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謎の男

 デミタスは平然(へいぜん)を装っていたものの、心の底では動揺(どうよう)を隠しきれなかった。いきなり見たこともない男が現れたと思ったら、自分の魔法を解除してしまった。デミタスはその知らない男を見て再度驚きを隠せなかった。それは男はあろうことか人間だったからだった。実のところ男の正体はデミタスもよく知っているマルクスだったのだが、この時のマルクスはルディーからもらったアバタ宝石のネックレスを身に着けていたため、見た目は人間にしか見えなかった。ルディーからもらったこのアバタ宝石のネックレスは、身につけるとエルフを人間の姿に変身できる能力を持っていたため、デミタスやダンテの目からは、どう見てもその辺にいる人間の男性にしか見えなかった。


「ダンテ? これはどういうことだ?」


 その男に名前を呼ばれて面食らったが、その男の声や身につけているロビナス石が月の光を浴びて光っているのが見えて、その男はマルクスだと確信した。


「分からない。いきなりモンスターの大群が村を襲い始めたから、俺がモンスターをすべて倒し終えた時、こいつがいきなり現れたんだ」


 ダンテはそう言いうとマルクスの目の前にいる黒い影の男を指さした。


「貴様! 一体何者だ?」


 マルクスは黒い影に向かって叫んだ。


「うるさい! お前こそ何者だ! そこの剣士といいお前といい、この村はどうなってるんだ?」


 デミタスは思わず叫んでしまった。幻影魔法(げんえいまほう)で姿は隠しているとは言え、声を聞かせるのは軽率な行動だが、この時のデミタスは自分の思い描いた作戦がうまく行かず、そんな事を考える余裕はなかった。


 謎の影は間違いなく幻影魔法を使用しているのがわかった。しかしながらマルクスは幻影魔法を使えなかった。


「貴様は魔法を使えるということはエルフなのか?」


「うるさい! お前のような人間に答える義理はない」


 人間と言われて、マルクスは少し戸惑ったが、すぐに影の男が自分にそう言った理由がわかった。今の自分はアバタ宝石のネックレスを身に着けているのを思い出した。


(そうか? あの影は自分を人間と勘違いしているみたいだな)


 影の正体は何者か分からないが、魔法を使用しているところから、エルフである可能性が非常に高い、しかも自分の知り合いである可能性も否定できない。もし相手がエルフで、しかも自分のことを知っている人物だった場合、単身ルーン大国にいることが明るみになり、自分をミラに合わせたい一心で協力してくれた、ルディーや仲間たちに迷惑がかかる恐れがあるため、マルクスはこのまま自分が、エルフである事を隠すことに決めた。


「ダンテ、動けるか?」


「え? は、はい」


「ミラと村長を連れて早くここから離れろ」


 マルクスはダンテに言った。影の男はマルクスの言葉を聞いて激怒した。


「何だとお前! 一人でこの私と張り合う気か? 私の魔法を打ち消したのは、運が良かっただけということを思い知らせてやる!」


 そう言うと影の男は手から黒い塊をマルクスに向けて放った。黒い塊はものすごいスピードで一直線にマルクスに向かって飛んできた。


「リフレクト(反射魔法(はんしゃまほう))」


 マルクスが呪文を唱えると、光の壁が現れて黒い塊に当たると、それを跳ね返した。跳ね返された黒い塊は、影の男に向かって飛んでいき、直撃した。


「グア〜〜〜!!」


 影の男は塊を両手で掴むとそのまま後ろに吹き飛んでいった。なんとか両手で抑えて体への直撃は免れたようだったが、影の手から黒い煙が立ち上り、遠く離れたマルクスにもわかるほど、焦げ臭い匂いがした。影の男は今の攻撃でかなりのダメージを負ったのがわかった。


 デミタスは黒くただれた、自分の手を見つめた。


(こ、こんな、はずでは……、私は暗黒邪神(あんこくじゃしん)アルサンバサラの祝福を受けた身、その私が人間ごときにここまで押されるとは……)


 両手に向けた視線を、マルクスに向けた。


(あいつは何者だ?)


