人間との確執
「それにしても、ティアラさんはどうやって私達を助けたんですか?」
セナの奥さんが興味津々で聞いてきた。
「え? あ……ああ……、薬が手に入ったのでそれを皆さんに投与しただけですよ」
いきなりの質問でどう説明していいか分からず、しどろもどろになっている私をよそに横にいたセナが口を挟んできた。
「自分の血液を採血して俺たちに分け与えたんだ」
「え? 本当ですか?」
セナの奥さんは目を丸くしてこっちを見た。私は何故セナがその事を知っているのか分からなかったので、カイトを見た。カイトも分からないと言ったジェスチャーで私に無言で答えてきた。
セナは私をまっすぐに見つめて話し始めた。
「高熱で意識が朦朧としていたが、俺にははっきりと聞こえてきたよ。俺たちを救うにはこれしか無いと言っていただろ」
「見ていたんですか?」
「ああ。しっかりとな」
「そ……そうですか……、皆さんごめんなさい」
「え? なんで謝るんですか?」
「だって……。気持ち悪いですよね。他人の血液を投与されて不快な気持ちにさせてしまって……」
「不快だなんて、とんでもない!! ティアラさんは自分の命を懸けて私達を救おうとしてくれたんでしょう」
マチルダは、ありがとう、と言って抱きついてきた。
感謝されたことで心の底からホッとした。他人の血液を投与されて嫌がる人も多いと思っていたから、本当に肩の荷が降りた、そんな心境だった。
「自分の命を懸けて他人を救うだなんてカイト隊長のフィアンセだけのことはある、本当にマルクスさんと同じだ」
「マルクスさんて? カイトのお兄さんの? その方も自分を犠牲に他人を救ったのですか?」
「え? カイト隊長から聞いてないんですか?」
「はい。あまりお兄さんのことは聞いてはいけないと思って…………」
カイトをチラッと見た。私の視線に気づいてうろたえながら答えた。
「べ……別に隠しているつもりはないんだが……その……」
「マルクスさんは行方がわからなくなったんです」
「え? そうなんですか?」
「ああ……、言ってなかったか?」
「言われてないですよ……、そうですか」
お兄さんの話をしてくれた時に悲しい顔をしていたので、てっきりお兄さんは亡くなってしまったものとばかり思っていた。
「行方がわからなくなったって……、どこに行ったんですか?」
「分からない。ある日急に居なくなった」
「そうなんですか……、でも、すぐにカイトさんの所に帰って来ますよ」
「そうですよ! さすがフィアンセ、良いこと言うね」
カイトは私達に微笑みながら、そうだな、と言った。
しばらく歓談を楽しんでいると、子供たちが寄ってきた。
「ティアラお姉ちゃん。一緒に遊ぼう」
一番年齢の近い私と遊びたいのだろう、快く返事をすると子供たちと一緒に隣の子供部屋に向かった。
子供部屋に入ると床一面におもちゃが散乱していた。私は少しおもちゃを退かすと床に座って子供たちと遊んだ。しばらく遊んでいると子供の一人が歩いている時に、転がっているおもちゃに足を取られて体制を崩した。
(あぶない!)
体制を崩して倒れる子供を助けようと手をだした時に、子供が私の被っていたフードに手を懸けたまま転んでしまった。
私はフードがずれて耳が顕になっていたのも気づかず、倒れた子供を起こすと怪我をしていないか体を確認していた。
「お……お前! それ!?……」
私は声のした方を見た。セナが部屋に入ったところで、私を見て固まっているのが見えた。その姿を見た瞬間、フードがずれて自分の耳が顕になっていることに気づいた。すぐにフードを被ってゆっくりとセナをみたが、彼は怒りで震えていた。
何か言おうとした瞬間、セナは私のフードを掴むと引きずりながらみんなの前に連れて行かれた。
「カイト隊長!! これはどういうことだ!!」
セナは私をみんなの前に連れて行くと被っているフードを剥がした。頭が顕になったことにより耳が顕になり、私がエルフじゃないことがみんなにバレてしまった。
「こ……これは?……」
「え?……どういうこと?……」
みんなの視線がカイトに向けられた。
「どういうことか説明してもらうぞ!! 隊長!!」
カイトはため息をつくと口を開いた。
「説明も何も見たとおりティアラは人間だ。何か問題でもあるのか?」
「問題があるか……だと? 人間がギルディアのしかもギルティーの隊長の家にいるとは、どういうことだ!! 大問題だぞ!!」
「ティアラは人間だが、ルーンの奴らじゃない。ただ種族が人間というだけのことだ!」
「ふざけるな!!!!」
セナは大声で叫ぶとカイトの襟首を掴んだ。
「私達の体に人間の血を入れたのか……」
「私達は汚れた……」
マチルダ夫婦は絶望したように呟いた。
「まて! 確かにお前達を救うためにティアラの血を投与したが、それはお前たちを救うためだったんだ。この国をティアラは救ってくれたんだぞ!!」
「うるさい!!」
マチルダが叫んだ。
「そんなことは分かっています。分かっているけど……、許せることと許せないことがあるんです。もし、人間の血を自分に投与すると聞かされていれば……私は死を選んだ…………」
「そ……そんな……、ティアラは命を懸けたんだぞ!!」
「誰もそんな事をしてくれとは頼んじゃいない!!!」
「なんだと!!! お前もういっぺん言ってみろーーーー!!!」
今度はカイトがセナの襟首を掴んだ。
「あんたがそんなんだからお兄さんのマルクス隊長も居なくなったんじゃないか?」
「な? 何だと?」
「あんたがそんなんだからお兄さんも嫌気がさして居なくなったんだよ!」
「何だと! てめえーーー!!!!」
カイトはセナの襟元を掴む手に力を込めていた。一触即発の事態に周りが凍りついた。
「やめろ! カイト隊長もセナも頭を冷やせ!!」
ロイがカイトとセナの間に入って仲裁した。
「もういい! 帰るぞ!」
セナは家族にそう言うと帰り支度を始めた。マチルダ夫婦もそれに続いた。セナは帰り際に振り向くと侮蔑の表情で私達を見た。
「俺たちを救ってくれたことは事実だから、上には報告しないでやるよ。だがな、あんたを許す気にはなれない。悪いがな……」
それだけを言い残してセナとマチルダの家族は居なくなった。
私は呆然としていた。みんなを助けたい一心で必死になって行ったことが裏目に出てしまった。
「わ……私の……したこと……ま……間違ってたのかな?…………」
そう呟くと涙がこぼれ落ちた。悔しくて切なくてやりきれない思いが溢れた。
『ガバッ!』
落ち込んでいるといきなりリンが抱きついてきた。
「ティアラは悪くないわ! 貴方は自分の命を懸けて私達を助けてくれた。その事を後悔しないで!! 貴方は何も悪くない! 悪いのは私達の方よ! ごめんなさい許して!」
リンは泣きながら私を強く抱きしめてくれた。
私はリンの精一杯の優しさに少し救われた気がした。すると白い腕が後ろから伸びてきて後ろからカイトに抱きしめられた。
カイトはそのまま私の耳のそばで謝った。
「す……すまないティアラ……。命をかけてくれた恩人に対してこんなひどい仕打ちをしてしまって……、本当にゴメンな……」
「カイト……」
カイトは涙を流しながら何度も何度も謝ってくれた、後ろから抱きしめられている腕を私が触れると小刻みに震えているのが分かった。
彼の申し訳ない気持ちと優しさが痛いほど伝わってきた。
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