思い出の味
カイトは久しぶりに帰ってきた我が家でホットしていた。ガンドールから帰ってきてまずは疲れを癒そうと風呂に入った。
(やっぱり風呂は我が家で入るに限るな)
カイトはタオル一枚になると半裸の状態でガンドールから持ち帰った荷物の整理に取り掛かった。段々と荷物が整理されていき最後に大きな箱を開けようとしたが、中で何か引っかかっているのか開かなかった。
(鍵がかかっているのか?)
そう思ったが、この箱に鍵はない。カイトは力任せに思いっきり箱を開けた。
「キャー」
箱の中から何かが飛び出てきた。カイトは一瞬敵が攻撃して来たと思い、その場を飛び退いて物陰に隠れた。
「イタタ……」
箱の中から出てきた者は、そう言いながら頭を抑えた。勢いよく出てきた拍子に頭を床に打っていて痛そうに抑えていた。
カイトは恐る恐る出てきた人物を見るとそこにはティアラが居た。
「なんで? お前がここにいるんだ!」
カイトはタオル一枚の自分の状態を忘れて私の前に出てきた。私はキャー!、と悲鳴をあげた。カイトは自分の状態を確認すると再度物陰に隠れて、落ちている服を拾って慌てて着だした。
「あ……あのーー。これには訳がありまして……」
物陰でいそいそと着替えているカイトに向かって必死で言い訳をした。
「あの時、逃げろと言っただろ!」
「に……逃げましたよ……、でも……」
私は申し訳なく思い謝ることしかできなかった。
そう、あの時、ガンドールの町の近くの丘の上でカイトは私を殺そうと近づいてきた。
私が殺されると思った時、縛られていた紐が外れた。そしてカイトが、逃げろ、と言ってくれた。
そう言われても私はどうしていいか分からずしばらく立ちすくんでいた。
「何ボーッとしてんだ! 早くどっかいけ!!」
「え? は……はい!」
そう言って私はすぐに走ってその場から逃げ出したのだ。
見つからないように走っているといつの間にか飛行艇が繋がれている所に付いてしまい。どうしていいかわからず周りをキョロキョロしていると、二人のエルフがこちらに近づいてくるのが見えた。私は焦って見つからないように大きな箱の中に隠れてやり過ごそうとした。
二人のエルフは私が隠れている箱の前まで来ると立ち止まった。
「よし、早く荷物を飛空艇に詰め込むぞ」
「そっちを持ってくれ。あれ? この箱やけに思いな」
「気をつけろよ、この箱はギルティークラウンの持ち物だからな、傷つけると殺されるぞ」
「匕ーーー、怖い怖い。早く片付けよう」
そのまま私は荷物と一緒に飛空艇に詰め込まれた。
◇
「そして気がついたらここに居ます」
「気がついたらここに居ます、じゃねーよ。アホか、このバカ!」
「どうすればいいですか?」
「知るかボケ!」
「うぅー、さっきからアホとかバカとかボケとかひどいです」
「うるさい。とりあえず誰にも気づかれるんじゃない。俺以外のエルフに気づかれたらお前も俺も終わりだ。いいな?」
「私はわかりますが、何で貴方まで終わるんですか?」
「仲間にはお前は俺が殺したことになっているからだよ。生きていることが知られたら俺も軍法会議にかけられる」
「そ……そうなんですか……。ご……ごめんなさい」
「はあーー。幸いこの家には俺以外誰も住んでいないから、この家から出なければ見つかることは無いだろう」
カイトは指を突き出すと私の顔の前に向けた。
「いいか。そこの部屋をお前に使わせてやるが、他の部屋に入ったり、勝手に物にさわるなよ!」
「は……はい。わかりました。あ……あの……」
「なんだ? まだ何か言いたいことがあるのか?」
「はい。あの……私は……その……いつ帰れます?」
私がそう言うとカイトは無言で睨んできた。
「ご……ごめんなさい……」
「はぁーー。今すぐは無理かもしれないが、どうにかして帰してやるよ」
「ほ……本当ですか! よろしくおねがいします」
◇
「う……うーーーん」
私は目を覚ますとしばらく微睡んだあとベッドから起きた。
昨日カイトからこの部屋から出るなと言われたが、改めて考えてみるとトイレはどうすれば良いのか冷静に考えると無理な命令なのでないかと思った。
私は部屋の外に人の気配がない事を確かめるとゆっくりと部屋のドアを開けた。部屋の外には案の定カイトの姿はなく家の中にいるのは私一人だけだった。
他の部屋に何があるか確かめたかったが、見つかって追い出されると怖いのでやめておいた。
『ぐぅぅ〜〜』
おなかの虫が盛大になってしまった。よくよく考えると二日間何も食べていなかった。こういう時でも体は正直である。
(お腹すいたな〜、何か食べ物無いかな〜)
台所がどこにあるのか家の中を探していると一階の玄関の近くにあった。
様々な数の鍋や料理道具がたくさん壁にかけてあった。男の人の一人暮らしにしては似つかわしくない本格的な料理道具の多さにびっくりした。
(エルフって料理上手なのかしら?)
