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二話

 


「何故殿下が……?」


 思わずローズマリーが口を開くと、彼はこてりと首をかしげてみせる。


「婚約者を迎えに来ることはそんなに変なことだろうか?」

「え、いえ、そういうわけでは……」


 狼狽えるローズマリーにしかしレオンハルトは気にした様子もなく、良かったと微笑み返す。


 そうしてふと視線をローズマリーのドレスへと下げ、嬉しそうに口を開いた。


「そのドレス、着てくれたんだね。贈らせてもらった甲斐があるよ」

「……ええ、その、ありがとうございます」


 その言葉にああ、と彼女は何故ドレスが今回だけ違うのかを理解した。そのドレスの色は彼の瞳の色と同じなのだ。つまり、このドレスの贈り主はレオンハルトだということを指していた。


 しかしそこまで理解してもとてもでは無いが頭が追いついてこない。


 一体これはどういうことなのだろうか。


 何故、ローズマリーの婚約者がレオンハルトになっているのか。五度目の人生なんだかよく分からない方向に変わってません!?と彼女は心の中で叫んだ。


 しかしこれでは当初予定していた悪役令嬢になるという目標が達成できないのではないだろうかとふと彼女は不安になる。なにせ例の少女はエドガーに近付いたのだ。レオンハルトの婚約者となった今の自分の身では彼女に悪事を仕出かす理由が見当たらない。


 と、そこまで考えてふと思いとどまる。


(あれ、でももしかしてレオンハルト殿下と婚約関係にあったら変な罪をでっち上げられたりすることなんてなくこの一年を生きることが出来るんじゃないかしら)


 ローズマリーはしげしげとレオンハルトを見つめた。


 サラサラの金糸雀のような美しい金髪にエメラルドを思い起こさせる翠色の瞳。そのかんばせは人形のように精巧で美しく、それこそ物語の王子様のようである。


 そんな彼はこの国の王太子としても有能であった。どこかの誰かさんとはまるで大違いである。


 そんな彼が何故だか分からないが今回のループでは婚約者となっているのだ。もしかしたら、とどこかでローズマリーは希望を見出してしまった。


 ───もしかしたら、生きる道があるのかもしれない、と。


「ローズマリー、私の顔になにか着いてる?」

「……いえ、なんでもありません殿下」


 いけない、あまりにもまじまじと見すぎてしまったかもしれないと彼女はゆるりと首を振る。


「そう?ならいいんだけれど……それと殿下なんて他人行儀な呼び方じゃなくていつもみたいにレオンハルトと呼んで欲しいな」


 きみには名前で呼んでいてもらった方が嬉しいんだ、と笑うレオンハルト。

 いつ自分がレオンハルトのことを名前で呼んだのかなんて勿論記憶にあるはずもなく、内心でローズマリーは首を傾げるものの、きっとこのループされる前の出来事であったのだろうと結論付けた。

 そして恐る恐るその名前を呼んでみせる。


「……レオンハルト様?」

「うん、その呼び方の方が嬉しい」

「左様ですか……」


 にこりと甘く微笑む彼にローズマリーはほっと胸を撫で下ろす。どうやらその呼び方が正しかったようだ。


 そんな彼女の前にレオンハルトは手を差し出すと、エスコートさせていただいても?と口角を上げる。その手に重ねるように自身の手を置き、ローズマリーはお願いしますと告げて馬車までの道を歩いていった。



 * * *


 この夜会は、王家が主催する社交シーズンの幕開けを告げる最初の催しである。

 通称「春告の夜会」と呼ばれるそれは様々な貴族が王都へ集い、またデビュタントを行うのに最適な夜会でもあった。


 そんな夜会で彼女は現れるのだ。今年がデビュタントの年の彼女のことを知るものはこれまではまだ殆どおらず、今日この日をきっかけに運命は狂い出していく。


 婚約者が変わったとは言えどあまり積極的に彼女に会いたいと思わないローズマリーは、細心の注意を払いつつ夜会会場へと足を踏み入れた。


 会場内は五回とも何も変わっておらず、煌びやかなセッティングに圧倒される。公爵家の令嬢としてそれなりに高価なものや華美なものに見慣れてはいるが、やはり王家主催の夜会ともなると規模もレベルも違うのだと何度見ても思い知らされる。


「大丈夫。きみはこの場にいる誰よりも綺麗だよ」


 そんなローズマリーの耳元に囁くように甘い言葉を吐かれた。

 ぽかんとしながらレオンハルトを見上げれば、彼はなんでもないような顔をして背中に手を添えた。


(……レオンハルト様ってたらしか何かなの?)


 四度目までの人生で大して関わりのない相手だったのでいまいちローズマリーはレオンハルトの性格を図りきれずにいる。

 しかしまあ、婚約者を蔑ろにするような人間に比べたらましなのだろう。ましどころか、婚約者を立ててくれるなんて立派な紳士である。


 兄からそういう部分も学んで欲しかったわね、とローズマリーは思った。


 そうすれば少なくともエスコートくらいはしてくれたのではないのだろうかと。


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