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ルーン大国の将軍

 メルーサとマチルダは小屋の中にあった秘密の抜け穴でルーン大国を目指していた。 


 抜け穴の中は狭くジメジメしていた。おそらくこの抜け穴はヒロタ川の下を通っているのだろう、人がひとりやっと通れるような狭い通路を百メートルほど進んだところで行き止まりになっていた。


 マチルダは薄暗い穴の中で目を凝らしていると行き止まりと思われた壁に薄っすらと木の棒のような物が見えた。上から少し陽の光が差し込んできてその木の棒のような物をまじまじと見ると、どうやらそれは上に登るためのはしごのようだった。


 このはしごを登ると外に出られるのだろう。そしてそこはもうルーン大国ということだろう。


 マチルダはメルーサに続いてはしごを登った。この先が敵国と考えると緊張ではしごを登る足が震えた。上段まで登ったところで出口は大木の虚に繋がっていた。メルーサは虚の中から慎重に辺りを見回すと周りに人気が無いことを確認してゆっくりと音を立てないように外に出た。


 二人が出たところは草木が鬱蒼と茂る森の中だった。慎重に周りを警戒しながら少し進んだところでメルーサが急に立ち止まった。その様子を見てマチルダの身に緊張が走った。


「どうしました? メルーサさん」


「まずいな、囲まれている。すぐに戻るぞ」


 マチルダはすぐにメルーサの言っている意味を理解した。


 二人は一目散に大木まで引き返そうと走り出した時、何者かが木の陰から出てきて二人の行く手を阻むかのように立ちふさがった。二人はすぐに立ち止まって身構えた。すぐに周りの草むらからどこにこんなに隠れていたのかと思うほどにゾロゾロと兵士が出てきて、あっという間にメルーサとマチルダはルーン大国の兵士に取り囲まれた。


「どうやら待ち伏せされていたようだな」


 メルーサは悔しそうに呟いた。


 如何にギルティークラウンのメルーサといえどこの数の兵士を相手に勝てるはずもなく二人は大人しく降参することにした。最初から二人の目的はティアラを救出してほしいとルーン大国の兵士に頼むことが目的なので端から二人には戦う意志は無かった。


 二人は両手を上に挙げて降参した。メルーサとマチルダに戦う意志がないと知ると、ルーン大国の兵士が二人に話しかけてきた。


「お前たちはギルティアの者か?」


「ああ、そうだ」


 メルーサが答えると周りにどよめきが上がった。


「なぜここに来た?」


「私達の仲間が聖女を連れて行ったので、私達と協力して聖女を助けてほしい」


「聖女だと? そいつの名前は?」


「ティアラ」


「ティアラだと!」


 ティアラの名前を出した途端再びどよめきが上がった。その時、林の中から馬にまたがった兵士が現れた。兵士は朱色の鎧を身に纏い周りの兵士とは身につけている装飾品が明らかに高価そうに見えた。


