ホームパーティー
大きな大理石でできたテーブルの上に様々な料理が並べられていた。
私は正体がわからないように耳まで深くフードを被っていた。周りは全員ギルティーの人達で私の正体が判明した瞬間、何をされるか考えると緊張して目の前に置かれた豪華な料理に手を出す勇気はなかった。
ロイの家で開かれたホームパーティーにカイトと私は招待された。このホームパーティーには、私達2人とロイの家族4人とマチルダ夫婦とセナの家族5人の計13人が参加していた。
「ティアラさん。遠慮しないでどんどん食べてね」
「は……はい。ありがとうございます」
「それにしても名前がアスペルド教団の聖女と一緒というのは、不運だな」
セナは渋い顔をしながら言ってきた。
「え? あ……は…はい……」
「ごめんなさいね。この人の両親は昔、ルーンの人間に殺されてしまって、それ以来人間が大嫌いなのよ」
セナの奥さんがすかさずフォローしてきた。
「本当に、名前が同じだけで恨まれたらこっちのティアラさんが可愛そうよ!」
リンも一緒にセナの無礼をたしなめてくれた。リンはロイの奥さんでとても私に優しく接してくれている。
「い……いやぁ〜〜。申し訳ない。気を悪くしないでくれ」
「い……いえ。大丈夫ですよ」
愛想笑いを浮かべながら、絶対に正体がバレるとまずいと思い。フードの端を持つと耳が見えていないか確認してフードを深く被り直した。
カイトと事前に相談して私の名前を変えようという話になったが、何かの拍子に出てしまう恐れがあり、その方が危険だという話になったので、私はそのままティアラという名前でパーティーに参加することになった。
こういうことになるならやっぱり変えたほうが良かったと今更ながら思った。
「ごめんなさいね、ティアラさんせっかくの料理がまずくなるわよね」
「い……いえ、大丈夫ですよ」
リンは料理を皿によそうと私の目の前に置いてくれた。食べると美味しかった。
しばらく食べていると横で料理を食べていたカイトがその場が凍りつく様な事を言い出した。
「それにしても……、リンは料理が下手になったのか?」
「え?……」
カイトはすぐにシマッタという顔をしたが、リンは納得がいかないといった表情でカイトを見ていた。その視線に気づいたカイトは必死で言い訳をしていた。
「い……いや〜〜。その……、最近はティアラの料理を食べているからか、その……味が……な!」
そう言いながら助けてくれという表情で私を見てきた。私はどうして良いか分からず固まっていた。
「へえーー。ティアラさんの料理はそんなに美味しいんだ〜〜?」
マチルダが好奇心旺盛な態度で私に絡んできた。
「い……いえ。そんなことはありませんよ」
「え? でもカイト隊長のお兄さんのマルクス隊長は昔、料理人をしていたと聞いたことがありますよ。その料理人のお兄さんをもつカイト隊長がそんなに言うんなら本当じゃないかしら?」
「そうだよね〜〜。ちょっと料理作ってよ〜〜。ショランゴで流行っている料理とかないの?」
私はどうしていいか迷った。確かにリンの作る料理は味付けがあまりされていないため、薄味で素材の味しかしない。
「そ……それじゃ……。サラダのドレッシングを作りますね」
「おおーーーー!!」
何故か男たちが一斉に歓声を上げた。私は仕方なくロイの家の台所に立った。台所にある材料を吟味すると、粉チーズと卵と牛乳のようなものとオリーブオイルがあったので、混ぜてシーザーサラダドレッシングのようなものを作った。
野菜を皿に盛り付けてシーザードレッシングをかけた。そのままでは少し寂しいと思ったので、周りを見回すとベーコンのような肉の塊がぶら下がっているのを見つけた。その肉の塊を手に取ると細かく刻んで、フライパンでカリカリに炒めて野菜のうえに振りかけるとテーブルの上に置いた。
「おお!! 何かわからんがすごい美味しそうだな!」
ロイがそう言うより早く子供たちがサラダに飛びついた。
『ムシャムシャ』
子供たちはサラダを口いっぱい頬張ると満足そうに笑った。
「すげーーーー! これ! うんまぁーーーい!」
「どれどれ。んーーーーーー! おいしいーーー!!」
その場にいる全員が飛びつくように食べてあっという間に皿が空になった。
「すごい! 料理上手ですねーー」
「い……いえ……そんな……」
私はすごく褒められて照れくさかった。
「いいなーーー。こんなにきれいで可愛くて、その上料理上手だなんて本当にカイト隊長にはもったいないですよ」
「バ……バカヤローー。な……何を言うんだよ……」
カイトは顔を赤くして頭をかいた。
「ははは……。カイト隊長が照れてるとこなんて始めて見た〜〜!」
子供たちは笑いながら冷やかした。
「う……うるさい! もう良いだろそれは……」
ますます顔を赤くしていた。
「こんなに料理が上手いんだったら隊長が一番好きな魚料理も美味しんでしょうね」
「え? 魚料理?」
初めてカイトが魚料理が好きと知った。
「え? 知らなかったんですか? カイト隊長が一番好きなのは魚の料理ですよ」
知らないもなにも、そもそもカイトは魚を買ってきたことは無かった。私はどうしてカイトが自分の好きな魚を買ってこないのか分からなかったので、その意味を込めてカイトに聞いた。
「本当なの? 魚が好きだなんて知らなかったわ?」
「あ……ああ。いつも仕事終わりに買い出しに言っているから、その時間に魚は売ってないんだよ」
「え! そうなんですか?」
「ええ。町外れに市場があってそこに魚は売っているんですが、この町は海から遠くあまり数が入ってこないんです。でも午前中に買いに行けばまだありますよ?」
リンがカイトの代わりに答えてくれた。
「そ……そうですか」
「え? ティアラさん市場に行ったこと無いんですか?」
「は……はい。市場というかこの町のなか自体あまり知らないんです」
「へえーー。買い物はカイト隊長が担当してるんですか」
「そんなにティアラさんを外に出すのが嫌なんですね」
「外に出て変な男に声を掛けられるのが嫌なんですね」
「すごい。カイト隊長ってそんなに束縛するんだーー」
リンとマチルダとセナの奥さんは3人でカイトを見ながらカイトに聞こえるようにコソコソ話していた。
「バ……バカ!! ち……違うよーー!!」
「そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。男ならわかりますよ、こんなにきれいなフィアンセがいればみんなそうなりますよ」
その場に居た全員が私とカイトを見て冷やかしてきたので、恥ずかしさのあまり黙ってうつむいた。カイトは必死で誤解を解こうと説明していたが、言い訳すればするほど冷やかされていた。みんなが悪ノリをしてカイトを困らせてるのを見ていると、おかしくなって思わずクスッと笑ってしまった。
ギルティアに来てこんなに安らぐ時間は久しぶりだった。
この時はこのままずっとこの時間が続くものと信じて疑わなかったが、現実は甘くないということをまだ、このときの私は知る由もなかった。
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