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【王女専属使用人、新人のお礼】

ちょーっと展開早すぎたか。

王女様は城のすぐ近くにある大都市、ルイスを訪れた。ルイスは魔法関連の書物や宝飾品の生産、販売が特に盛んで我が星国家、ラベンダーの特産品でもある。王女様はこのようなおしのびに慣れているからか歩に迷いを持たずにある魔法宝具店に入った。


( 大通りにはもっと王女様に合うものがあるのに何故この店に来たんだろう? )


中に入るとアンティークな雰囲気が出迎えてくれる。魔法陣が組み込まれている装飾品を物珍しそうに周りをきょろきょろしていると、王女様はこちらを振り向き店の紹介をしてくれた。


「ここは昔からよく来るの。大都市ルイスで隠れ家的存在であり、装飾品も魔法陣もどれも大通りの店舗に負けず劣らず優秀なものばかりを販売しているのは私の知る限り、ここだけよ。それに…」


「それに?」


「ルミアになら教えてもいいかなって思って」


王女様はぽっと頬を赤く染めると逃げるように店内の商品を物色し始めた。

心臓がきゅうぅぅと締め付けられた感覚を覚えた。不思議とソレは嫌なものではなく、今すぐ飛び回りたくなるような高揚感と思わずにやけてしまう嬉しさがあるものだった。


「ねぇ、ルミアこちらにいらっしゃい。このブレスレット、なかなか素敵じゃない?」


王女様はガラス越しに展示された数々の装飾品のなかから鮮烈な赤の気をまとうブレスレットを指さした。どうやら、幸運を祈るまじないの魔法陣が組み込まれているものらしい。


「王女様の赤い瞳に似ていますね」


「そうでしょう?だからこれはあなたに送るわ」


「え」


てっきり用事があるとおっしゃったから自分用の装飾品を求めるために店に入ったと思っていたが、どうやらお礼をしたくてここまで連れてきたようだ。


( わざわざ、王女様に装飾品を選んでもらえるなんて )


「あ、ありがとうございます!殿下」

私は感謝の意をこめてにこっと笑った。


「…ルミ「王女様、これでよろしいですか」」


店の奥から顔を出した人が王女様の話を遮ってしまった。人の好さそうな格好のおばあさまだった。


「こりゃ、失礼しました。お話し中だったとは知らずに。注文した品の準備ができやしたので声をかけさせてもらっただけです」


( 殿下のお話を遮っちゃった…大丈夫かな? )


謝罪が棒読みな気もするし…気のせいよね。


「・・・ええ、ダイジョブよ」


気まずい空気のなか、王女様は包装されたブレスレットを受け取った。王女様は静かにふっと息を吐くと、王女様はお礼を言って店を出た。


「はい。」


王女様は私に先ほどの包みを押し付けるように渡した。両手でそれを受け取り、持参した鞄にいれる。


「あの、殿下ありが「しまった。時間がないわ」」


「え」


戸惑う私に王女様は手を差し出してきた。


「手、握って」


「は、はい」


途端に私たちの足元は浮き、思わず王女様の手を力いっぱい握ってしまった。


「ッツ」


「すみません!殿下、強く握りすぎてしまいました!お怪我は…」


「心配しないで。私の方こそ突然魔法を使って、驚かせたわよね」


「い、いいえ。そんなことは」


魔法。ラベンダー星国家の大都市や王城では許可なしには使ってはいけないもの。民の生活を豊かにしてくれる魔法具や魔法陣は禁止されていないが、大きな争いや犯罪を避けるためを使えなくする強力な結界が貼られている、が。


王女様はいとも容易く魔法を使った。


改めて王女様の凄さを認識していると王女様とつないでいた手が勢いよく引っ張られた。


「ルイスには有名な塔があるのは知っているかしら?」


「はい!先代国王が王太子殿下であった国王様の誕生を祝って建てられた、ポピーの塔ですよね?」


「ふっ…そう、なの」


「?」


何故か突然咳払いをした王女様は構わずつづけた。


「そこは王族と王族に許可された者しか立ち入ることができないの。だから今日はルミアをそこに招待しますわ」


「え」


えええええええ!!!!


日が沈み始めた大都市ルイスに自分の声が響き渡るのを肌で感じる。慌てて口を塞ぐと王女様は一気に上昇の勢いを速めた。目をぎゅっとつぶるといつの間にか、辺りのけたたましい風の音は止み、塔の頂点についていた。


「もう、ルミアったら。いきなり大声を出すものだから驚いちゃったじゃない」


ふふっと笑う王女様に目を奪われていると刹那、鋭い光が目を指した。


夕日だ。


王女様に促され、塔から街並みを見渡した。大小の家々や店等々がきらきらと光を反射する景色はまるでオレンジ色のヴェールを被った雲のようだった。


「さあ、ルミア先ほど渡した包みを開けてみなさい」


「?はい。分かりました」


包みからそっとブレスレットをとり出すと、赤をまとっていたブレスレットは青色に光っていた。


「あれ?青色に・・・」


「綺麗な青色でしょう?まるでルミアの瞳のよう」


髪が靡いた。今まで抱えていた悩み、すべてを消し飛ばしてくれるような強い風が吹いた。対して王女様の笑顔は強い風でも崩れなかった。むしろ風によって乱れた髪が王女様を一層引き立たせたのだ。




一切の穢れなく『心から』美しく微笑んでくださる王女様に私は決心した。


「・・・王女様、用事を思い出してしまいました。先に地上に降りてくれますか?」


「?いいけど、貴方はどうやって降りるの?」


「もちろん、備え付けの魔道具でおります。王女様は先に戻っていてください」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





王女様がもう目につかないぐらい遠いところまで向かうのを見届け、私は塔から飛び降りた。


ふわっと特有の浮遊感を全身で感じ、力を徐々に抜く。ただただ落ちていく。ただただ。


( ああ、周りの風が煩わしい )


いつの間にか涙は零れ落ちていた。今まで自分を押し固めていた何かがぼろぼろと崩れた。


( ああ、せっかく隠し通していたのに、王女様の信頼も勝ち取れたのに。なにすっかり絆されてるんだ私は!! )


仕事中でも私生活でもそのうえ思考にも仮面を被ったのにも関わらず、自分から怪しまれにいくなんて。今までの努力が水の泡だ。



そう。私は平凡な田舎娘じゃないし、ましてや純一無雑な少女でもない。


________私は暗殺者だ。王女様の命を奪う、暗殺者。


国家をも揺るがすこの大計画で、私の役割は端的に言って捨て駒。私は当然それを知っていたし、むしろそれを喜んで受け入れた。なぜなら私は生きてはいけない、忌み嫌われなくてはならない存在。忌み子だからだ。


今や王女様を殺す覚悟が出来なくなった私は捨て駒にすらなれない、ちり芥。よってこのまま重力に身を任せて一生を終わらせるのが最善だろう。


「が」


厳重に蓋をしていた魔力の箱が開けられたのを感じる。瞬時に落下の衝撃を吸収する魔法の板を何枚か展開する。


バン、バン、バン


結界が体を打ち付ける。


( いくら衝撃を吸収できるといってもさすがに高すぎたか )


少しよろつきながらも体勢を立て直し、王女暗殺計画を阻止すべく計算しきった突破口に向かって疾走した。


「殿下に施してもらった温情は返すべき。私はまだ、死ねない」






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