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6. 休暇

 子供を預けて一人になった俺は旅に戻った。俺は無職では無い。ちゃんと働いている。俺の仕事は融通が利く。というか融通を利かさせている。そうで無ければこんな風に平日の昼間から外を自由に散歩は出来ないだろう。

 でも、仕事を適当にしているわけではない。俺の役職は上層部に位置する。あらゆる場面を想定し、その対応も考えてマニュアルを作り、それに従って対応するように部下に指示を出したら俺はやる事が無くなった。マニュアルに無い事案や対応が難しい事柄のみに対応するのが俺の仕事になった。その仕事も俺がこなせばそれがマニュアルになり更にやる事が無くなった。だからこうして何時も旅をして遊んでいる。

 今は西に向かってただ足を進めていた。目的地は無い。以前通った時との変化を楽しみながら前に進んだ。こうしている間も皆が仕事をしていると思うと最初は罪悪感があったが、今は何も思わなくなった。

 以前来た時にも在った蕎麦屋さんに俺は入った。


「いらっしゃいませ」


 店内には数人の客が居た。常連だろう。店主と楽しそうに話していた。

 俺は案内された席に座ってメニューを見た。色々な種類の蕎麦があった。目新しい、珍しい物は無かった。俺は温かい天ぷらそばを頼んだ。天ぷらを揚げるのに時間が掛かっていたみたいだが、それ程待たずに商品が提供された。


(ちょっと間違えたかな)


 最近は夏が近づき熱くなってきていた。なので温かいそばを頼んだ事を少し後悔した。

 少し汗をかきながら俺は蕎麦を完食した。店主にご馳走様でしたと言ってから俺は店を後にした。外に出ると汗をかいた体に優しい風が当たって気持ち良かった。

 俺は再び西へと足を向けた。西には建物は無く山があった。日も暮れかけていたが俺は山へと向かった。一般人は山へは単独では入らない。ましてや日の暮れた山に入る人は居ない。ただ俺は能力者でまあまあ強い。大丈夫だろうと安易に考えて山に入った。

 この世界では生物は突然変異をする。それは遺伝の段階で変化するのではなく、後天的に変異する。人、動物、魚、昆虫、様々な生物が突然変異する。理由は未だに分かっていない。だが、突然変異する事で強力な能力を得る事が出来る。その代償として理性を失って本能で行動するようになる。人を襲い、建物を壊したり様々な行動をするが、何れも人々に甚大な被害が及ぶ。この国ではそれらに対抗する為の能力者で構成された組織がある。彼らは善意だけでは行動してくれない。莫大なお金と引き換えに変異した生物を殺してくれる。


「お前か」


 山の奥深くにそれは居た。兎の突然変異体だ。体は大きくなり、禍々しい靄を放っている。変異体についての研究はあまり進んでいない。だが、はっきりした共通点がある。皆禍々しい霧を放っている。その霧が変異の原因と言われているが、死ぬとその霧は消えてしまって未だに詳しい調査が出来ていない。

 この村ではこいつの存在は認知されているが、討伐の費用を出せない。なので此奴はこのまま放置されていた。比較的大人しい性格の個体の為、被害が出ない限り放置されるだろう。

 兎の変異体は俺を警戒していた。俺はそのまま近づいた。兎は高速で俺の後ろへと移動した。


(これがこいつが獲得した能力か)


 兎の大きく伸びた爪が俺に襲い掛かった。俺の背中から爪が突き刺さった。しかしその傷は直ぐに消えた。血の跡も無くなっていた。そして俺の後ろには、恐らく変異前の兎が居た。兎はそのまま意識を失っていた。俺は自身の日記を開いた。そして中身を見た。

 これであの村の住民も安泰だろう。

 俺は暗くなった周囲を見る。流石に動くのは危ないと思い、周囲に在った大きな木に寄り掛かった。夏の陽気とは言え夜は冷えた。俺は用意していた上着を羽織って空を見上げた。空には無数の星が在った。都会よりも澄んだ空気の為か、綺麗に見えた。

 俺はその星を見ながら寝ないようにスマホを弄って時間を潰した。スマホのカメラで夜空を撮ろうとしたが、持っていたスマホの性能ではこの星空を綺麗に撮る事は出来なかった。


(これからどうしようか)


 俺にはやらなきゃいけない事は無い。やりたい事も無い。正確にはやりたい事が一つあるが、それは今の状況なら何もしなくても達成できる。他の人にある仕事に対する責任感や生活を良くしようとする向上心、誰かと過ごす協調性、上げたらキリが無いが他の人にあるそれらが俺には欠けているんだろうと思う。俺は夢中になれる物を探す為に旅をしているのかもしれないと思った。何でも良い、あの頃のように夢中になって過ごした日々に戻りたいと、未練がましく思っている自分が嫌になった。


(そんなの今更か)


 そんな事を考えているとスマホに着信があった。部下からの連絡だったので、俺は直ぐに電話に出た。


「敵勢力が国内に侵入しました。排除するには人手不足です。戻ってきてください」

「分かった」


 部下は要件に了解した旨を伝えると直ぐに電話を切った。


(考えるのは止めだ)

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