夜叉神様(やしゃじんさま)!」


 そう言うとルーン大国の兵士達は一斉にその場に跪いた。


「夜叉神? あなたがルーン大国の夜叉神将軍?」


 メルーサが驚いた表情で聞いたが、夜叉神と呼ばれた男はメルーサの質問は歯牙にもかけず逆に二人に聞いてきた。


「そのティアラという聖女はガンドールから居なくなった女か?」


 メルーサは少しムッとした表情をしたので、マチルダが代わりに夜叉神とメルーサの間に入って正直に答えた。


「ええそうです。こちらの手違いでガンドールから連れてきてしまった」


 マチルダが答えると兵士達がどよめいた。


 夜叉神の近くに居たルーン大国の兵士の一人が夜叉神に耳打ちした。


「夜叉神様、それでは……」


「ああ、アスペルド教会からが捜索願いが出ていた聖女に間違いないだろう。ガルボの言っていたことは本当だったな」


 夜叉神はメルーサとマチルダを見ると更に質問をした。


「ティアラを連れて行ったやつは誰だ?」


「デミタスというギルティーだ」


「デミタスか……、やはり……、まだ生きていたか……」


 夜叉神は意味深にそう言うと表情を固くした。


「デミタスを知っているのか?」


 メルーサの問に夜叉神は鬼のような形相で睨むと吐き捨てるように言った。


「お前たちが知る必要はない!! それよりも早くそいつが居る場所に案内しろ! そのためにこの場所に兵を集めていたんだ」


「え? それでは最近この場所に兵士が集まっていたのは?」


「ギルティアに囚われているティアラという聖女を救出するためだ!」


 マチルダは少しホッとした。これだけの数の兵士でティアラ救出に向かえば確実に助けることができると思った。でも次の瞬間メルーサ隊長の口から信じられない言葉がでた。


「これだけ多くの兵士をギルティアに入国させることは出来ない」


 マチルダは驚いてメルーサの顔を見て真意を問いただした。


「どうして? これだけの人数で救出に向かえばティアラを助け出せますよ」


「見つかっては困るんだ、ルーン大国の兵士たちには少数で秘密裏に抜け穴からギルティアに潜入してもらう」


「どうして? そんな……」


 納得がいかないマチルダをメルーサはなんとか説得しようと試みた。


「あまり事を荒立てたくはないんだ。この一件で今は落ち着いている戦火が再燃してしまう恐れがある」


 マチルダはメルーサの言うことは筋が通っていると感じた。この大軍でヒロタ川を渡るとそれこそルーン大国が攻めてきたと勘違いするギルティーたちが居て当然だろう。自分たちが通ってきた抜け穴もこれだけの数の兵士が通るとなると通過するまでに日が暮れてしまう。今は一刻の猶予もない、メルーサの言うように少数精鋭で助けに行くのがこの場合正しい選択だと気づいた。


 マチルダはこの状況下にこれだけ冷静な判断ができるメルーサ隊長の凄さに改めて感心した。二人のやり取りを見ていた夜叉神も話がまとまったのを見届けると声を掛けてきた。


「こちらも少し編成しよう」


 夜叉神はそう言うと精鋭を十名選抜してきた。


「メルーサとやらこれでいいか?」


「ああ。それで良い。それでは私に付いて来てくれ」


 メルーサとマチルダは夜叉神率いる部隊と一緒に抜け穴からギルティアに入っていった。


 ◇


 ローゼンブルグの西にある森の中を抜けると急に開けた場所にでる。ギルティアの民はそこをルドラの丘と呼んでいた。


 昔からこのルドラの丘は罪人の処刑場として使われていた。そのためここは周りの住民から忌み嫌われる場所となり誰もここへは立ち入らない。そのせいか丘の周りは背の高く育った草木で覆われていたが、上の岩盤は草木が生えないので、丘の上だけは開けていて見晴らしが良かった。


 この場所には木でできた台がありその台の上に木の枠が物干し竿のような格好で立っていた。その物干しざおの中央から不気味なロープが一本垂れ下がっていた。そのロープに罪人を吊るすのだろう、遠目からでもそれが確認出来た。


 デミタスはロイと私を丘の上に連れてくると私を侮蔑(ぶべつ)の眼差しで見た。


「まずはお前からあの世に逝ってもらおう」


 そう言うと手下のギルティーが私の拘束を外した。ギルティーの一人が私の腕を掴んで台の上に連れて行こうとした時、ロイがいきなり周りのギルティーを押しのけて私の腕を掴んでいるギルティーに突っ込んだ。ぶつかったギルティーは『ゔっ』とうめき声を上げるとロイと一緒にそのまま倒れた。


 ロイは倒れたまま私に向かって叫んだ。


「今だ!! 逃げろ! ティアラーー!!」


 その言葉にハッとして拘束具が外れて身軽になった私はすぐに森の中に走って逃げた。


「何をしている! 捕まえろーー!!」


 すぐにデミタスが叫ぶと複数人のギルティーが私の後を追いかけて森の中に入ってきた。


 ロイは怒り狂ったデミタスに腹を蹴られた。2メートルほどふっとばされて口から血が出た。


「このやろう!! 無駄なあがきをしやがって!!」


 ロイは口から血を出しながらデミタスを睨みつけた。


「フッ……フフ……、無駄なあがきだと思うか?」


「何が言いたい?」


『ドガーーーーン!!』


 まばゆい閃光とともに轟音が辺りに響き渡った。それと同時に森の木々から男達がものすごい速さで吹っ飛んできて近くにあった大木に激突した。よく見るとその男達は先程ティアラを追いかけて行ったギルティー達だった。ギルティー達は全員真っ黒になって気を失っていた。


「間に合ったようだな……」


 ロイはそう言うと森の方を見て安心したように笑った。


 真っ黒になって動かない男達を見て他のギルティーたちは動揺していた。


「ま……まさか? あ……あいつが……」


「ど……どうしよう……あの方が来た」


 ギルティー達はその場から逃げ出しそうになっていた。


「怯むなーーー!! 隊列を崩すなーー!!」


 デミタスが怒号を掛けて体制を立て直そうとした時、森の中から稲妻が走り前衛のギルティーに直撃した。稲妻の直撃を食らったギルティーは丸焦げになってその場で失神して倒れた。


 デミタスたちにさらなる動揺が走る中、森の中から金色の髪を逆立てて全身に雷を纏ったカイトがゆっくりと現れた。

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