決断の旅路
とある街の言い伝え、「山の奥には、魔女が封印されているから近寄ってはいけない」
その言い伝えは代々守られてきた。
だがある時1人の少女が山に入っていった。
そこで、少女の見たものは断崖絶壁の海。
山の反対側には海が広がっていた。
少女は思わず見惚れ、足を滑らせて海の中へ落ちてしまうのだった。
「ねぇ……おきて!起きてってば!」
何かの声がする…私は確か…海に落ちて…
「大丈夫?…よかった生きてるみたい」
私はゆっくりと目を開ける。
あまり明るくなく目が痛くなかった。
「おっよかった、意識もしっかりしてる」
そして、さっきから私を揺すっていたのは人形のウサギのような姿をしたモンスターだった。
「ひっ!」
私は思わず、そんな声を出して後退りする。
しかし、後ろには尖った木の枝があったようで私の腹に突き刺さった。
「かぁはぁ!」
「ちょっと!動かないでね?今助けるから…よし内臓は避けてる」
ウサギモンスターは鋭い爪で突き出た木を切る。
「今抜くから、その後すぐに止血するね」
鋭い痛みが再び腹をかけめぐる。
「よっと」
ウサギモンスターは毛皮を包帯のように当てて、私を何処かに運び始める。
そこで体力が尽きて、私は気絶してしまった。
そして、次に目覚めた時にはふかふかのベットの上だった。
「ここは…?私は何を?」
「お?起きたね」
声のする方に体を向けようとした時腹に痛みが走った。
「グッ!」
「ああ、もう動かないでねまだ腹の傷塞がってないだろうから…ちょっと待ってで」
さっきのウサギモンスターは私を起こしベットの背もたれによりかからせた。
「はぁ…はぁ…あなたは?私を助けてくれたんでしょ?」
「うん、そうだねみんなもそうすると思うよ」
「みんな?あなたみたいのが大勢いるの?」
「うん、元気な子もいれば内気な子もいる…君がいた世界と仕組みは変わらないはずだよ」
私がいた世界?つまりはここはどこ?
「心配しないで、ここは魔法の海の底君はあの山から落ちてここまできたんでしょ?君の傷が治ったらいつでもかえ」
「そうなんだ…でもあなたたちは?いつでも出れるならどうして地上に出ないの?」
ウサギモンスターは自分で耳を撫でながら上を向く。
「出たい気持ちはあるけど、君みたいな人が来るでしょ?それにここは海の底、かなり混乱して出口が見つからないこともあるんだ、だから僕達は君達を助けられる限りはここを出ない、十分歳をとったらここを出ていくんだよ…おっと、そろそろご飯の時間だ少し待っててね」
ウサギモンスターは黒いコートを脱いで椅子にかけ、すぐに焼いたパンと目玉焼きがベッドの上の机に並べられた。
ウサギモンスターはリンゴを手にもってナイフで斬り始めた。
「ああ、そう言えば僕の自己紹介がまだだったね、僕はフローリー見ての通りウサギのモンスターさ」
フローリーは、リンゴを切り終え半分を私の皿に乗せた。
「私は…チリト・レーファよ、低級次元の人の子、狩人をやって家族を守ってるの」
パンを一口かじる、今までで味わったことのない小麦の甘みを感じた。
「そうか、レーファさんか…」
「レーファでいいわ」
「レーファ…とりあえず、君の傷が治ったら出口に案内するね」
「うん、ありがとうフローリー」
これが、フローリーとの出会いだった。
私はこの寝室で1週間を過ごした。
でも、長くは感じなかった。
フローリーが仲間を紹介してくれたり、本を持ってきてくれたり包帯を変えてくれたり、リハビリまでしてくれた。
毎日のフローリーの話が楽しみだった。
いつものようにリハビリを終えて、寝室に戻りフローリーが傷口の確認をしてくれた。
「うん、だいぶ塞がってきたねもう地上に出ても大丈夫そうだ」
私はそう聞いた時、嬉しく思えた。
でも、その言葉は私とフローリーの別れを意味する言葉でもあった。
「明日ここを出よう、僕が案内するよ」
そうして、ついに別れの日がやってきた。
私は今までお見舞いに来てくれたモンスターと最後の言葉をかわし、フローリーの元へ向かった。
「あっ、レーファ来たんだね…もう大丈夫だと思うけどこれを持って」
フローリーは包帯を私に手渡した。
「さて、行こうかこっちだよ…」
フローリーは私が落ちてきた所に案内した。
倒木の尖った枝に血がついていた。
「この先の階段を上れば…」
フローリーは腹を押さえて倒れ込み倒木の先の階段を指さす。
「ちょっと!大丈夫?フローリー!?」
「大丈夫…さ、ばいばいレーファ」
私はその言葉が永遠の別れを意味すると思い、フローリーの服をめくり腹を見る。
そこには、血だらけで皮が剥がれて筋肉が露出していた。
「フローリー!何をしたの!?」
「実はね、君にやってきた包帯は僕の死んだおじいちゃんの毛皮から作ったものなんだ、でも昨日それがキレただから僕の毛皮を使ったんだよ…」
「そんな…無茶な…バカ!こんなのうれしくなんてないよ!私のためになんかならないよ!」
「そんな、バカがいてもいいと思うよ……僕は最期まで君たちのような人の助けになりたい…」
フローリーはそう言うと、目に涙を浮かばせた。
「でも、最期に地上の日が見たい…」
「っ!」
私は急いでフローリーを担ぎ、階段を登っていく。
「僕の…僕の夢は…人間の友達だった…」
「喋らないで!体力が減るだけよ!」
まだ、腹に痛みを感じているが歯を食いしばって何とか外に出た。
そこは、断崖絶壁の山の上…
そして、丁度水平線の向こうから日が昇ってきた。
「僕は幸せ者だな…こんなに若いのに日を見れるなんて…」
私はさっきもらった、包帯を取り出しフローリーに巻こうとしたがそれをフローリーは拒否した。
「実はもうひとつ腹を切った理由があるんだ…君と同じ苦しみを味わいたかったそれで、僕の気持ちが晴れると思ったから…君があの枝に刺さったのは僕のせい…」
「違う!私のせいよ!あなたは何も悪くない!」
段々空が明るくなってきた。
「ああ…もう僕は駄目だな…レーファ僕が死んだらまた海に落としてくれ…僕はおじいちゃんのように包帯にしてほしい…そして最期に言いたいことがある…」
「何?なんでも!いって!」
「レーファ…最高の狩人になって彼らを守って」
「フローリー!おい!目を開けろ!フローリー!」
いつの間にか私の頬には冷たい水が流れていた…
私はフローリーを抱きしめたあと、海に落とした…
これで、彼の願い通りになった。
私は、包帯をおでこに巻いて森を降りた。
今日の森は、やけに静かで日だけが元気だった。