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デミタスの変貌

 金色の光を放ちながらカイトは立っていた。昼間でも薄暗い森の中がカイトの全身から放つ光によって目がくらむほどに明るくなった。稲妻を全身に纏いながらロイの前をゆっくり通過した。


「ロイ大丈夫?」


 いきなり声を掛けられて後ろを振り向くとティアラがいた。


「ティアラ! 無事だったか?」


「ええ。ギルティー達に捕まりそうになった時、カイトが助けてくれたの」


「そうか。それは良かった」


「そんなことより、ロイ。私を助けたばかりにこんなひどいことになって……ごめんなさい」


 私は殴られて腫れ上がったロイの唇を持っていたハンカチで優しく拭った。


「なにこれぐらい、大した傷じゃないよ」


 私はすぐにロイの拘束具を外した。ロイはきつく縛られて青く変色した手首を撫でながら、ここから離れるぞ、と言った。


「え? でも……」


「早くしよう! ここに居るとカイト隊長の邪魔になる!」


 ロイはそう言うと私の腕を掴んで強引に引っ張った。


「カイト隊長の使う雷魔法は広範囲魔法だから、俺達が近くにいると本気で戦えないんだ」


「え? そうだったの? 分かったわ!」


 私達はカイトから100メートルほど離れた岩陰に隠れた。


「ここなら大丈夫だ」


 大岩の影から顔を出すとカイトの戦う姿が見えた。雷を身にまとったカイトはギルティーたちを攻撃していた。


 ギルティー達はカイトの雷魔法が直撃して失神した。しかし流石ギルティーたちである。デミタスの部下の何人かはカイトの雷魔法を掻い潜って攻撃を仕掛けてきた。


「さすがの雷帝もこれだけの人数と戦うのは分が悪いか?」


 苦戦する様子を見たデミタスが嫌味を言ってきた。


「フン! 貴様の部下と言っても俺と同じギルティーの兵士だからな、殺さないように手加減して戦っているんだよ」


「苦し紛れの言い訳にしか聞こえんぞ!」


「苦し紛れだと? 良いだろうお前には俺の本気の一撃をくれてやるよ!」


 カイトはそう言うと両手を天高く掲げると呪文の詠唱を始めた。しばらくすると上空の雷雲が渦を巻いて動き出した。渦の中心から雷がカイトの掲げた腕に避雷針のようにいくつも落ちた。雷が腕に落ちるごとに腕に光が集まって濃くなっていくのが分かった。目がくらむほど光が集まった両腕をデミタスに向けるとカイトの両腕からこれまでとは比べ物にならないほど巨大な稲妻が飛んでいきデミタスに直撃した。


 その光景を目の当たりにした部下のギルティー達は皆デミタスの死を覚悟したが、デミタスはその場に居た全員の予想を裏切って平気な顔をしていた。


「な? なぜ生きている?」


 カイトが一番信じられないと言った表情をしていた。


「俺の本気の一撃をまともに食らったはず……?」


「ファッハッハーーー!!」


 無傷のデミタスは狂ったように笑いだした。


「この私には雷魔法は効かないんだよ!!」


「そ……そんな……」


 カイトが言葉を失って呆然としているとデミタスから飛んできた黒いオーラのようなものに弾かれて森の中に吹き飛ばされた。


 大木に体を強打した衝撃に、しばらく息ができないほど胸が苦しかった。すぐに立ち上がろうと体に力を込めると全身の骨が軋む音がして悲鳴を上げているように聞こえた。


 フラフラの状態でなんとか立ち上がったカイトの目の前にデミタスが立っていた。デミタスの目は充血して唇はどす黒く変色していた。先程までのデミタスとは思えないほど別人のような顔にカイトはゾッとした。


 デミタスの体から溢れ出ている得体のしれない黒いオーラは時間とともに一層その濃度を濃くしていった。段々と悪魔のような姿に変わり果てていくデミタスを見ていると、まるで何かに取り憑かれているかのようだった。


 デミタスが腕を上げたと思った瞬間、濃度を増した黒いオーラによってカイトは吹き飛ばされた。


(何だ? この力は?)


 カイトは吹き飛ばされる中、そんなことを考えていた。吹き飛ばされた先には大岩があった。カイトの体はその大岩に吸い込まれるように飛んでいき無残にも大岩に叩きつけられた。


『グシャ!!』


 大木に突っ込んだときとは比べ物にならないほど全身に激痛が走った。全身が粉々になったかのような感覚に意識を失いかけた。倒れて意識が遠のく中、必死でこらえていると髪を掴まれて強引に顔を上に上げさせられた。そこには悪魔のような形相をしたデミタスがいた。