そう思って戸棚を開けて食材を探したが、食材らしい食材は殆どなく、葉物野菜が少しあるだけだった。
どうしようか? 途方に暮れていると床に小さな穴が空いているのを見つけた。床に這いつくばって穴の周りを調べると思ったとおり床下収納を見つけた。普通の人では見つけられないだろうと名探偵になった気分で扉を上にあげると、二畳ほどの空間があり、一番奥の角に小さな瓶があったので、取り出して中を見ると味噌のようなものが入っていた。
(え? これって味噌?)
恐る恐る少し指ですくってなめてみると確かに味噌の味がした。
味噌の入った瓶と葉物野菜をテーブルの上に並べた。
(これは味噌汁を作るしか無いね)
本当は出汁がほしいところだが、この家には出汁を取れそうなものが無かった。
私は仕方なく葉物野菜を適当に切って鍋に入れて、味噌を入れて味噌汁を作った。久々に飲んだ味噌汁は空きっ腹に染み渡った。
(ああ……、懐かしい味……)
この世界に来て初めて味わった前世の味に感動した。こんなに美味しい味噌汁を作れたことが嬉しくてみんなにも自慢したかった。
私が味噌汁の味に感動していると玄関のドアが開いた。
『ガチャ』
びっくりして咄嗟に物陰に隠れて玄関を見ると帰ってきたカイトと目が合った。
「何してんだ、お前」
「あ……あの……お腹が空いたから……」
「部屋から出るなと言ったはずだが?」
「ご……ごめんなさい。お腹が空いて死にそうだったから……」
「腹が減っただと? ああそうか、人間は一日一回以上は飯を食うんだったな」
「え? エルフは違うの?」
「当たり前だ。俺たちは一週間食わなくても問題ない」
「そ……そうなの? い……いいわね」
「フン! それよりも何を作ったんだ? ん? この匂いは?」
「ああ。味噌汁よ」
「お……お前それをどこで?」
「そこの床下収納の中に……」
「床下収納だと?」
カイトは床下に収納があることを知らないようだったが、そんなことは気にしないで鍋のフタを開けると味噌汁を見ていた。
「あ……あのーー。味噌を勝手に使ってごめんなさい……」
「俺にも食わせろ」
「え?」
「早くしろ! これを俺にも食べさせろ!」
「は……はい。わかりました」
私は器に味噌汁を入れるとカイトに渡した。カイトは私から味噌汁を奪い取るとじっと中を覗いてそれから一気に飲んだ。
「?!……兄さん……」
そう言うとうつむいて肩を震わせていた。私はうつむいたままでいるカイトの顔を覗き込むと泣いているのが分かった。
泣き顔を私に見られたのがわかると顔をそむけた。
「み……見るな!」
「あ……。ご……ごめんなさい……そ……その…なんでかな?…って思って……」
「俺には兄が一人いる」
「そうなんだ。お兄さんは今どこにいるの?」
「今はもういない」
カイトは悲しそうな顔で私を見た。お兄さんは死んでしまったのだろう、私は聞いてはいけないことを聞いてしまったと思い謝った。
「別に……、それはいい」
カイトは涙を拭いた。
「俺の両親は俺が小さい時に二人共事故で死んでしまった。兄ちゃんはその時すでに独立していたが、幼い俺は親戚の家に預けられていた」
そう言いながらカイトはテーブルに置かれた味噌汁を眺めながら、お兄さんとの思い出話をしてくれた。
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