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【王女専属使用人、新人は妾】


王女暗殺計画の末席にすら座れない私がどうやって計画をぶち壊すか、気になるだろう。

今回の計画で私は死ぬ前提の駒であって、実際死ぬつもりでいた。でもまぁぶっちゃけ逃げることもできた。なぜなら私を計画に組み込んだ組織は私が魔法に長けていることを知らない、私が裏切ったり反抗したりしたとしても魔法に関する対策は無いにも等しいのだから。

私の得意とする魔法の中には探査魔法が含まれている。そして王女暗殺計画の主要人物が集う時は一度だけ、その密談の場が薄暮の迫るルイスの外れにある小屋だということも把握済み。よってこれからとる行動は


突撃のみ!!


一見、思慮深く見えるルミアは『脳筋』であった。


ん?私が誰だって?自己紹介が遅れてしまったようだ。私はこれからこのギャグ百合物語の進行役を担う、ウツギという者だ。長い付き合いになるだろうからよろしく頼む。もう一度言うが、この物語はギャグ要素も含まれてるからな??それをしっかり念頭に置いて読み進めていけよ。じゃないとこの物語の今後の展開のハードルがどんどん上がるから。


薄暮の刻まで数分程度。ルイスの中心にあるポピーの塔から街外れにある小屋までは徒歩で約1時間。いくら飛行魔法を使おうと、ルミアが突撃する頃にはもぬけの殻であることは目に見える。だがしかしこれは百合物語でもあるのだ。今のところ主人公ポジで行動しているルミアに神は味方する!


数十分後、ルミアは探査魔法で探り当てた小屋の付近で膝をついた。体の穴という穴から汗が吹き出し、荒い息を吐く様子から死に物狂いで小屋を目指したのがわかる。


( ・・・辺りが完全に暗くなってしまった。結局、私は王女様をお守りすることは叶わないのか、、、。 )


がらんとしたありさまを想像しながら古びた取っ手を引く。

ギィィィ

嫌な音を立てる扉に構わず、ルミアは途端に口をあんぐりとした。


なんということでしょう、いるはずのない黒幕たちが勢揃いではありませんか。

説明しよう。まぁ、皆ただただ運が悪かっただけなんよ。そう運が悪かっただけなのだ。だけなのだ。


「き、きさま、、。」


「え、え、、、え??」



ルミアと黒幕勢。互いに指を差し醜態を晒しあう様はまさに鏡のよう。いち早く思考を取り戻したルミアはあまり得意ではない攻撃魔法を彼らに撃った。

だが、得意ではないことはとことん弱いルミアが出せる攻撃魔法と言えば探査魔法を応用した耳鳴り攻撃のみ。


「いっ」


ここはルイスの外れ、魔法の制限なしのこの場では黒幕達の独壇場。最初に音をあげたのがルミアであるのは当然の結果である。


「いッッ!アァアアアアアア!!!」


なんて悪役らしい魔法だろうか。自分の黒歴史の中をループし続ける魔法なんて、、!ルミアは思春期がちょうど過ぎた年頃。ダメージは通常より大きい。魔法で苦しんでいるルミアをいざ捕まえようとするところで高貴なお方の声が小屋の中でよく響いた。


「そこまでよ」


黒幕らは咄嗟に魔法を解き、ルミアは膝から崩れ落ちた。

王女様はそれを一瞥するといつもの優しい雰囲気をとっぱらって言葉を続けた。


「騎士達よ、この者達を逮捕せよ」


王女様の後ろに控えていた数名の騎士が粗い縄を取り出し黒幕である貴族らに近づいた。隅へ隅へと逃げ場を失った彼らは重要機密をぼろぼろと話し出した。

「で、殿下!私たちはただロール公爵に従っただけです」

貴族1は言った。


「私たちもです!」

貴族2は言った。


「命だけは、命だけはッ」

貴族3は言った。


ぎゃーぎゃー騒いでいる貴族、、、いや罪人に騎士たちは構わず手に縄をかけた。


「まるで三文芝居でも観ているようだわ。貴方達、殺そうとした人に救済を乞うなんて、恥を知りなさい?」


王女様はどこから出したのか、扇を取り出し器用に悪どい笑みを隠した。

その頃ルミアは必死に記憶を消そうとしていた。


( 忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろッッッ!!!! )


