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残念王子のアルフレッド

「何やってんだあのバカども!!」


 エナジーは崖を下っているレンとアルフレッドの姿を見て思わず叫んだ。


「あいつら、あの化け物の恐ろしさを知らないから無茶しやがって!!」


 エナジーはクリスとエリカとロザリアの方を振り向いた。


「お前たちはここでかくれていろ」

「エナジーさんはどうするんですか?」

「俺はあいつらを連れ戻す!」


 エナジーはそう言うとレンとアルフレッドを追いかけて険しい崖を下って行った。


 ◇


(どうしてこんなことになっている?)


 切り立った崖を下りながら自分の状況をレンは考えていた。


『グェエエエエエエーーー!!』


 ゴブリン司祭の呪文により金色の鎖が暗黒竜(あんこくりゅう)の子供の体を締め付けた、そのたびに苦しそうなうめき声が聞こえた。どうにか助けたいが何もできない自分がそこには居た。レンは自分を責めることしかできなかった時、視線の端で何かを捉えた。それはアルフレッドだった。


 アルフレッドは急に走り出したと思ったら、躊躇(ちゅうちょ)せず崖を下り始めた。それを見た瞬間自分も勝手に体が動いた。


(あいつ、あの竜を助けに行くに違いない)


 全く嫌になる、後先考えずに行動に移せるアルフレッドを何故か尊敬している自分がいる。レンは剣聖の称号を持っていながら、動けないでいたのにこいつは、アークガルドの王子という立場なのに、後先考えずに行動に移した、失うものが多いのは圧倒的にあいつの方だというのに、そういうアルフレッドをレンは(うらや)ましく思った。


『グェエエエエエエーーーーー!!!』


 暗黒竜の苦しそうな声が一際大きくなった。金の鎖はすでに全身にまわり暗黒竜の子供はぐったりと力なく倒れている、あと数分もすればあのゴブリン司祭の支配下になるだろう。


(一刻も早くあのゴブリンを倒さないと間に合わなくなる)


 崖を下りながらレンはアルフレッドの姿を探して驚いた。アルフレッドはすでに崖下に降りて祭壇に駆け寄っていた。


(あいつの身体能力はどうなってんだ?)


 一目散に崖を駆け下りたアルフレッドは、祭壇に急いで向かった。ゴブリン司祭は呪文に夢中でアルフレッドの存在に気づいて居ないようだった。


 アルフレッドはそのまま突き進むと祭壇の上まで一気に飛び上がり、腰の刀を引き抜いてゴブリン司祭に斬り掛かった。


「ウォリャーーーーー!!」


 いきなり現れた男にゴブリン司祭はびっくりして持っていた杖で刀を受け止めようとしたが、アルフレッドの剣はゴブリン司祭の杖を右腕ごと両断した。


『ギャーーーー!』


 ゴブリン司祭の腕から鮮血が飛び散ると悲鳴を上げて祭壇で転げ回った。右腕はかろうじてつながっているものの、杖は真っ二に切断されている。


 祭壇の周りに居た手下のゴブリンたちは何が起こったか分からず呆然としていたが、やがて侵入者の存在に気づくと大勢がアルフレッドに襲いかかった。アルフレッドも剣の腕には自信があるが大勢のゴブリン達に取り囲まれて一斉に攻撃されればひとたまりもない。レンは急いで崖を転げ落ちるように下るとゴブリンの群れの中に飛び込んだ。


「グァアアアアーーーー!!」


 次々とゴブリンたちはレンの一撃に吹き飛ばされた。レンは剣聖の力を開放したため、全身に黒いオーラを纏った。ゴブリンたちはレンの攻撃で次々と吹き飛ばされたので、まるで車のワイパーのように、レンの周りにゴブリンは居なくなり、丸い穴が空いているように見えた。その穴の中心に黒いオーラを纏ったレンが立っいる。


