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妙メモリー

夏が飲み会に来た話

作者: みょめも

あれは大学生の頃だった。

当時は何かと理由をつけては飲み会を開き、またしばらくして飲み会を開きと大学生の本分を全うしていた。


じめじめした梅雨の時期に友達内で飲み会を開いたことがあった。

気の知れた仲間ばかりで、みんなの失敗談や下ネタなどを肴に酒も進み、楽しい時間が過ぎていた。

相変わらず話のネタが尽きないな、などと笑っていると、前田が電話で席をたった。

僕らは気にせず笑い話をしていたのだが、しばらくして戻ってきた前田は浮かない顔をしていた。


「あ~のさ、あの、夏が、くるって」


前田は視線を誰によこすでもなく、そう言った。

さっきまでバカ笑いをしていた僕は苦笑いに変わり、口をつぐんだ。


この態度が示すように、僕は夏が苦手だ。

本人の前では言えないが、暑苦しいのは好きではない。

それに夏には虫が飛んでいるというのも苦手な理由のひとつだ。

この1年前にも梅雨時期に飲み会を開いたことがあったのだが、その時はみんな大好き冷夏が来たので、男連中は大いに盛り上がった。


今年は冷夏ではなくて残念だけど、飲み放題180分コースの半分に差し掛かるあたりだから夏が来る頃には残り時間も少なくなっているだろう。


そんなことを考えていると店の入り口の方で「お連れ様おみえでーす!」と元気の良い声が聞こえた。

嫌な予感がして入り口を見ると、そこには既に夏が来ていた。

夏が来るにはまだ早いと思ったが、どうやらあの電話があったとき、夏はすぐそこまで来ていたようだった。


僕は「チワッス」と会釈をしてなるべく絡まないようにした。

夏は座ると生ビールと枝豆を注文し、さっそく暑い話をし始めた。

僕らは年長者である夏の話を聞かないわけにはいかず、「はー!」「なるほどっす!」「サザンの桑田みたいっす!」の3本構成で夏を盛り上げた。

それに答えるように饒舌になった夏は真っ盛りになっていた。

赤い顔はさらに赤みを増し、顔の回りのギラギラもいつも以上にギラギラしていた。


やがて180分飲み放題コースが終わりに差し掛かると、ようやく夏の暑さも和らいできたのだが、そのときには熱中症になった友達が何人も潰れていた。

僕はかろうじで耐えており、店員が時間の終了を告げにくる直前、満足げに夏が去っていったのを見た。

夏が去った後には未払いの伝票だけが残っていた。

僕は夏が食い逃げしたのだと知った。

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