1話 一般人、時々人助け
俺の名前はヒロト。何てことはない一般人。今日も今日とてバイトに勤しむ。
「疲れたー」
なんて、動物の鳴き声のように、帰り道ずっと疲れたを連呼していた。
ドォン
どこかで爆発音がする。擬音がダサいのは気にしない。
「どこかというより、一本向こうの道だな、これ」
全く、こっちは田舎の中でも都心よりだというのに。未だにヤンキーみたいなのがいるんだから。そういうのは地元で終わらせるべきだ。そういう格好つけるのは、地元だでけ終わらせるべきだ。
けどまあ、うん。娯楽で溢れたこの時代、面白そうな事があれば寄ってみたくなるのが野次馬精神。人間の性。飛んで火にいる夏の虫ならぬ、火事現場に駆け寄るバカな野次馬だ。
路地を抜け、現場に着く。
「わお。こりゃ酷い」
あのクソださ擬音からは想像もつかない、とんでもない被害が出てた。まあね。どんな世界なのか知らないであろう読者諸君はわからないだろうけど。簡単に言うのであれば、昨日までは、崩れるってどういう意味?みたいにそびえたっていたビル(マンションだったかな?)が、崩れ去っていた。見たところ、瓦礫の中に人はいなさそうだ。
とはいえ、見える範囲でだ。もしかすると、瓦礫の下、見えない場所に人がいるのかもしれない。想像力の乏しい俺ではどういう状況なのか、想像できやしないが。瓦礫に下敷きにされて、嬉しい人間なんてのはいないだろう。
助けなくては。
そう思うが、状況が状況。俺一人でどうにかなる訳ない。いやこういうのは一人一人の力がうんたらかんたらだけど、塵も積もればなんとかだけど、流石に災害?現場に一般人が長居しても良い事なんてない。こういうのは、プロに任せるべきだ。
あの爆音を聞いて3分以上は経った。ならあと1分も経たないぐらいで、プロが来る。
「どいてどいて、私はイートイーター、ヒーローだ。ほらどいて」
野次馬の群れを掻き分けて、野次馬より遅くヒーローが到着した。
ヒーローは遅れてやってくるなんていうが、今回は流石に遅すぎるのでは?いや批判したい訳ではない。普通に、こんな大規模な爆発なら、なんというかこう、前もってなんとかできたのでは?と思ってしまう。いやだって爆破するなんて大抵犯行予告出してからやるし。まあきっと出してなかったからこうなったんだろうけど。
「1班は負傷者がいないか見回り、2班は近くに犯人がいないかの捜索と周辺警備、3班は私と一緒に瓦礫の撤去」
「「「ラジャー」」」
ヒーローと言っても人それぞれで、それこそヒーローっぽく、一人で活動している人もいれば、目の前にいる、軍隊みたいに、チームで活動している人もいる。まあ軍隊なんて知らんけども。
「これは、沢山食べないとダメだな」
なんて、ヒーローの愚痴を聞いて、家に帰る事にした。
◇
俺の住んでる場所は若干治安が悪い。ヤクザの縄張りとか、そういうのではないのだが。いわゆるところの暴走族だとか、おしゃれなのかよくわからない落書きがそこら中にあるとか。とにかく、あまり良い場所とは言えない。俺個人の感想を述べるのならば、普通に嫌い。さっさと引っ越したいぐらい。
でもそれはそれとして。そこは俺の生まれ故郷であり、大切な思い出が詰まってる場所だ。ちょい悪ヤンキーのバイクの後ろに乗せてもらったとか、意味わからん落書きの書き方レクチャーを受けたりだとか、数えれない程思い出もある。ので、そんな嫌いな町に住んでいる。
まあ本音を言えば、引っ越す為の費用がないだけなのだが。
そんな嫌いな町への帰路。お世辞にも綺麗とは言えない路地にて、問題が発生した。
「姉ちゃん、ちょっと一緒に来てくれよ」
「楽しい事したくない?」
「ちょ、やめてください」
「へへ、大丈夫大丈夫。どーせ一緒に気持ちよくなるだけだから」
「ふふ、私達、相性良いと思わなぁい?」
なんというか、ありきたりな、ナンパと言うか、シンプルセクハラというか。それがあった。
……。え?あのナンパしてるグループ、綺麗な姉さんがいるんだけど。……。それは見なかった事にしよう。
さて。あの女子校生も嫌がっている事だし、見て見ぬふりもできないし。助け船を出すとしますか。俺って良い人ー。
「待たせちゃってごめん、ささ、いこっか」
