惹かれ合う二人
マルクスとルディーはボルダーの基地に帰還した。すでに辺りは真っ暗になっていた。ロビナス村から何も収穫を上げることなく帰還してしまいみんなの期待を裏切ってしまったことでルディーは意気消沈していた。もしかすればグラナダから物資が届いているのでは、という二人の願いは消えて相変わらず、グラナダからの物資は届いていなく、みんな腹をすかせていた。
帰ってきたときに何も収穫が無かったと報告した時のみんなの残念な顔が頭に浮かんだ。あのガッカリした顔が頭に焼き付いて離れない。
(俺たちがギルディアのエルフとバレちまったから、もう、あの村の住人は誰も協力してくれないだろう。違う村が近くにあるのかわからないが、今度はオレ一人で交渉に行こう)
ルディーは夜が明けたらすぐに近隣の村に行こうと思い、休憩所に向かって歩いていた。
「おい! 待て!」
門の警備兵が何か騒いでいるのが聞こえてきた。ルディーはこんな時間に何事か、と思いながら門に向かった。
「どうした? 何があった?」
ルディーが警備兵に聞くと、警備兵は人間の女が、と言って門を指差した。
指差した先を見るとたしかに黒髪の人間の女性が台車を持って立っていた。その女性を見てルディーは驚いた。昼間にロビナス村に居た女だった。
(確か名前はミラ? だったか?)
ルディーは恐る恐るミラに近づいた。
「あんた? 何をしにここへ来た?」
「あ…‥、あなたは? 誰ですか?」
「ああ、昼間は変身してたから、わからないか。待ってろよ、ほら、これで誰かわかるか?」
ルディーはそう言いながらアバター宝石のネックレスを着けた。するとエルフから人間に変身した。
「あなたは? ルディーさん! 昼間は助けてくれてありがとうございます」
「ああ、お礼を言うために、わざわざここまでやって来たのか?」
「い、いえ。あの、こ……これを……」
ミラはそう言うと台車に掛かっていた布を引っ張った。すると台車の上に袋に入った野菜や果物が山のように積み上がっているのが見えた。
「お、お前、これは?」
「お腹が空いて困っているようだったので、持ってきました。昼間助けていただいたお礼です。どうぞ受け取ってください」
「これを? あんた一人で持ってきたのか?」
「いえ、ダンテも手伝ってく入れたんですが……」
ミラは困った表情をした。その様子を見てルディーは何かを察した。ダンテはルーンの兵士なので、堂々と我々の前に姿を見せることはできない。おそらくこの辺りの藪の中にでも潜んで、隠れているのに違いない。
(そういうことなら早くミラを開放してやらないといけないな)
ルディーはそう思うとミラの荷物だけを受け取ろうと門を開けさせた。
「ミラさん。ありがとう、おかげで俺もマルクスも助かったよ」
「あ、あの……」
「ん? どうした?」
「マ……マルクスさんに会えますか?」
「え? ああ、マルクスは……」
ルディーが何か言いかけたところで。
「あれ? 君は昼間のミラさん?」
マルクスがミラを見つけて走って来た。
「マルクスさん!!」
「どうしたの? こんなところに?」
「あのー、これを……」
台車いっぱいに詰まった食料の山をみてマルクスは大喜びした。
「うわ〜〜! いっぱい食料がある〜〜。これをミラさんが?」
ミラはマルクスにほめられて恥ずかしそうに顔を赤らめてうなずいた。
「ありがとう! 助かったよ!!」
マルクスはミラの手を握って感謝した。ミラの顔がますます赤くなった。
「さあ、早くそんなところで立っていないで、入った! 入った!」
マルクスのその言葉にルディーは自分の耳を疑った。
「な、何いってんだよマルクス! 民間人と言ってもルーン大国の人間だぞ!」
「なんだよ、良いだろ。幸い今はうるさいメル―サが居ないんだ。俺がこのボルダーにいる唯一のギルティークラウンなんだから、俺が良いと言えば、良いんだ」