 デミタスは人間を相手に魔法でここまで押されるとは微塵(みじん)も思ってなかった。まあ、本当は人間ではなく、エルフのマルクスが相手だった。しかもギルティークランでデミタスを唯一倒すことのできる勇者のスキルを持っている人物が相手なのだが、デミタスはそれに気づいていない。


(あいつは何者だ? あんな人間のことは知らないぞ!)


 デミタスは動揺を隠せなかった。ギルディアの中央司令部の司令官という立場を利用してルーン大国の情報はつぶさにチェックしていた。これまで何度も自分が召喚したモンスターたちを使って、ルーン大国の町や村を襲っていたこともあり、ルーン大国の情報は、ほぼ全て把握(はあく)していると自負していた。それなのにこんな逸材(いつざい)が自分の情報網から抜けていたとは考えられなかった。


(この人間はここで始末したほうが良いな)


 そう考えると少し笑みを浮かべた。もちろん幻影魔法を使用しているので、マルクスには笑っている顔は見えていない。


(あの人間は剣を所持していないところを見るとおそらくマジックキャスターだろうが、私には魔法が効かない)


 デミタスは暗黒邪神の祝福を受けているため、魔法攻撃に絶対的な体制を持っていた。あのメルーサの全力の地獄の業火(ごうか)(エグソーダス)を受けても傷ひとつつかないほどだった。今まではデミタス自身の魔法なので、多少のダメージを受けたが、あの人間から放つ魔法は自分には絶対に通用しないという自信があった。


「お前は私に絶対に敵わない」


「へえ〜〜、大した自信だな」


 デミタスはマジックキャスターと戦うのが大好きだった。相手の得意とする魔法が自分には全く効かずに絶望に打ちひしがれる様を見るのが心地よかった。この目の前にいる生意気な人間の悔しがる姿を見てみたいと思った。


醜い下等(みにくいかとう)な人間よ。お前にチャンスをやろう。魔法を唱える時間をやるからお前が一番得意とする魔法を唱えてみせろ!」


「ほお〜、まあいい、そんなに言うならやってやるよ」


 マルクスそう言うとは呪文を唱え始めた。全身から魔力が溢れ出し体を包み込んでいき、周りの空気が震えだした。魔力のないダンテのような人間でさえも、膨大な魔力を感じるほどに凄まじい勢いで魔力を上げていった。これまでに会った、どんなに強いマジックキャスターでもこれほどの魔力量を(ほこ)る敵とは会ったことがない。それほどマルクスの魔力は途方も無い量と密度で更に上昇していく、それはデミタスも同じ事を感じていた。


(ま、まさか? これほどの魔力量を人間が? こんなやつは見たことも、聞いたこともないぞ)


 目の前の人間が出す魔力量を見てデミタスは戦慄(せんりつ)を覚えた。


(ギルディアの兵士の中にもこれほどの魔力量を持つエルフは数人だろう。しかも、そのいずれもギルティークラウンだぞ!)


 ギルティークラウンというのは、ギルディアの兵士の隊長クラスの称号だった。その隊長クラスに匹敵するほどの魔力量を持つ人間を見てデミタスは、心底恐怖した。


(し、しかし残念ながら私には魔法が効かない)


 デミタスは自身の魔法耐性に絶対の自信があった。


「そら、どうした。撃って来いよ」


 自信満々に目の前の人間を挑発した。


「ああ。それじゃ遠慮なくいくぜ! ギルゼ・ライトニングアロー!!」


 マルクスは両手に集めた魔力を一気に目の前の影に向けて放った。マルクスの放った電撃魔法は影の男を直撃するとものすごい勢いで吹き飛んでいった。


「グアァアア〜〜〜〜!!」


 デミタスは今まで味わったことのない激痛が全身に走り、思わず叫び声を上げて吹き飛んだ。夜空の星がかすかに見えたと思った瞬間、黒い地面が目の前にあり、ぐるぐると回っているのが見えた。どうやら自分の体が吹き飛んでいるのを感じた。土の上を何度もバウンドしたところで、うつ伏せに倒れた状態で10メートル引きずられようやく止まった。