ほこり被った床にしがみつき目をガン開きにしながら呪言を吐く彼女は仮主人公の要素のかけらもないが、そんな彼女に王女様は近づいた。


「ルミア」


馴染みのある声にハッとなったルミアは反射的に『ルミア』の仮面をかぶった。


「で、殿下、、なぜここにいるのでござるか」


もっともかぶる仮面を間違えたが。


「貴方を追いかけてきたの。様子が少しおかしかったから」


ルミアは視線を下げバツが悪そうに表情を強張らせた。


「でも、貴方は私を守ろうとしたのね。そんな貴方が処罰を受けるのは私が耐えられないわ」


「殿下、、、。」


( すでに状況を把握しているうえに許してくださるなんて、、、だけど私は一時とはいえ殿下を葬ろうとした。きっと世間は許してくれやせん )


「だから私の妾になってくれないかしら?」


「め、妾!?」


ちょちょ王女様よ、急展開すぎだろう。まぁルミアはぼっと頬を赤くして嬉しそうにしているが。


「使用人程度じゃ私は守れないの、せめて身内ぐらいにはならないと」


「私で本当に良いのですか?」


「もちろんよ!」


おい、ルミアさっきの思いはどこいった。とんとん拍子で妾になるんじゃない。てか、お前らふたりのがよっぽど三文芝居を繰り広げてるぞ。


ささっと見覚えのない全身真っ白な生地に包まれている人が聖書を開きながらふたりの前にたった。

どこから来たのか、司祭よ。

いつからフラワーガールになったのだ、騎士達よ。

ふたりを祝福する人、婚期が遅れて悔しがる人、地獄への仲間入りを喜ぶ人、、、。

じゃなかった、お前らそもそも罪人だろうが。貴族ワンツースリー。


司祭は言った。

「では誓いのキッスと契約魔法を交わしましょう」


怪しい匂いがプンプンするぞ。てかキッスって何?キッスって。


「契約魔法が成立した場合、両者共に同じところに小指と親指で丸を作った大きさの印が刻まれます。これは独占欲のあらw、ゲホッゴッホ!フィンセント・ヴィレム・ファン・ゴッホ、、。う“、うん。失礼いたしました。誓いの印でございます」


………。


「刻印、へその少し上にするのはどうかしら?」


「へその上、ですか?」


印を刻む位置を和気あいあいと意見を出し合うおふたりには私のツッコミは届かないだろう。


「へそは命の源って言われているでしょう。私たちはそれぐらい大事な絆で結ばれているってことをいつまでも忘れてほしくないの」


( なんて神秘的なお考えだろう、、! )


ルミアのキラキラした視線を肯定と取ったのか、王女様は司祭に契約魔法の準備をさせた。


「わあぁ」


司祭が何やら唱えると同時にふたりのへその上が白く光った。


「これで貴方は私の妾よ」


こうして、ルミアは晴れて愛しき王女様の妾になり、王女様は身を挺してまで自身を守ろうとした暗殺者に惚れ、そばに置くことができた。めでたしめでたしハッピーエンドだ。


パチパチ

周りの騎士たちが示し合わせたように手を叩きはじめた。

団長らしき人が前に出て片膝をつきながら祝辞を述べた。



「おめでとうございます、王女様」


「ええ、ありがとうね」


「これでルミア様は王女様の22番目の妾になられましたね」


22番目、、、?


「は?」


王女殿下は目を細め歯を見せ、お忍び用のワンピースの裾を少し持ち上げた。薄い生地の下から覗く細い脚にはいくつか白い刻印が刻まれていた。


「これから、よろしく!ルミア」


会心の笑みを浮かべる。そんなドS気質な王女様にキュンとしたルミアなら王女様と良い関係を築けるだろう。





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