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街道の戦い

 ローゼンブルグからグラナダに続く街道でメル―サを乗せた辻馬車(つじばしゃ)はモンスターに襲撃された。気づいたときには辻馬車の周りは大勢のモンスターに囲まれた。馬車の荷台に乗った人々はすぐにパニックになって、泣き叫んだ。


 メルーサは馬車の荷台で(おび)える子供たちに近づくと優しい声で言った。


「大丈夫! 心配するな。お姉ちゃんがモンスターなんか蹴散らしてやるから、もう少しここでじっとしてるんだぞ」


 子どもたちは怯えた表情でメル―サを見上げるとコクリとうなずいたが、次の瞬間、こわばった顔になった。メルーサの後ろから馬車の荷台に登ってきたのだろう、ゴブリンがナタのような武器を持ってメル―サの頭、目掛けてナタを振り上げていた。メルーサは子どもたちの表情から危険を察知すると振り返りもせずにゴブリンの顔を手で掴んだ。


 ゴブリンは顔を掴まれて一瞬怯んだが、再度振りかぶってナタをおろそうとした瞬間、メル―サの手から炎が上がりゴブリンは顔を炎に包まれたまま荷台の外に吹き飛んだ。


 モンスター達は馬車の荷台から吹き飛ばされた焼ける物体を驚いた表情で見た。やがて顔を燃やされたゴブリンは息ができないまま苦しそうに力尽きた。


(さて行くか)


 メルーサは馬車の荷台から飛び降りた。周りは大勢のモンスターに囲まれている。口からよだれを垂らしながら、醜いゴブリンがゆっくりと近づいてくる。モンスター独特の悪臭がたちまちメルーサの周りを包み込んだ。


「お前ら全員焼き尽くしてやる!! メテオ!!」


 メル―サが呪文を唱えると両手のひらから火の玉が出てモンスターに飛んでいき、凄まじい勢いで爆発した。


『ドォオオオオオーーーーーン!!!!』


 メル―サの爆裂魔法(ばくれつまほう)によりモンスターは粉々に吹き飛んだ。立て続けにメルーサは爆裂魔法を唱えまくったので、あっという間に周りは火の海になった。いくつもの火柱がモンスターを飲み込んでいく。


 その光景を荷馬車に居たエルフたちは信じられないといった顔で見ていた。真っ暗な森のあちこちで火柱が上がりまるで昼間のように周りを照らしていた。


「あの方は何者ですか?」


「あの爆裂魔法はギルティークラウンのメル―サ隊長じゃないか?」


「え? あの人が、ギルティークラウン最強と名高いメル―サ隊長?」


「ヤッター! それならもう安心だな」


「あんな人と一緒で運が良かった。これで子どもたちも死なずにすむ」


 しばらくしてメルーサの攻撃が止むと馬車の周りの木々は跡形もなく無くなっていた。焼けた後にはおびただしい数のモンスターの黒焦げになった死体が散乱していた。


(ヨシ! 周りのモンスターの反応は無くなったか?)


 周りにモンスターの反応が無くなったのを確認してメル―サは再び馬車に乗り込もうとした時、前方に黒い影が見えた。黒い影は段々と影の部分が濃くなってやがて人型となった。どうやら黒い物体は正体がわからないように幻影(げんえい)の魔法を使っているようだった。


(なんだ? モンスターではなさそうだが?)


「お前は誰だ?」


 黒い影から返事は無かった。


(モンスターではなさそうだが、幻影魔法を使う時点で、味方でもないようだな)


 メル―サがそう思った瞬間、黒い人型から黒い塊が飛んできた。必死でその黒い塊を避けるとメル―サの横をかすめて後ろの木に当たると、木はたちまち枯れ木になって朽ち果てた。


「こ、これは腐食魔法(ふしょくまほう)か? しかもかなり強力だな」


 メル―サは黒ずくめの影を(にら)んだ。


「メル―サ隊長!!」


 馬車の荷台からメル―サを心配する声が聞こえてきた。


「私は大丈夫だ! 早くここから離れるんだ!」


「そ、そんな、メル―サさんも早く馬車に乗ってください!!」


「私はこいつを片付けたらすぐに追いかけるから心配しないで、早く皆さんはここから避難してください」


「そ、そんな……」


「いいから! 早く!!」


「わ、わかりました。すぐに応援を呼んで来ます」


 そう言うと馬車は走り出した。黒い影は走り出す馬車に見向きもしなかった。


(やはり私が狙いか?)