「お……お前は……何者だ……? ウッ……!!」


 カイトがそう言うとの同時にデミタスの右腕がカイトの首を掴んでそのままカイトの体を上に持ち上げた。ものすごい力でカイトは首を閉められながら宙吊りになった。


『グゥウウウ……!!』


 カイトはデミタスの腕を引き剥がそうと両手に力を込めて振りほどこうとしたが、びくともしなかった。苦しそうな声を出しながらデミタスを睨みつけた。


「カイト。お前に良いことを教えてやろうか」


 デミタスは不気味な笑みを浮かべてカイトに言ってきた。


「グゥ……い……良いこと?……」


 首を締め上げられて今にも意識が遠のく中、なんとか声を絞り出した。


「お前の兄は……?」


 デミタスが続けて何かを話そうとした瞬間、首を閉めていた右腕に何かが触れるのが見えた。


「グゥアアーーーーー!!!」


 デミタスの右腕から鮮血が飛び散りうめき声を上げて首を掴んでいた手を離した。


 カイトは突然手を離されてその場に倒れた。


「ゴホ……ゴホ……ハァ……ハァ…………」


(いま兄と言ったのか? デミタスは兄ちゃんのことを何か知っているのか?)


 締め上げられていた首を右手で抑えながらデミタスを睨んだ。


 デミタスは右腕を抑えながらそばに居た男を見ていた。男は朱色の鎧を身に纏い刀を構えてデミタスを睨みつけていた。カイトは以前ルーン大国で鎧の男を見たことがあった。すぐに鎧の男がルーン大国の夜叉神将軍(やしゃじんしょうぐん)と分かった。鎧で顔は見えないが70歳は超えている老人と記憶している。


 どうやら首をしめられて意識を失いかけた時に、視野にうっすら写った物は夜叉神が振り下ろした刀のようだった。


(なぜここにルーン大国の夜叉神が?)


 カイトは兄のことが気がかりだったが、夜叉神を見て頭が混乱した。


「貴様は何者だーーーー!!!」


 デミタスは怒りを顕にして叫んだ。


「もう、俺のことも思い出せないのか」


 夜叉神は顔を強張らせると吐き捨てるように言った。


「全員! 一斉に攻撃しろ!!」


 夜叉神が叫ぶと森の中からルーン大国の兵士が一斉に現れてデミタスを攻撃した。


 夜叉神はカイトに向き直ると倒れているカイトに手を差し出した。


「ティアラとやらはどこに居る?」


 カイトはまだ理解できない頭の中、どう答えていいか思案していると後ろからマチルダの声がした。


「カイト隊長!」


 振り返るとマチルダがロイとティアラを連れて立っていた。


 夜叉神はティアラを見て驚いた表情をしてしばらく固まった。


「ナ……ナルディア…………」


 夜叉神というルーン大国の将軍は私の顔を見ると低い声でポッリと言った。


「き……君が……ティアラか?」


「は……はい」


「あ……あいつは……デミタスは本当に君を殺そうとしたのか?」


「は……はい」


「そうか……」


 私が答えると夜叉神は一瞬悲しそうな顔をしたが、すぐに真剣な顔に戻ると私達に言った。


「早く! 部下が時間を稼いでいる間にティアラをここから連れ出すぞ!」


 デミタスを見るとルーン大国の兵士たちが必死で戦っていたが、怪物のような姿になったデミタスの攻撃にルーン大国の兵士は次々と倒されているようだった。


「ティアラこっちだ! 急げ!」


 カイトは私の手を引くと夜叉神の連れてきた馬に跨った。


「早く! ロイとマチルダも乗るんだ!」


 カイトがロイとマチルダに呼びかけたが二人は首を横に振った。


「俺達は行けない」


 ロイとマチルダはそう言って笑った。


「何を言ってる! 早く来い!!」


 カイトが叫んでも二人はその場を動こうとしなかった。


「ルーン大国の兵士が戦っているのに俺たちが逃げることは出来ない」


「そんな……ロイさん! マチルダさん!」


「ここでアイツを食い止めなければすぐに追いつかれてしまう」


「お……お前たち……」


「カイト隊長! ティアラを無事にルーン大国に届けてくれ! 頼む!!」


「だ……ダメよ! ロイさんもマチルダさんも早く逃げて!!」


 ロイとマチルダは振り返るとニッコリと笑った。


「ティアラ。オレたちの家族を救ってくれてありがとう。君から受けた恩は一生忘れないよ」


「そ……そんな……」


「良いんだよティアラ。俺たちのことは気にするな、カイト隊長を頼んだぞ」


 二人の意志が変わらないと判断したカイトは今にも馬から降りようとしている私の体を強引に引き寄せた。私は泣きながら叫んだ。 


「二人にはまだ幼い子供が居るんだから絶対に生きなくちゃダメだよ!! 危なくなったら必ず逃げて!!」


「ああ。ありがとうティアラ。ルーン大国に行っても元気で暮らせよ」


「お前たち……、後は頼んだぞ」


「ああ。任せろ!」


「よし! 行くぞ!!」


 夜叉神はそう言うと走り出した。


「二人共無事でいて!! お願いだから! お願いだから生きて!!」


 私は声の続く限り叫んだ。


 私とカイトの乗った馬もグラナダ戦線に向けて走り出した。

読んでいただきありがとうございます。


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