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抑えきれないこの思い

 その日から何故か少しカイトを意識するようになった。


 顔を見て話すことができない。カイトも少し動揺しているのか目を合わせて話をしなくなった。そうされると余計に意識するようになってしまった。


 そんな生活が一週間ほど続いたある日、帰宅したカイトがソワソワしているのを感じた。


 いつもは無言で美味しそうに私の作った手料理を食べているのにその日は何か落ち着かない様子だった。


「な……何か? ありました?」


 私は気になってカイトに聞いてみた。


「い……いや、その……」


 しばらくの間バツが悪そうに言いよどんでいたが、覚悟を決めて話し始めた。


「この前お前が治療した人達を覚えているか?」


「ええ。確かロイさんとマチルダさんとセナさんでしたよね?」


「そうだ。その3家族がお前にお礼がしたいそうなんだ」


「ええ!? お礼?」


「そ……そうだ。お礼として俺たちをホームパーティーに招待したいそうだ」


「ええ……。そうなんですか?」


「行きたいか?」


「ええ。楽しそうなんで行きたいですが……、出席したら私の正体がバレてしまうんじゃないでしょうか?」


「そう。だからずっと断っていたんだが……、その……どうしても来てほしいと懇願されてな……どうだろう?」


「どうだろう? と言われても……。カイトさんはどうしたいんですか?」


「え? お……俺は……」


「私をカイトさんのなんと説明します?」


「え? お前を?」


「そうですよ。私と一緒に住んでいることはあの人達は知っています?」


「い……いや? 知らないと思う」


「私はどこに住んでることにします?」


「そ……そうだな……どこにするか? この辺りに空き家は無いし、そもそも台帳のどこにもティアラという名前が見つからない」


 私達が今住んでいるギルディアは隣のルーン大国と戦争をしていた。そのため人の出入りが厳しく管理されていた。台帳を確認されれば一瞬でバレる。


 招待している彼らはギルディアの国のギルティーと呼ばれる戦士達なので台帳の閲覧はいつでもできるため下手に嘘はつけなかった。


「この際、恋人ということにします?」


「?!……こ……恋人だと!!」


「そうですよ。恋人だったら一緒に住んでいる説明がつきますけど……どうします?」


「う……うーん。その方が変に怪しまれないか……」


「遠くに大きい病院のある街はありますか?」


「ん? 確か……ショランゴという遠くの街に大きな病院がある」


「じゃ、私はそこから来たということにしましょう」


「え?」


「長期休暇が取れたので、その病院からこの町の恋人の家に遊びに来ているという設定にしましょう」


「お……おお。そうだな、うん。それでいこう!」


 カイトはそう言うとテーブルに置いてあった私の手に自分の手を重ねてきた。私はびっくりして手を引っ込めた。


「な……何をするんですか!?」


「こ……恋人ということにするんだから、手ぐらい握れるようにしておかないとすぐにバレるだろ!」


「そ……それもそうですね……」


 私はそう言うとカイトの手を両手で包んだ。


「うっ!」


「どうしました?」


「な……なんでも無い……」


 カイトは顔を真赤にした。色が白いからよく分かる。


「フ……フフッ……」


 いたずらっぽく笑うと怒ったのかますます赤くなった顔で睨みながら立ち上がって、笑っている私の横に座ると肩に手を掛けてきた。


「ど……どうしたんですか?」


 私の顔をじっと見ながら少しづつ顔を近づけてきた。私はキスされると思い目を閉じた。どんどんカイトの顔が近づいて来るのが分かった。顔に鼻息が掛かるほど近づいた瞬間、嫌と小さい声で囁いて顔をそむけた。


 しばらくそのままで硬直していたが、肩に置かれたカイトの手が小刻みに震えて居ることに気がついてそっと目を開けると、声を押し殺して笑ってるカイトの顔が見えた。


 私はすごくバカにされた思いと少し期待していた自分が許せなくなり、肩の手を払いのけると立ち上がった。


「ひどいです! 人のことを笑って!」


「ワッハッハー、だってすごく嫌そうにしてたから」


「そ……そんな……」


「何もキスまでしろとは言わないから安心しろ」


 カイトはそう言うと自室に戻っていった。私はカイトが居なくなるのを確認すると指でそっと唇に触れた。



 カイトは自室の扉を閉めるとドアに背中を押し付けてその場で膝から崩れ落ちた。まだドキドキが止まらなかった。ティアラが小さい声で、嫌と言わなかったらそのままキスしていただろう。あの場面で自分を取り戻せたことが奇跡だと思った。キスしたい衝動を抑えるのがこんなにも辛いものだとは思わなかった。


 カイトは自室の部屋の中を見渡した。部屋の至る所に絵が飾ってあった。その絵はどれも自分が描いた絵であった。


 カイトは絵を描くのが好きだった。兄と一緒に住むことになったは良いが、兄は仕事が忙しく家に帰らない日が続いた。そんな寂しくなった時でも絵を描いていれば忘れることができた。自分が描いた兄の絵を見れば寂しさが少しは紛れるように思った。


 カイトは目の前の額縁に飾られている絵を見た。その絵には兄のマルクスとその横で微笑んでいる女性が描かれていた。その女性は兄の恋人のミラだった。二人は仲睦まじく描かれていた。


 カイトは初めて感じる感情に動揺していた。


(何だこの感情は? 俺が人間などという下等生物を愛してしまったのか? 兄ちゃん……兄ちゃんも同じだったのか?)


 カイトは絵の中のマルクスの隣で嬉しそうに微笑んでいるミラを見た。ミラの耳は伸びていなかった、ミラはルーン大国の人間だった。

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