 メルーサは黒い影を倒すことに決めた。


「お前は何者だ?」


 メル―サが問いかけても影は何も答えなかった。


(まあ良い。こいつが何もであろうとも、自分に危害を加えようとする以上容赦(ようしゃ)はしない)


「メテオ!!」


 メルーサは再び爆裂魔法を唱えると、火の玉を影に向けて放った。火の玉はそのまま影に当たると勢いよく爆発した。


『ド――――ン!!』


 爆音とともに火柱が影を包みこんだ。この爆裂魔法を食らって生きている者は居ない。


(これで終わったな)


 メル―サがそう思って炎が収まるのを待っていると火が消えたところで信じられないものを見た。炎が消えた後に影が立っていた。


 メル―サは目の前の光景が信じられなかった。今まで自分の本気の爆裂魔法に耐えた生き物はいない。影は何事もなかったかのように黒い玉を放ってきた。


 メルーサはその玉をギリギリで(かわ)すともう一度爆裂魔法を影に向けて放った。黒い影はメル―サの魔法を避けようともせずに立ったままだった。爆音とともに火柱が上がり、地形が変わるほどの深い穴ができたが、影には焦げ跡一つつけることができない。


(あの黒い影はまぼろしなのか? 幻影魔法で騙されているのではないか?)


 メルーサはそう思って何度も索敵魔法(さくてきまほう)を使用して周辺の生き物を探知していたが、いくら探知しても黒い影以外周りには誰もいない。


(彼奴には魔法が効かないのか? なら、あれを試してみるか)


 メルーサはそう決心すると両手を頭の上に掲げて手を広げて全身の魔力を両手に集めた。この魔法は威力が高すぎて、山一つ吹き飛ばすこともできるとされていた、そのため周りに誰かがいるところでは使用を禁止されれている。先程から索敵魔法を行い周りに誰もいないことを確認していたので、全力でこの究極魔法を放つことができる。


 やがてメル―サの掲げた手の平から真っ赤な火の玉が出てきた。火の玉は徐々にその大きさを大きくしていき、直径一メートルほどの大きさになったところで火の玉は光り輝き始めた。


「喜べ! どこの誰かはわからないが、私の全力で貴様を(ほうむ)ってやる!」


「地獄の業火(ごうか)で焼き尽くせ! エグソ―ダス!!」


 メル―サが呪文を唱えた瞬間、影の足元から魔法陣が現れ天に向かって虹色の光を放った。火の玉はメルーサの手から消えると影の頭の上に移動したところで、火の玉は大爆発をおこした。


 目の前には青い火柱が起こりそれは段々と広がっていくとやがて目に見えるものすべてが青い炎に包まれた。


 メル―サ自身はバリアで守られていたが、バリアで守られていない周りの木々や大地は灼熱地獄と化した。この青い炎は地獄の業火で生きとし生けるものすべてのものを燃やし尽くすまで消えることは無かった。


 炎の温度はどんどん上がっていく、やがて摂氏千度(せっしせんど)を超えて大地を溶かしていった。どれほど時間が経っただろうか、周りのすべてを焼き尽くした地獄の業火は徐々に弱くなっていき、地表には灰すら残らない白い地肌だけが残った。


 メル―サは徐々に消える炎の中に信じられないものを見た。白い大地の上に黒い影が立っているのが見えて、頭が混乱した。あの地獄の業火の中を生存できる者がいるはずがなかった。


「馬鹿な!!」


 メルーサは自分の目を疑った。


 黒い影はゆらりと動くと信じられないスピードでメル―サの側まで瞬間移動してきた。消えた、とメル―サが思った瞬間、すでに黒い塊が横にあった。メル―サは黒い塊を避けようとしたが、避けきれず左腕をかすめた。メル―サの左腕は骨が砕け、血管が破裂して血が吹き出した。


 負傷した左腕を抑えながら精一杯の力でその場を離れた。


(クソ! 残念だが彼奴にはかなわない)


 そう思ったメル―サは影から逃げようと街道をひたすら走った。しばらく走ったところで今度は足に激痛が走ったので、見ると黒い塊があった。黒い塊は容赦なくメル―サの両足の骨を砕くと消えた。


『ズザーー』


「うぅーー」


 メル―サは地面に転がると小さな唸り声を上げた。後ろを振り返ると黒い影が立ってどんどん近づいて来る。


(ここまでか……)


 メル―サが死を覚悟した時、ガラガラと何台もの馬車が近づく音が聞こえてきた。


「「「メル―サ隊長ーーー!!」」」


 振り向くとグラナダにいたメル―サの部下達が駆け寄ってきた。


「駄目だ! お前達ここから逃げろーーー!」


 メル―サは必死で叫んだが、部下たちはそんなことはお構いなしにどんどんメル―サに近づいてきた。


「ここに来ては駄目だ!」


「何があったんですか?」


「こいつにはかなわないから、早くここから逃げるんだ」


「どこに誰がいるんですか?」


 その部下の言葉にメル―サが振り返るとそこにはすでに黒い影の姿は無かった。


(どこに消えたんだ?)


 部下たちは負傷したメル―サを馬車に乗せると急いでグラナダに向かった。


(私は助かったのか?)


 馬車の中で傷の手当を受けながら、メルーサは気を失った。

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