【王女専属使用人、新人の朝】
皆さん、どうも初めまして。唐突に百合ものを描きたくなって深夜テンションのまま仕上げたものです。ふかーく考えず読み進めてくださったら幸いです。
ぱちりと目を覚ます。
( ・・・この天井、いつの間にか驚かなくなったなぁ・・・ )
半目のまま、白いタイルが上下にも左右にも延々と続きそうな天井をぼーっと眺める。まっしろで硬いタイルで出来た天井は木目調の天井には感じられない冷たさがあり、心なしかぶるりと震える。
( もうアニーに起こされなくても自然と起きれるようになったし )
「私ももう一人前かな・・・?」
実家にいる父の温かい笑顔、母の温かいスープ。不意に視界をちらつかせる懐かしい日々は再び、暗くあたたかい闇を呼び寄せ世界を覆う。
ガチャっと突然、扉が開いた。肩をびくつかせ、すぐさま警戒するように頭を急回転させるが、なじみが呼ぶ自分の名前がドクドクと激しい音をたてた心臓を鎮めた。
「お、おはよう。アニー」
「まーだ、寝てたの?ルミア。貴方それでも王族つき?」
そう、私の名前はルミア。栄光あるラベンダー星国家の王女に仕える専属使用人。通常、新人の使用人は王族の付き人にはなれないけれど、年が近いのもあったのか基本を習得すると同時に王女様の専属に配置された。
「さぁ、さ!早く着替えて!」
アニーは手慣れたようにクローゼットを開け、王族付きのメイド服をとり出した。まだ薄暗い空のなか、かすかに光があるのを確かめると慌ててベッドから飛び出し、ネグリジェをせっせと脱ぐ。
「髪を結うの、手伝ってあげる」
メイド服の上から頭を出すと、アニーはブラシを片手にぽんぽんと備え付けの椅子を軽く叩いた。
さら、さらとアニーは丁寧にルミア自慢の漆黒蝶の羽のような黒い髪をとかした。
( ・・・お母さんも良く髪をとかしてくれてたなぁ )
ブラシの柔らかい毛が頭をなでる感触に身をゆだねながら、母とのささやかな思い出を浮かべる。編み込みをしたひとつ結びを結い上げたアニーはルミアの目がとろんと閉じていくのに目ざとく気づいた。
「ちょっと、ルミア。貴方また眠くなったわけじゃないでしょうね?」
右に垂れていた姿勢を直し、体をまごつかせながら背筋をピンと伸ばした。何でもないかのように、「まさかもう起きたよ」と返す。
疑うようにアニーは目を細めながら顔をルミアに近づけた。じーっと見つめてくるアニーの視線に堪えたのか、それとも図星を突かれたからなのか、逃げるかのようにルミアは立ち上がった。比較的几帳面な性格であるにもかかわらず、ルミアはガタッと音を立てた椅子には目もくれず扉に向かった。
「髪、結ってくれてありがとう。もうそろそろ朝食の時間だし食堂に行かないと・・・」
できるだけ目を合わせずにいうとアニーはぷっと噴き出し、笑った。
「どういたしまして」
肩を震わせながら言葉を返してくれたアニーに、ルミアはもう先ほどのことは忘れてくれたかと胸をなでおろす。
「でも貴方、王女殿下と朝食をご一緒するって昨日、嬉しそうに話してなかったっけ」
にんまりと意地の悪そうな笑みを浮かべたアニーに、完全に裏をかかれたルミアは顔をみるみる赤くしながら体を縮こませた。
「もう!!」
そのままルミアはアニーの顔を見ずに部屋から飛び出した。
「ふっふふふ、はははははは」
ルミアの反応を楽しむように笑い転げたアニーを残して。
「おっかしい!」
あははははは
朝の静けさも相まってか笑い声が廊下中に響いた。アニーの笑い声を後ろにルミアは主人の朝支度の用意をしに洗濯室へと歩みを進めた。
後でアニーが騒ぎすぎだと叱られたのは確かめるまでもないことだ。