7. 仕事
非能力者と能力者の平等を訴える国からすれば、この国の様に能力主義の国の存在は迷惑だ。能力者が非能力者を下に見始める可能性があるからだ。なので能力主義の国が上手くいっていない方が得をする国はある。
また、能力者でも地位の低い者の中にも能力主義に疑問を持つ者が居る。そういう者は能力者と非能力者が平等の国に行ったり、能力主義の国で下剋上をしたりする。
何が言いたいかと言うと今、能力主義の国は世界中から攻撃される立場にある。時代が変わり能力主義を掲げるのは古くなっている。時代は平等が主流となっている。
何方が良いとか俺には議論する気は無い。この国が何処に進もうと俺はそれを見ているだけだ。
『この国の行く末を私の代わりに見届けてくれませんか?』
ずっと昔、俺の初恋の相手に言われた言葉だ。俺は初恋を拗らせて、未だに引きずっている。その子に頼まれた通り、死んでしまった彼女の代わりにこの国の行く末を眺めている。
だからこの国が滅びる可能性のある物は排除する。それが俺の行動の指針となっている。
今、この国は敵対する国の兵に入り込まれて何らかの作戦行動を自由に取られている。この状況は不味いと思い、俺は行動を開始した。俺の部下が情報を得ているということは、政府は勿論知っているということになる。何か表立って動けない理由があり、俺達任せになったと予想出来た。
(外交的な理由か…)
思想的に敵対していても、経済的に協力する関係の国は多くある。今回の件が表に出て貿易が停止されたら困る。ということなのだろう。
「状況は?」
「潜り込んで来たのは三個小隊。それぞれが別々に行動しています」
「敵の目的は?」
「恐らく原子力発電所かと」
「サクッと始末するか。二個小隊は任せた。最後は俺が受け持つ」
「了解です」
部下は俺が一個小隊を始末する事に何の疑問も持たずに指示を了承した。まあ、今までの実績を考慮すれば当然の話だが。
さて、発電所を壊されるとこの国は終わりだ。今、この世界で電力が無くなって今まで通り暮らしていける国は無い。壊滅的な被害が予想される。
(止めなきゃいけないやつだな)
俺は部下が得ている情報を確認して急いで現場に向かう。
俺は永遠に走れる。勿論能力を使っているからだ。その為、一般人よりも早く行動できる。慎重に進軍する敵の軍隊には直ぐに追いつくことが出来た。敵は森の中を進軍していたので先回りして堂々と立っていた。
暫くして、銃弾が飛んで来た。銃弾は俺を貫通した。例の如く、傷は次見た時には無くなっていた。そして、潜伏していた一個小隊も全員がその場に倒れていた。俺は自身の日記を開いた。そして中身を見た。
その後、俺は全員の手足を手錠で拘束した。そして部下が残り二個小隊を始末して、この場所に来るのを待った。来てくれと指示した訳では無いが、来てくれる気がした。
(それにしても…ね…)
こんな簡単に兵に侵入されるのは由々しき事態だ。それとも態と引き入れて、何か考えがあったのか。
今の政府と俺は個人的な繋がりが無い。その為、今の政府の考えが全く分からなかった。
「そっちも無事片付いたみたいだな」
俺が胡座をかいて座っていると部下がやって来た。予想した通りの結果に思わず笑顔になる。
「隊長のように周辺が無傷という訳ではありませんが」
「それは情報封鎖すれば何とかなるだろう」
「既に行動を開始しています」
相変わらず優秀な部下だ。全てを言う前に最善の行動をしてくれる。普段から指示をしていないので、そういう力が身に付いたのだろう。良く言ってみれば俺の教育の賜物だろう。悪く言えば戦力以外では俺は期待されていないのだろう。
「じゃあ、後はいつも通り頼んだ」
「了解です」
俺は適当に指示を出して歩き出す。日が昇り始めていたので森の中を堂々と進む。今度は北へと向かう。最近は暑くなってきているので、北へ涼みに行こうと思った。
ただ、今回の事でやらなくてはいけない事が出来た。今の政府の考えを知る必要があった。今の政府に俺の知る人間は居ない。知っている政治家は全員引退してしまった。この国の政治家は世襲制では無い。選挙の際、親の実績は反映されない。個人の実績と学歴、公約で判断される。その為、子供だからと言って簡単には当選しない。それに政治家になるためには会社の経営歴等様々な資格が必要になる。一朝一夕でなれるものではないのだ。その時代その時代の優秀な人が選ばれるような仕組みになっている。
なので彼らとの接点が無い。それを早急に得なければならない。そうしないと何処まで俺が行動して良いか分からない。やり過ぎて彼らの邪魔をしてしまうのは俺の望む所では無い。それを確かめるのが今一番やらなきゃいけない事だ。
(いつの時代もやる事が無くならないな)