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ロビナスのモンスター

 グラナダの森の中に今は使われていない倉庫があり、その中にルーン大国へ続く秘密のトンネルがあった。マルクスはそのトンネルを使ってルーン大国にへ行こうと倉庫に着いたところでルディーが立っていた。彼はマルクスを見つけると慌てたように近寄って緊急事態(きんきゅうじたい)を伝えた。


「ロビナスにモンスターの大群が押し寄せている!」


 ルディーはいつになく深刻な表情でそう言った。


「なんだと! すぐに助けに向かわなくては!」


 マルクスはすぐに倉庫の中のトンネルに入ろうとしたところで、後ろから付いてくるルディーに気づいて歩みを止めた。


「どうした? なぜ止まるんだ?」


「ルディー? お前は何をしてるんだ? お前は一緒に来ることはない」


「おいおい、今更何を言ってんだよ。俺たちギルティーはいかなる時でも二人一組が基本だろ」


「これはギルティーの正式な活動じゃない! お前は付いてくるな!」


「良いんだよ! 隊長の危機は俺たち隊員の危機と一緒だろ!」


「ルディー。お前……」


「さあ、早く! ロビナスに行かないと手遅れになるぞ」


「わ、分かった。ロビナスのモンスターを蹴散らしたら、俺は向こうに残るが、お前は一人でここに戻るんだぞ!」


「ああ、わかったから! 早く行くぞ!」 


 マルクスとルディーの二人はトンネルを通るとルーン大国のロビナス村に向かって急いだ。


 ◇


 ロビナス村から離れた街道に荷車の音だけが響いていた。


『ガラガラ』


 ロビナス村の住人たちは家財道具を乗せた荷車(にぐるま)を押してロビナス村から撤退していた。突如モンスターの大群が押し寄せて来ると衛兵から連絡があり、村人たちは着の身着のままの格好で、村からの避難を強いられた。


 今頃ロビナス村は夜叉人将軍(やしゃじんしょうぐん)の率いるルーン大国の兵士たちが命がけでモンスターの襲撃から守ってくれているだろう。だが、あの数のモンスターを食い止めることができるのか不安だった。広大な平原が埋め尽くされるほどのモンスターの大群に夜叉人将軍の率いる部隊がどれだけ持つかわからない、村人たちはその間にできるだけロビナスから遠くに逃げるしか無かった。


 その逃げ出した村人たちの中にミラの弟のダンテの姿があった。ダンテはルーン大国の兵士だったため、夜叉神将軍と一緒に戦おうとしたが、兵士長の命令で村人と一緒に避難するように命令された。その理由は自分が姉のミラを手伝わないとミラ一人では村から逃げ出すことが困難になるため、姉の手伝いをするようにとのことだった。兵士長の言うことはダンテには痛いほどわかっていたが、自分のふるさとの村をモンスターに襲撃されているのに何もできないまま、逃げ出すことはダンテにとって耐え難い屈辱(くつじょく)となった。


 ルーン大国の兵士として一目を置かれた存在になったダンテはミラと一緒に荷車を押しながら自分のふるさとを救いたい言う思いと、姉のミラをできるだけ遠くに逃さなければと言う思いの間で葛藤していたが、どうしても我慢ができなくなりダンテは行動に出た。


 ミラが先頭で荷車を引っ張り、その後ろでダンテが押していたが、急に後ろから押す力が弱まり重くなったことに気づいたミラが後ろを振り返るとダンテが荷車から手を離しているのが見えた。


「どうしたのダンテ早く逃げましょう」


「ごめん姉さん。俺やっぱりこのまま逃げ出すのは嫌だ」


「何を言っているの? 夜叉人将軍たち兵士の人たちが、私達のために命がけで食い止めてくれているのよ……」


「だから! 少しでも兵士がいた方がいいだろ!」


「……」


「俺! 夜叉人将軍に加勢してくる!」


「ちょ、ちょっと! 待ちなさい! ダンテ!」


 ダンテはそのまま(きびす)を返すとロビナス村に戻っていった。すぐにミラは荷車を放置して弟を追いかけた。ダンテとミラは二人でロビナス村に戻っていった。


 ◇


「畜生! 一体どこにこの数のモンスターが潜んでいたんだ!」


 モンスターの圧倒的な数の前にルーン大国の兵士は苦戦を強いられた。


「夜叉人将軍! 第一・第二部隊全滅しました!」


「救護班が足りません!」


 将軍のいる本陣はあっという間に負傷者でいっぱいになった。夜叉人は次から次に本陣に担ぎ込まれる負傷者たちを見ながらじっと考えた。これほどの苦戦を強いられるとは思っても見なかった。今回のモンスターは何故かいつもと全く違って見えた。モンスターは動物と同じで自分に危険が及ぶと途端に戦意を消失して逃げ出すことが多いのに、今回のモンスターは仲間が何人やられようが関係なく突っ込んでくることに、夜叉人は違和感を覚えた。


(今回のモンスターは狂気に満ちている。まるで何者かに操られているようだ?)


 夜叉人が冷静に戦況を分析していると背後から何者かが話しかけてきた。


「かなり苦戦しているな」


 いつからそこにいたのかはわからないが、夜叉神の本陣の近くにその二人のエルフは立っていた。二人のエルフの正体は、マルクスとルディーだった。二人はグラナダのトンネルを抜けると急いでロビナスに向かって走ったので、なんとかモンスターの襲撃前にロビナスに到着できた。


「お、お前たちは何者だ! どこから入って来た!」


 エルフたちはすぐに大勢のルーン大国の兵士に囲まれた。


「やめろ。今は俺たちに構っている暇はないだろ」


 エルフは敵に囲まれながらも全く臆すること無く冷静だった。


「何をしに来た? まさか一緒に戦おうとか言うんじゃないだろうな?」


「ああ、そのまさかだよ。兵士をグレートフォールまで下げろ。そうすれば俺がモンスターを蹴散(けち)らしてやる」


 夜叉人はマルクスの顔をじっと見ながらしばらく考えていたが、何かを思い出したように叫んだ。


「そうか! 思い出したぞ! お前は以前ミラと言う女を取り返しに来たエルフだったな? 確か? マルクスと言っていたな?」


「ふん! やっぱりあんたはあの時の将軍か?」


 マルクスはそう言うと夜叉人を(にら)んだ。将軍の側近たちはそんなマルクスを警戒した。


「夜叉人将軍さま。こんなエルフの言うことなんか信用できません。さっさと捕らえましょう」


 夜叉人の側近たちはそう言うと怪しいエルフたちを睨んだ。夜叉人はそんな側近の言葉を無視してマルクスに声をかけた。


「できるのか?」


「ああ。俺なら容易(たやす)い」


「そうか。わかった。兵士たちをグレートフォールまで撤退させろ!」


「し、将軍様! 本気ですか? これ以上兵士を撤退させるとロビナス村を救えません」


「良いから早くしろ! 俺はエルフを信じたわけではない。愛するものを守るために命を懸けた者を信じるんだ!」


 夜叉人将軍の命令により、ルーン大国の兵士たちは徐々に前線から撤退していった。 

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