「レン!」


 アルフレッドはゴブリンの攻撃を剣で受払ながらレンを見た。


「早く! こっちに!」

「ああ。分かった!」


 アルフレッドはゴブリンたちを倒しながらスキをついて、祭壇からレンの近くまで飛び降りた。すぐに二人はお互いの死角を補うように背中合わせになった。


「全く! 無茶しやがって!」

「それはお互い様だろ」


 二人はあっという間に大勢のゴブリン達に取り囲まれた。


「これからどうする?」

「どうするって? まいったな、これだけの数を相手にするのは、流石にきついぞ!」

「剣聖が弱音を吐くな! 俺たちだったらなんとかなるだろ!」

「全く、簡単に言ってくれるぜ!」

「よし! 行くぞーーー!!」


 レンとアルフレッドは覚悟を決めてゴブリンの群れに突っ込もうとした時、『グァアアア!!』と遠くで咆哮(ほうこう)が鳴り響き暗黒竜が立ち上がった。


 暗黒竜は翼を広げ羽ばたこうと動かした瞬間、ものすごい突風で近くいたゴブリンたちは枯れ葉のように吹き飛んだ。レンとアルフレッドも暗黒竜の舞い上げる突風に吹き飛ばされそうになり近くの大岩にしがみついた。吹き飛ばされたゴブリンたちは壁に叩きつけられて、体がバラバラになる者、舞い上げられた小石が弾丸のような勢いで飛んできて、全身を穴だらけにされて絶命する者もいた。


 暗黒竜はゴブリン達に気遣う様子もなく上空に羽ばたくと空中で制止した。上空まで飛んだところで、突風が止んでレンとアルフレッドは体を動かせるようになった。


「なんてやつだ。羽ばたいただけでこれほどとは……」

「おい! あいつなんか様子がおかしくないか?」


 レンが暗黒竜を見ると上空で制止して息を思いっきり吸い込んでいた。


「な、なんか。やばい気がするな」

「奇遇だな。俺も同感だよ」


 二人が暗黒竜を見上げているとエナジーの声が聞こえてきた。

「バカヤロー!! 呆けっとしてないで、ここから逃げるぞーーー!!」


 エナジーはレンとアルフレッドの腕を掴むと大きな岩陰に隠れた。


「あの竜は何をする気だ?」


 アルフレッドは竜が気になって仕方がない。


「そんな事はいいからふたりともこれにくるまれ! 早く!」


 二人はエナジーの持ってきた布のような物にくるまった瞬間、暗黒竜の口から炎が吹き出た。


 暗黒竜の口から出てきた炎は地上に到達するとあっという間に広がり、地上には何本もの火柱が上がった。その炎に少しでも触れた生き物は跡形もなく地上から消え失せた。地上に居たゴブリンたちの殆どはその火炎の前に力尽きた。


 暗黒竜はひとしきり炎を吐くと気が済んだのか、何処かへ飛び立ってしまった。


 エナジーは暗黒竜が居なくなるのを確認すると岩陰から出てきた。レンとアルフレッドもなんとか無事で、二人も岩陰から出て周りを見渡すと言葉を失った。岩の祭壇が溶けて無くなっていた。ゴツゴツした岩肌も溶けてなめらかになっていた。