 指を一本動かすだけで全身に激痛が走ったが、このまま人間ごときに(みじ)めな姿を(さら)すわけにいかないと思い震える足でなんとか立ち上がった。


「グッ! き、貴様〜〜、こ、こんなはずでは……」


「大丈夫か?」


「う、うるさい! 次はこっちの番だ! これで貴様は終わりだ!」


「何言ってる? まだ俺の攻撃は終わっていないぞ」


「? なに?」


『ピシッ!』


 次の瞬間、何もない空間に亀裂が走った。すると亀裂は瞬く間に大きくなり空間に穴が空き、そこから二頭の召喚獣(しょうかんじゅう)が姿を表した。召喚獣はいずれも二つに別れた頭をもつ大きなドラゴンの姿をしていた。


「オ、オルトロスだと!!!」


「? よく知ってるな。これでもまだ俺と戦うか?」


「き、貴様はまさか? くそ! ファントムビジョン!(幻影魔法)」


 影の男が魔法を唱えた瞬間、周りに濃い霧が立ち込めた。デミタスはすぐにその場を退散した。振り返りざま、人間を見ると首にかけたネックレスが光っているのが見えた。


「オルトロス! あいつを捕まえろ」


 マルクスがそう言うと二頭のオルトロスは霧の中に飛び込んでいったが、しばらくして二頭とも帰ってきた。


「残念逃げられたか。まあいい、これであいつもこの村には二度と手を出さないだろう」


「マルクスなの?」


 背後から声をかけられて人間に変身していたマルクスは後ろを振り返った。村長に連れられてそこには、ミラが立っていた。


「ミラ、無事だったか?」


「やっぱりマルクスなのね! 助けに来てくれたのね!」


 マルクスとミラは抱き合って、久しぶりの再開を喜んだ。すでに日は沈み、高く登った月に照らされて二人のロビナス石は光光(こうこう)と輝いていた。


 ◇


「チクショー!! 忌々(いまいま)しいあのヤロー!!」 


 全身傷だらけのデミタスはまだ()えない体を引きずるようにして、自室のイスにもたれかかった。暗黒邪神の祝福を受けていたので、回復力は人一倍高いはずだが、マルクスの魔法をまともに食らったダメージはまだ完全には癒えていなかった。


 ガルダニアの中央司令部に帰ってきたデミタスはその後、体を回復しながら、ルーン大国で出会ったあの人間について徹底的に探ったが、あの人物のことは何もつかめなかった。数日間ボルダーにいたギルティーたちを尋問(じんもん)する中で、ある有力な情報を得た。それはアバタ宝石とロビナス石という二つの石の存在だった。アバタ宝石はエルフの姿を人間に変身させる石でロビナス石は月の光を浴びると青色に光りだすというものだった。そしてこの二つを所持しているエルフがいることを調べ、そのエルフがマルクスだった。

 

 そのことからデミタスはあの日、ロビナス村に居た人間はマルクスであると断定した。


(そのことが早くにわかっていたらすぐにあの場を撤退したのに)


 デミタスはあの日の行動を悔やんだが、一つ有益な情報を得た。それは今の自分ではマルクスには敵わないという事実であった。やはりあいつを倒すには罠を仕掛けるしか無いことが、この戦いで分かったことは、大きな成果だと思うことにした。


 罠を仕掛けてマルクスが一人になったところで、モンスターの大群に襲わせて、できるだけ魔力を使わせ、使い果たしたところで物理攻撃で仕留めようと思った。

読んでいただきありがとうございます。


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面白ければ☆5個、つまらなかったら☆1つで結構です。

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