表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/11

未来へのエピローグ「永遠の約束、家族の絆」

 朝日が差し込むリビングに、穏やかな空気が漂っていた。葉月詩音は窓際に立ち、庭に咲く満開の桜を眺めながら、静かに微笑んでいた。


「ママー!」


 突然の声に、詩音は振り返る。そこには、駆け寄ってくる5歳の娘、ゆかりの姿があった。


「おはよう、ゆかり」


 詩音は腰をかがめ、ゆかりを優しく抱き上げた。ゆかりの柔らかな髪の香りが、詩音の胸を温かく満たす。


「ねえねえ、今日はピクニック行くんでしょ?」


 ゆかりの目が期待に輝いている。詩音は微笑みながら頷いた。


「ええ、そうよ。お母さんが帰ってきたら、みんなで行きましょうね」


 その時、キッチンから澪の声が聞こえてきた。


「詩音ちゃん、ゆかり、朝ごはんできたわよ」


 詩音はゆかりを抱きかかえたまま、キッチンへ向かう。そこには、エプロン姿の澪が立っていた。10年の歳月を経て、澪の面差しにはかつての少女の面影と、大人の女性としての落ち着きが共存していた。


「おはよう、澪」


 詩音が近づくと、澪は優しく微笑んだ。


「おはよう、詩音ちゃん。ゆかり、おはよう」


 澪がゆかりの頬にキスをすると、ゆかりは嬉しそうに笑った。


「お母さん、今日のピクニック楽しみだよ!」


「ええ、私も楽しみよ」


 澪は優しくゆかりの頭を撫でた。


 朝食を囲む三人の姿は、まるで絵に描いたような幸せな家族の光景だった。詩音は時折、澪とゆかりの顔を見ながら、心の中で感謝の念を噛みしめていた。


(10年前、あの神社での誓いが、こんな幸せな未来につながるなんて……)


「詩音ちゃん? どうしたの?」


 澪の声で我に返った詩音は、少し照れたように微笑んだ。


「ううん、なんでもないの。ただ、こうして家族で過ごせる時間が、とても幸せだなって」


 澪は詩音の手を優しく握った。


「私もよ。あなたとゆかりがいてくれて、本当に幸せ」


 二人の視線が絡み合う。その瞬間、ゆかりが声を上げた。


「ねえねえ、早くピクニック行こうよ!」


 詩音と澪は顔を見合わせ、思わず笑みがこぼれた。


「そうね、準備しましょう」


 詩音が立ち上がると、澪も続いた。


「ゆかり、お弁当作りを手伝ってくれる?」


「うん! 頑張る!」


 ゆかりの元気な返事に、詩音と澪は心を温められる思いだった。


 三人で準備を整え、家を出る頃には、春の陽射しが辺りを明るく照らしていた。詩音と澪は、ゆかりの両手を握り、ゆっくりと歩き始める。


 桜並木の下を歩きながら、詩音は心の中でつぶやいた。


(これが私たちの選んだ道。そして、これからも歩み続ける道)


 澪が詩音に微笑みかける。詩音もその笑顔に応える。二人の間で、ゆかりが楽しそうに小躍りしている。


 春の柔らかな風が、三人の幸せな時間を優しく包み込んでいった。



 夜の静けさが、葉月家を優しく包み込んでいた。リビングの窓から差し込む月明かりが、部屋に幻想的な雰囲気を醸し出している。詩音と澪は、ソファに寄り添って座っていた。二人の指が自然に絡み合う。


「ゆかり、すっかり寝てしまったわね」


 澪が優しく微笑みながら呟いた。詩音は頷き、澪の肩に頭を寄せた。


「ええ。今日は本当に楽しかったみたいね。ピクニックの間中、ずっと笑顔だったわ」


 詩音の声には、母親としての幸せと誇りが滲んでいた。澪は詩音の手を優しく握り締めた。


「詩音ちゃん、私たち、本当に幸せよね」


 澪の声が、部屋の静寂を優しく破る。詩音は目を閉じ、深く息を吐いた。


「ええ、本当に……時々、夢を見ているんじゃないかって思うくらいよ」


 詩音は目を開け、澪の瞳をまっすぐ見つめた。そこには、10年前と変わらぬ愛情が宿っていた。しかし、その深さは比べものにならないほど増していた。


「覚えてる? あの日、神社で交わした約束」


 澪の問いかけに、詩音の目に懐かしさが浮かぶ。


「ええ、もちろんよ。あの日、私たちの人生が大きく変わったわ」


 詩音は澪の頬に優しく手を添えた。澪は詩音の手の温もりに身を委ねる。


「あの頃は、こんな幸せな未来が待っているなんて、想像もできなかったわ」


 澪の声が少し震える。詩音は澪を優しく抱きしめた。


「私もよ。でも、あの時確かに感じたの。澪と一緒なら、きっと乗り越えられる。そう信じていたわ」


 詩音の言葉に、澪の目に涙が光る。


「詩音ちゃん……私たち、たくさんの困難を乗り越えてきたわね」


 澪の言葉に、詩音は静かに頷いた。二人の脳裏に、これまでの道のりが走馬灯のように駆け巡る。


 大学での別れ、再会、そして同性婚を決意するまでの葛藤。家族や社会の偏見との闘い。そして、ゆかりを迎え入れるまでの長く険しい道のり。


「でも、全てが今の幸せにつながっているのよ」


 詩音が静かに語る。澪は詩音の胸に顔を埋めた。


「ゆかりが私たちの娘になってくれて、本当に幸せよ」


 澪の声が詩音の胸に響く。詩音は澪の髪を優しく撫でる。


「ええ。ゆかりは私たちの宝物よ。彼女の笑顔を見ると、全ての苦労が報われる気がするわ」


 二人は黙ったまま、しばらく抱き合っていた。月の光が二人を優しく照らす。


「ねえ、詩音ちゃん」


 澪が顔を上げ、詩音を見つめた。


「なあに?」


「私ね、毎日感謝してるの。あなたと出会えて、愛し合えて、そして家族になれて」


 澪の言葉に、詩音の目に涙が浮かぶ。


「私もよ、澪。あなたは私の人生そのものだわ」


 二人の唇が、静かに重なる。10年の歳月を経て、二人の愛は深く、強く、そして優しいものへと成長していた。


 キスが終わると、二人は額を寄せ合った。


「これからも、一緒に歩んでいこうね」


 詩音の囁きに、澪は静かに頷いた。


「ええ、必ず。私たちの愛の物語は、まだ始まったばかりだもの」


 月明かりの中、二人は再び抱き合った。その姿は、まるで永遠の愛を誓う彫像のようだった。


 隣の部屋では、ゆかりが安らかな寝息を立てている。その小さな命が、詩音と澪の絆をさらに強くしていた。


 幸せな家族の夜。それは、二人が長い年月をかけて紡ぎ上げてきた愛の結晶だった。そして、これからも二人の愛は、ゆかりと共に、さらに深く、美しく成長していくことだろう。


 月の光が、永遠の愛を誓う二人を静かに見守っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