ。な、ママ?」
「ええ。本当に。愛紗ちゃん、学校で一番、可愛かったわよ」
愛紗は胸を張った。
「当然じゃな」
俺も晴れ舞台だったんだがな……。
俺の存在は、完全に忘れられているらしい。
今日は両親ともライブを観に来てくれたらしく、それでお祝い会となったようだった。
両親はエンドレス晩酌なので、俺は先に自分の部屋に戻った。
「今日は、よく眠れそうだ。ここ数日、休んじゃったからなぁ。明日、リンネちゃんに嫌味を言われそうだけど」
ベッドに入ろうと部屋の電気を消すと、ドアがノックされた。
愛紗だ。
愛紗は、テーブルの前に座ると、何が言いづらそうにしている。愛紗らしくない。
「なに? 用事?」
俺が聞くと、愛紗は、少しおどおどした様子で答えた。
「あの、……今日はありがとう。すごく助かった」
そんなこと、明日でもいいのに。
「え、なに? なんかしおらしい態度だな」
「わたしだって、お礼くらいは、ちゃんと言うよ。お兄ちゃんは、いつもわたしを助けてくれる。あのさ……」
あれ、今日の一人称は我じゃないのか。こんな時は、決まって真面目な話がくるのだ。
「ん?」
「わたしのこと、どう思う?」
意味不明な質問だ。
「どうもなにも妹じゃん」
「そうだよね。でも」
「でも?」
愛紗は手のひらで胸のあたりを押さえた。
「もし。兄貴。おにーちゃん。蒼。いや、蒼くん」
「どうしたの? 改まって」
愛紗の顔は真っ赤だ。
目も虚ろな気がする。
「もし、……もし、わたしが本気で頼んだら、蒼くんは、わたしのこと、妹じゃなくて、ひとりの女の子に見れる?」
愛紗は、何か言葉を続けようと口を開いた。だが、俺は割り込んだ。
「おまえ、酒でも飲んでるのか? ……いや、なんて言われても、妹は妹だろ」
すると、愛紗は俯いてしまった。
「うん。そうだよね。……今日はありがとう。あはは。間違えてママのお酒、少し飲んじゃったのかも。用事はそれだけだから」
そういうと、愛紗は目を擦って駆けるように、部屋から出て行った。
愛紗がなにか真剣な話をしようとしていたのは分かった。でも、その先を聞いてはいけない気がした。話をさせないのは卑怯なのかな。
愛紗は、俺と違って出来がいい。美形だし、なんだかんだ言っても優しいと思う。だから、そんな愛紗が周りに褒められているのを見るのは、鼻が高いし痛快だ。
でも、それはどこまでいっても、妹に感じるソレであって、恋人に感じるソレではない。
まあ、もし。将来、愛紗が良い男を連れてきたら、「お前なんぞに妹はやらん!!」と言ってしまうかも知れないけれど。……これでいい。
「……はぁ」
……なんだか、やるせないな。
俺も酒が飲める年齢だったらなぁ。こんな時に、酒を飲んで紛らわすことができる大人が羨ましいよ。