「こ、これは、すごいな」

「岩をも溶かす攻撃魔法。ヘルフレイムだ」

「ヘルフレイム?」

「そうだ。この世のありとあらゆるものを瞬時に地上から消してしまう。これを見ろ」


 エナジーは先程まで三人を包んでいた、ボロボロになった布を見せた。


「この布はサラマンダーの革でできた究極の火力耐性の布だったのにこのザマだ」


 三人を包んでいた時はあれほど大きかったのに、今では信じられないほど小さくボロボロになっていた。


「あと一回あれを食らっていたら俺たちも今頃この世にいなかったな」


 レンとアルフレッドは、それを聞いて改めて暗黒竜の恐ろしさを実感した。


「あいつは何処に行ったんだ?」

「おそらくグランフォレストの奥にある。グランドアビスに向かうだろう」

「グランドアビス? どうしてそこに行くとわかるんだ?」

「そこにしかあいつの居場所が無いからだ」

「居場所がない? どういうことだ?」

「強いモンスターは生きているだけで大量のマナが必要になる。マナはモンスターしか持っていない」

「人間を殺しても意味が無いのか?」

「まあ、そういうことだ。マナは強いモンスターになればなるほど多く所持している」

「その強いモンスターがグランドアビスに居るのか?」

「ああ。逆に言えば強いモンスターはグランドアビスにしか居ない」

「他には居ないのか?」

「昔はどうかわからんが、今はそこにしか住んでいない。あいつは強すぎるあまり大量のマナを必要とするから、必然的にグランドアビスしか住む場所が無いだろう」

「そんなにグランドアビスのモンスターは強いのか?」

「ああ、この俺でも敵わないモンスターがウヨウヨ居るぞ」


 レンとアルフレッドはあんなモンスターがウヨウヨいると想像するだけで恐ろしくなった。


『ウォオオオオーーー!』


 いきなりの怒号に三人は正面の崖の上を見た。崖の上には次々とゴブリンが姿を表した。その数は時間が経つごとにどんどんと増えていった。


「まずいな早くこっちの崖を登るぞ」

『グォー!』


 少し遠くでうめき声がしたので三人が声の方を振り向くとゴブリン司祭が右腕を抑えながら血まみれで立っていた。


「あいつしぶとく生きてやがったのか」


 アルフレッドが止めを刺そうとゴブリン司祭に近づこうとした時、正面の崖の上からゴブリンたちが一斉に駆け下りてきた。


「やばい! 早くここから逃げるぞ!」

「え? でも、あいつを……」

「いいから、もうほっとけ! 行くぞ!」


 エナジーはまだ司祭に向かって行こうとしているアルフレッドの襟首を掴むと強引に引きずって連れて行った。


「くそ!」


 アルフレッドは観念して崖を登り始めた。


「おい! 早くしろ!」


 アルフレッドは恐ろしく早いスピードで崖を登っていくと、あっという間に頂上に着いた。


「くそ! あのヤロー、全くとんでもない速さで登って行きやがって!」

「何だあいつは? 本当に人間か?」


 エナジーもアルフレッドの人間離れした運動能力に驚いた。


「アイツのことは気にするな。考え方も、身体能力も俺たちの常識の範囲外の生物と思えばいい」


 レンの言葉にエナジーは苦笑いしながら呟いた。


「全く、人間の王子という存在は計り知れんな」


 ◇


 一足先に崖の上に登ったアルフレッドは隠れていた岩陰にクリスとエリカとロザリアの三人の姿が無いことに気づいた。


「あいつら、全く勝手に何処かに行きやがって、どうして集団行動ができないんだ!」


 岩陰から居なくなっていた三人に毒づいた。エリカに聞かれたら修羅場になっていただろう、勝手な行動を取るのはいつも自分の方なのに、本人は全く自覚がないのがアルフレッドのすごいところである。


「!!」


 その時、アルフレッドはなにかの気配を感じ取った。火山の上の方から何人かが戦っている気配を感じて火山の上に駆け出した。崖を登ってきた直後とは思えない速度で頂上付近まで駆け上がったとき、ゴブリン達に取り囲まれて戦っているクリスが見えた。エリカとロザリアを守りながらクリスは一人で大勢のゴブリンと戦っていた。アルフレッドはその光景を見た瞬間、体が動いた。脱兎(だっと)の如く駆け出して大勢のゴブリン達に突っ込んでいった。


 ◇


「全く、次から次に出てきてきりがないな」


 クリスは大勢のゴブリンたちに囲まれながら一人で応戦していた。クリスは剣の腕前は優秀で。そのへんの戦士では相手にならないほど剣の腕には自身がある、しかし流石にゴブリンの数が多く徐々に苦戦を強いられていた。


「クリスさん! 私達のことはいいから、あなただけでもここから逃げてティアラを救って!」


 ロザリアはクリスに懇願した。


「そんな事はできません!」

「え? でも……」

「あなたを失えばティアラが悲しむ。そんな思いを彼女にさせるわけにはいかない」

「クリスさん」

「大丈夫ですよ。必ず誰かが戻って来てくれる。私は自分と仲間を信じてる」


 クリスはそう言うとロザリアを安心させようと笑ってみせた。だが、その一瞬のスキをついてゴブリンが襲って来た。ロザリアはクリスの後ろから襲ってくるゴブリンを見て叫んだ。


「危ない! クリス!!」


 クリスはすぐに振り返ると刀で防御しようとしたが、ゴブリンの振り下ろす刀が一瞬早く、誰もがクリスの死を確信したその時、『ギャーーー!!』ゴブリンは、叫び声を上げながら倒れた。


「クリス待たせたな」


 倒れて動かなくなったゴブリンの後ろにアルフレッドが立っていた。


「王子!!」


 アルフレッドとクリスの剣技はほぼ同じ技量だが、一人で戦うのと二人で戦うのとでは全然違う。ここでアルフレッドが一緒に戦ってくれる安心感は絶大だった、それはクリスが一番良くわかる。


