第1話 そんな俺が告白された。
新連載です。
どうぞよろしくお願いします。
「付き合わない?」
ある日、クラス一のビッチに告白された。
俺は、藍良 蒼。
都内の高校に通う高2だ。
いわゆる、陰キャだ。
女友達はいないし、もちろん、年齢=彼女いない歴なのである。
だから、それは、生まれてはじめての告白だった。
彼女の名前は、片瀬 一歌。金髪でネイルもしていて、スタイルもいい。肌は小麦色で、外見は可愛いが、良い噂はない。
俺とは別世界の住人なので知らないが、男をとっかえひっかえしていると有名だった。
正直、ヤリマン、ビッチと言われている。
陰キャ仲間には、「そんな子やめとけ」って言われた。なにせ良い噂がない子なのだ。反対されるのは当然だろう。
だが、こんな俺に彼女ができただけで奇跡みたいな話だし、ラストチャンスかも知れないのに、噂だけで決めたくないと思った。
そもそも俺みたいな童貞には、可愛いだけでお釣りが来る。中身には期待しないようにしよう。
……うん。
それで十分だ。
そうして自分を納得させて、付き合うことにした。
だが、それっきり連絡がない。
一週間だよ?
告白された日にメッセージを送って、既読になったのが、ようやく昨日。そして返信もない。
俺、一応、彼氏だし。
初デートもまだだし。
メッセージのやり取りしないと約束を決められないし……。
俺はもう一回、メッセージを送ってみた。
すると、今回はすぐに既読がついて、返信がきた。
「なに? 用事?」
うーん。
これって、きっとツンデレだよね?
平成のメンズを虜にしたアレだよ。
きっと、本気でイヤな訳じゃないと思う。
「いやさ、俺ら付き合ったしデートでもどうかなって」
「え? あぁ。あの話、まだ続いてたの?」
え。
うちらの交際って始まる前に終わってたの?
「だって、そっちから言われたし……」
一歌の返信は、そっけない。
絵文字もスタンプもない。俺は不安になった。
「そっか。そうだったね。まあ、暇だし、それくらいなら、いいよ」
なんか本気で俺に興味がなさそうだ。
やっぱり、付き合ったのも何かの勘違いだったのかな。
たとえば、俺に告白したのは罰ゲームとか……、ありそうすぎて、怖くて確認できない。
次の土曜、駅前で待ち合わせした。
待ち合わせは12時だったが、12時半になっても一歌は来ない。
今日は曇りだが、6月なのに夏日だ。
ジメジメしていて、立ってるだけで汗が吹き出してくる。
12時45分。
彼女は来た。
彼女は、普段着……というより、そのへんのコンビニにでも行くような格好だった。いつもの派手な付けまつ毛もないし、メイクも最低限しかしていない。
意外にもすっきりして、幼い目元だ。
明らかにやる気はないが……いつもより可愛い。
「おはよ」
俺が声をかけると、一歌は不機嫌そうに答えた。
「おは……、っていうか、それ遅刻のあてつけ?」
どうやら、遅刻したという認識はあるらしい。
なぜ謝らないのか。
「……そんなことないけど」
あてもなく並木道を歩く。
とはいっても、お互い無言だ。
俺の数メートル後を一歌が歩く。
やばい。気まずい。
すると、一歌が立ち止まった。
そこはラブホテルの前だった。
「……ここホテルだけど」
一歌は俺の袖を掴んだ。
「いや、だって。アンタだって、ヤリたいだけなんでしょ? 罰ゲームだからって、アンタと付き合うとか言っちゃったし。それくらいの責任とらないとっていうか。……わたしも、最近してなくて、その……欲求不満だし」
一歌は俺の顔を見ると、眠そうな目を見開いた。
「アンタ、なんで泣いてるの?」
俺は泣いてしまった。
涙がポタポタと落ちて止まらない。
たしかに、一歌に何も期待しないようにしていた。でも、どこかで、本当はいい子なんじゃないかって、期待してしまったんだと思う。
でも、彼女は噂通りだった。
初めての彼女がそんなだなんて、なんだかショックだった。
「ごめん。俺、勝手に期待しちゃって」
一歌はどうしていいか分からない様子だった。
「いや、わたし、なんか悪いことしたのかな」
この子、ほんとに分からないのか……。
「いや、俺が悪い。ちょっと、帰るわ」
俺が悪い。
勝手に色々期待して、彼女に押し付けていた。
一歌は最初から、素のままだ。
それなのに、欲を出して受け入れた自分が悪い。
「ちょっと!!」
一歌が俺の手首を掴んだ。
「離して」
俺がそういうと、一歌は首元に手を当てて言った。
「まだわたし、責任果たしてないし。明日、日曜日でしょ? 時間ある?」
「あるけど、なんで?」
「……デート、やり直してあげる」
なんだか微妙に上から目線だな。
それに責任って、義務みたいじゃないか。
こんな扱いで、自分でも情けないって分かっている。でも、まだどこかで未練あるのだろう。
生まれて初めて彼女ができて浮ついた気持ちは、まだ、俺の中でくすぶっているようだった。
「別にいいけど……」
俺と一歌は、また明日も会うことになった。
※イラストは一歌です。
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