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爆弾女

 カイトと再会を果たした後、私達は食事をすることになった。


 食卓のテーブルの中央には私が作った赤マスという鮭によく似た魚の料理があった。


 見た目は鮭に似ていたが、身は淡白な白身の魚だったので煮魚にした。


 醤油・酒・砂糖・生姜などで簡素に味付けを行った。それほど手の混んだ料理とはいえなかったが、この国のエルフは料理に味付けをあまりしないので、みんなに喜んでもらえるか不安だった。


 赤マスは煮付け料理と相性が良かった。身が柔らかで煮汁が十分に浸透して食感はぷりぷりして箸で持つと身がホロホロに崩れた。自分で言うのも何だが最高に美味しい煮魚料理になったと自信を持って言えるだろう。


 カイトは喜んでくれるだろうか?、不安だった気持ちは次の瞬間吹き飛んだ。


 カイトは私の作った赤マスの料理を食べて興奮していた。


「何だこれは? こんなに美味い赤マスは食べたこと無い」


 カイトに褒められて私は嬉しいやら、恥ずかしいやらで顔が赤くなったので、見られないように俯いた。


 カイトが興奮しているとリンが横から意地悪そうに聞いた。


「その赤マス料理は誰が作ったと思います?」


「え? まさか?……」


 カイトはそう言うと私の顔をみた。


「ティアラが作ってくれたのか?」


「あ……、は……はい……」


 恥ずかしくて俯いたまま答えた。


「こんな美味しい料理を作ってくれてありがとう」


 カイトは満面の笑みで言ってくれた。その言葉を聞いた瞬間、涙が出てきた。


「どうした? 俺、何か傷つけることを言ったか?」


 カイトはすぐに席を立つと慌てて駆け寄ってきた。


「ううん。違うの……、私ここに戻ってきてまたカイトの迷惑になるんじゃないかって思っていて……怖かったの……」


「迷惑なんて……、思ってないよ。ティアラは好きなだけここにいて良いんだよ」


 カイトはそう言うと優しく私の頭を抱きしめてくれた。本当にここにいて良いんだ、泣き顔をカイトの胸に埋めながらそう思った。


「本当にカイト隊長が元気になってよかった」


 私達を見ていたリンが冷やかすようにカイトに言った。


「え?」


 私はなんのことか分からずそう言うとカイトを見た。カイトは赤い顔をしながら慌てて否定した。


「な! そ……そんなことはないぞ!」


「本当に雷雲が晴れてよかったわ〜〜」


 リンが窓を開けて少し明るくなった空を見ながら言った。それを見たマチルダが私を見て言った。


「本当に無事に連れてこられてよかったよ」


「ご苦労だったな、マチルダ。本当に連れて来てくれてありがとう」


「そりゃカイト隊長のフィアンセだもの万が一の事があれば私がどうなるかわからないもの」


「ち……違うと言ってるだろ!」


 カイトは顔を真っ赤にして否定した。


「それはそうと、もう一人協力者がいて、もうじきここに来るわ」


「協力者? 誰だ?」


「ティアラをここまで連れてくるのに協力してくれた人よ」


「誰か協力してくれた人がいるの?」


 リンが不思議そうにマチルダに聞いた。


「ええそうよ。私一人の力じゃ誰にも見つからずにここへ来れなかったわ」


「それって……、まさか……あいつが?」


 カイトの顔が真っ青になった。


「ああ、そう言えばあの方とカイト隊長は、なにかと縁がありましたね」


 マチルダは笑いながらカイトに言った。


「カイトの友達?」


 私は気になってカイトに聞いてみた。


「友達なんかじゃないよ、あいつは……」


『ドンドン!!』


 玄関のドアが激しく鳴った。


「ほら、噂をすれば来たみたいね」


 カイトは渋い顔をして玄関をじっと見ていた。


「どうしたの? 玄関のドア開けないの?」


 カイトを見ると額から玉のような汗をかいていた。こんなに真剣な表情のカイトを見たのは初めてだった。


 動く気配が無かったので、代わりに玄関を開けようと近づこうとした時、カイトに腕を掴まれた。


「待てティアラ。危険だ。俺が出る」 


 カイトはそう言うと玄関に恐る恐る近づいて行った。


 ドアを開けようとドアノブに手を掛けようとした瞬間、『ドガーン!』と轟音が響き渡りドアはバラバラに弾け飛んだ。


 粉々になった玄関ドアの破片の上を何事もないように歩いて一人の女性が家の中に入ってきた。


 女性は褐色の肌色をして髪は肩口まであるロングヘヤーで赤色、目も隻眼で体は出るところは出て引っ込むところは引っ込んだグラマラスなボディーをしていた。年齢は30歳前後でカイト達よりも少し年を取った大人の女性といった印象のエルフだった。


「ゲッ! 爆弾女……」


 カイトは女性を見ると思わず呟いた。すぐに失言に気づいて口を手で抑えたが時すでに遅かった。


 爆弾女と言われた女性は、カイトを睨みつけるとほっぺたを両手でつまんで左右に引っ張った。


「いで……いででで…………」


「相変わらずお前達兄弟は口が悪いな! 私が再教育してやろうか?!」


「いででで……ご……ごめんなさい。ゆるして……メ……メルーサ……」


「メルーサさんだ!!」


 メルーサと呼ばれた女性は一層強くほっぺたをつねった。カイトのほっぺたがもっと伸びて整った顔が激しく変形した。


「ご……ごめんなひゃい……メ……メルーひゃひゃん……ひゅ……ひゅるして……」


 メルーサはひとしきりカイトの頬をつねると最後に両手を左右に思いっきり引っ張って外した。


『バチン! バチン!』


 大きな音とともにほっぺたの痛みから開放されたカイトだったが、あまりの勢いでその場で崩れ落ちた。頬が赤く腫れ上がってすごく痛そうだった。私は心配になり倒れたカイトの近くに駆け寄ると赤くなったほっぺたを優しく撫でた。


「うぅ……いてて……」


「カイト大丈夫?」


「ああ。心配ないさ……ありがとう」


 カイトは私の手を取るとにっこり笑った。その眩しい笑顔をいつまでも見ていたいと思った。


 その時ふと視線が気になったのでメルーサを見た。彼女はものすごい形相で私達を見ていた。


 そのジトッと纏わりつくような視線は、以前見たことがあった。アルフレッドが私を婚約者としてみんなの前で紹介したときに感じた、女生徒の視線に似ていた。女性が嫉妬するときに見せる表情に似ていると感じた。


(もしかしてこの人はカイトのことが好きなのかもしれない。)


 私はどす黒い何かが心の中に広がっていく、初めて自分が自分で無くなっていくような不思議な感覚に気づいた。


(ああ……これが……嫉妬というものか……)


 私はメルーサに嫉妬した。

読んでいただきありがとうございます。


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