「蹴散らすぞ!!」

「はい。王子!」


 そう言うと二人はあっという間にゴブリンたちを蹴散らした。あらかたゴブリンを倒し終えたところで、エナジーと遅れてレンも合流した。六人は再び火山の頂上付近で合流した。


「早くこの場を離れるぞ!」

「何をそんなに焦ってるんだ? ゴブリンはあらかた倒したぞ?」


 アルフレッドはエナジーに反論すると、あれを見ろ、と言って火山の(ふもと)を指差した。そこは大勢のゴブリンたちが押し寄せて、おびただしい数のゴブリンによって地上が真っ黒に埋め尽くされていた。 


「何だあれは? 何匹居るんだ?」

「ざっと見て二〜三千匹といったところだな」

「そ、そうか。ま、まあ俺たちだったらなんとかなるだろ!」


 アルフレッドはそう言うと戦うための準備運動を始めた。


「バカか? お前は」

「え? なんで?」

「あの数を相手に勝てるわけ無いだろ」


 エナジーはアルフレッドが残念王子なのを思い出した。


「何か考えがあるんですか?」


 冷静なクリスがエナジーに聞いた。


「ああ、早くこっちに来い」


 五人はエナジーの後を着いていくと大きな岩壁の前で止まった。エナジーは岩壁の前に行くとそのまま岩壁に手をついて何やら呪文を唱え始めると、壁に魔法陣が浮かび上がり光を放つと壁に穴が開いた。


「こ、これは……」

「エルフの結界だ。この結界はエルフにしか破られん。早く、ゴブリンが来る前に中に入るぞ」


 六人は壁に空いた穴の中に急いで入った。中に少し入ったところで、エリカは振り返ると穴は無くなっていた。これでゴブリンたちは入ってこられないだろうと思い安堵した。


「この通路は?」

「グランボルケーノからギルティアにつながる秘密の通路だ」

「え? それじゃもしかして……」

「そうだ。この先にギルティアがあって、そこに連れ去られたティアラがいる」


 エナジーの言葉を聞いた瞬間、アルフレッドは走り出した。


「お、お前! 待て、勝手に……?」


 アルフレッドは走り出したかと思うと少し先に進んだところで、立ち止まった。それもそのはずアルフレッドの立ち止まった先は二つに道が別れていた。さすがのアルフレッドも知らない道を勝手に進むほど馬鹿ではなかったと五人は安心した。


「こっちからティアラの声が聞こえる」


 アルフレッドは、それだけ言うと再び走り出してあっという間に、皆の前から見えなくなった。


「おいバカ! そっちは道が違うぞーーー!!」


 エナジーは叫びながらアルフレッドを追いかけたが、すでにやつの姿は見えなくなった。


「あっちは何処につながってるんですか?」


 クリスとレンが走ってエナジーに追いついた。


「この先はギルティアじゃなく、隣のルーン大国につながってる」

「ルーン大国? 確かギルティアと戦争している国の?」

「ああそうだ。ティアラはギルティアのエルフに連れて行かれたというのに、あのヤロー」

「私たちもルーン大国に行きましょう」

「は? 何を言ってるんだ?」

「アルフレッド王子はティアラの声を聞いたと言っていました」

「何かの間違いだろ、ここからルーン大国までどれだけの距離があると思うんだ」

「いえ、王子の耳は確かです」

「は? 正気で言っているのか?」


 エナジーはそう言うとアルフレッドのことを思い浮かべた。確かにあの人間は信じられない身体能力を持っている、おそらく耳も常人よりは遥かに良いだろう。でも……


「ルーン大国に行きましょう。アルフレッド王子を信じましょう」


 残念王子とは違ってクリスが言うと説得力がある。最も残念王子はすでにこの場にはいないので、論外である。エナジーはしばらく考えていたが、よく分かったよ、あいつを信じよう、と言った。


 エナジーとレンとクリスとエリカとロザリアは五人揃ってルーン大国を目指してあるき出した。アルフレッドは何処に行ったかわからないが、多分ルーン大国に向かっているだろう。

読んでいただきありがとうございます。


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面白ければ☆5個、つまらなかったら☆1つで結構です。

感じたまま評価して下さい。


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