こんな事言うのもあれだが、女性経験のない俺ではどんな風に助ければ良いのかわからない。まあ違ってたとしてもなんとかなるだろ。
「?」
「?」
「?」
なして全員頭にはてな浮かべるん?なして助け求めてた子まで疑問符浮かべるん?悲しいよぼく。
「おいあんちゃん、今なら見逃したる。さっさと去ねや」
なに、この、ごっつい方言野郎。今日日聞かねえよ、そのこてこてな方言。
でもそうか。さっきので伝わらなかったのか。うん。まあしゃーない。遠回しにものを伝えるのって難しいからね。しゃーない。
「じゃあ言い直す。そこの女の子嫌がってるんだから、お前らの方こそさっさと去ね、だよ」
「はい死刑ー」
うわこいつ、こいつら短期すぎるだろ。ちょっと言い返すだえでブちぎれじゃん怖。ヒステリックかよ怖。
正面にいた、こてこて方言野郎が、えらくゆっくりなパンチを繰り出してきた。これじゃあ躱してくださいと言わんばかりの遅さなのだが、きっと躱すとまたブちぎれる。うん。こういう輩はなにやってもキレるもん。
だからしょうがなく、しょうがなくね?向こうが殴ろうとしたからしょうがなく、自己防衛させてもらう。
具体的に何をするのかといえば、伸びてきた腕を払いつつ掴み、その流れでぶん投げる。柔道の背負い投げみたいな感じだけど、俺のやったのはそんな立派な技じゃあなく、腕を掴んで力でぶん投げただけだ。だから下に叩きつけるんじゃなく、壁まで飛んでいった。
これで一人ダウンだ。あと三人。
「てめぇ!」
「よくもハルを!」
「いやいや、向こうが仕掛けて来たんだろうが。こっちは正当防衛。お分かり?俺、悪い事、してない」
「野郎!」
男二人が向かってきた。女の方は、とりあえず様子見、といった感じだった。被害者の子は、人質とかにはされていないので、こちらも思う存分できる。
男二人いるので、便宜的にAとBで分けよう。Aはポケットからナイフを取り出し、Bが素手のまま殴り掛かってきた。
Aはナイフを取り出すひと手間があったせいか、Bの方が先に攻撃してきた。
さっきの奴の同じ轍を踏まない為か、腹辺りを狙った感じのアッパー攻撃だった。
でも、残念というかなんというか。折角人数の利があるのだから、二人同時に攻撃すればいいものを。それこそ挟み撃ちにするとか、連携攻撃をするとか。色々とあるじゃん。
にもかかわらず、それらをせずに、向こうは二人いるだけで、一対一を二回するだけ。これじゃあさっきの焼き直し。
という事で、次のシーンは二人がやられて、女が慌てふためくシーンです、どうぞ。
「そんな、あんたたち、どうしたのよ!なに寝てんのよ!」
「さっさとその三人連れて帰ってもらえる?これ以上大ごとにしたくないのなら尚更」
「チっ、憶えてなさい!」
潔く、小者感漂うセリフを残して逃げて行った。と言っても、三人も引きずってるから、全然去って行った、という感じではないが。とにかく一件落着だ。
「大丈夫?」
「あ、ありがとうございます」
「うん、大丈夫そうならよかった。次からは気を付けるんだよ。こんな薄暗い路地にうら若い女性が一人で居たら、襲ってくださいって言ってるようなものだから」
それに、制服を着ているのだもの。年齢も大体想像つくというか、その層を狙った犯罪者が寄って来ちゃうよ。
というか、よく見ると、とても美人だなおい。綺麗な黒色の髪を、校則で決まっているのか後ろで纏めている。ポニテ。ちょっとばかしつり眼でキツメの印象を抱かせるが、それ以上に佇まいと言うか、よくわからないけどとにかくキツイと言うよりは上品というか、語彙力がないせいで全然うまう伝わらないがとにかく綺麗な人だ。
「わかりました、ありがとございます」
うん、こうまでストレートに感謝を聞けると、とてもくすぐったい。普段こんなストレートに感謝されないから、抗体ができていない。
「あの、名前、聞いていいですか?」
「ん?俺の?」
あいや、俺以外の名前なんて聞くはずないか、この状況だと。
『君に名乗れるほどの名なんてない』、みたいな事を言ってみたいが、ボケるタイミングじゃないし、普通にしらけるから、普通に名乗る。
「ヒロト。ただのヒロト。ヒーロー見習い、かな?」