メル―サは中央司令部に呼ばれてギルディアの首都ガルダニアに帰還しているので、半月ほどボルダーに帰ってこない。マルクスの言う通り今このボルダーにはギルティークラウンと呼ばれる兵士長の地位にいるのはマルクスだけだった。
ルディーはマルクスを止めようとしたが、そんなことはお構いなしに、あっという間にミラを基地の中に連れて行った。どうやらその辺に隠れているダンテを説得するのは自分の役目だと観念した。
ルディーを残してみんなはミラと持ってきた食料と一緒に食堂に消えていった。
◇
「うめ〜〜! こんなうまいの食ったこと無いぞ〜〜〜〜!」
「本当に美味しいわーーー!!」
ボルダーのギルティーたちは久々のご馳走に皆が笑顔になっていた。ミラの作ってくれた料理はどれもとびきり美味しかった、中でもマルクスが気に入ったのは汁だった。
「この汁料理は本当に美味しいなーーー!」
「それは味噌汁と言ってルーンの家庭料理です」
「へえーー、どうやって作ってるんだ?」
「ええ。野菜を鍋で煮込んで最後にこの味噌で味を整えるんです」
「この味噌という食べ物も独特の風味があって美味しいな」
「気に入っていただけて光栄ですわ。今度いっぱい持ってきますわ!」
「ああ。ぜひ分けてくれよ。俺もこの料理を作れるようにしたいよ」
「マルクスさんこんなルーンの物をギルディアに持ち込んでいるのが見つかったら、流石にまずいですよ」
兵士の一人がマルクスとミラの会話に入ってきた。
「ああ。見つかると確かにまずいかもしれないが、うちには隠し倉庫があるからそこに保管すれば大丈夫だよ」
「本当に大丈夫ですか?」
ミラは心配そうにマルクスに聞いてきた。
「大丈夫。心配ないさ、それよりも絶対に作り方を教えてくれよ。なんせ俺は昔料理人だったんだからな」
「ええ、そうだったんですか? じゃあ作り方をお教えしますわ」
「ああ。ありがとう」
「いえ。お礼を言うのは私の方です」
マルクスはそう言うとミラの顔をじっと見た。じっと見られて恥ずかしかったのかミラが視線を逸らすとマルクスの手が伸びてきてミラの顔に手を置いた。ミラはドキドキして心臓が飛び出しそうになった。そのままマルクスはミラの頬についた包帯を手に取ると優しく剥がそうとした。
「痛い……」
「わ、悪い。ちょっと傷口を見たくて……」
「い……いえ、いいんです。どうぞ、とってください」
「ああ。じゃ……」
マルクスは優しくミラの頬にある包帯を取った。白く艷やかな肌に赤く滲んだ傷跡が痛々しく見えた。
「まだ痛むか?」
「え、ええ。少しズキズキします」
「そうか。少しじっとしててくれ」
マルクスはそう言うと優しく傷口に触れると呪文を唱え始めた。すると傷口が青く光り輝いたかと思うとみるみるうちに痛みが和らいでいき、傷口がほんの少し塞がった。
「え? すごい! 痛みが消えました!」
「回復呪文をかけたんだ」
「本当に? ありがとうございます」
「でも、まだ完全に完治していないから、明日から何度もここに通ってもらうことになるけど……」
「え? はい! お願いします。じゃ明日、味噌持ってきますね!」
「ああ。絶対に約束だぞ!」
◇
ミラはその日から毎日のようにボルダーの基地に来た。食料を持ってくるのと、傷の治療が表向きの用事だったが、マルクスとミラの二人はすぐに仲良くなっていった。特別な気持ちが二人に芽生えるのに、それほど時間は掛からなかった。
ルディーから見れば初めて二人が会った時には恋仲になるだろうと薄々感じるように二人はお似合いだった。
だが、ここからが二人の悲しい物語の始まりだったことは、まだこの時の二人には知る由も無かった。
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