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37.天霧霊歌

 その日の夜、私は夢を見た。


 夢の中の私は、まだ若かりし頃の母の膝枕で眠っていた。


 私は何故かランドセルを背負っていた。


 小学校の入学式を明日に控えて学校に行けるのが嬉しくて、買ったばかりのランドセルを背負って走り回りそのまま疲れて寝てしまった事を思い出した。


 懐かしい当時の思い出が浮かび上がった。


 母は眠っている私の背中をポンポンと優しくなでながら歌っていた。


 それは母が小さい頃によく歌ってくれていた歌だった。確か天霧霊歌(あまぎりれいか)という歌だった。


 私が小さい時に住んでいた地域に天霧山(あまぎりさん)という山があってそこにちなんだ歌だった。


 天霧霊歌の内容は死んでしまった母親が死んだ後も子供を思い、天霧山からずっと見守っている。そんな悲しい歌だった。かなり古い歌で私が住んでいた一部の地域でしか歌われていないためこの歌を歌える人は母以外聞いたことがなかった。


 小学校の時、友達に聞いても誰もこの歌を歌える者はおろか、知る者すらいなかった。


 母の歌声がゆっくりと優しく春のそよ風とともに聞こえてきた。


「雨霧山に霧が懸かると……♪、貴方が見えない……♪、私の心と同じように雨が降るーー♪」


「雨霧山の霧が晴れると……♪、ここから貴方がよく見える……♪、私の心と同じように晴れた青空が広がるーー♪」

 


 私は夢から覚めた。目には涙の跡があった。眠りながら泣いていたようだった。久しぶりに母に会えた気がして懐かしい思い出で心がいっぱいになっていた。


(なぜこんな夢を見たのだろう?)


 おそらく昨日、旅立った家族を見て母に会いたいと思ったからだろう。夢から覚めて寂しい気持ちになった。


 その時、隣の部屋から何かが聞こえてきた。その声はよく聞くとメロディーを奏でているようで誰かが歌っているようだった。


 その歌詞を聞いた時、私は心臓が飛び出しそうになるぐらい驚いた。その歌は紛れもなく天霧霊歌だった。


 まだ夢の中なのか?、そう思ってほっぺたをつねった。痛い、思わず声に出た。


(夢じゃない! 誰かが歌っている!)


 私はすぐにベッドから飛び起きると歌声のする方へ向かっていた。歌声はティムがいる部屋から聞こえてきた。


(歌っているのは母だ!)


 私は確信した。その時なぜそう思ったのか自分でも分からなかったが、間違いないと確信すると、いつの間にか涙が溢れ出した。優しかった母の面影が心を埋めてゆく、私は天霧霊歌の歌詞を一緒に歌いながらゆっくりとティムの部屋に入った。


「「心が沈んだ日にはいつでも近くにいるからね〜〜♪、天霧山を見てごらん〜〜♪、私はいつでも貴方のそばにいるからね〜〜〜♪」」


 部屋に入ると先程見た夢のように眠っているティムの背中を優しく撫でながらロザリアが歌っていた。ロザリアは歌っている私の顔を見て驚いていた。


「お……お母さん…………」


「あ……貴方は? 咲子!? 咲子なのね!?」


 私はロザリアに飛びついた。ロザリアは私を力いっぱい抱きしめた。


「お母さん! お母さん! お母さん! お母さん! 会いたかった! 会いたかったよ!!」


「うん! うん! うん! うん! 私もよ! お母さんも会いたかったよーー!!」


 二人で号泣しながら叫んでいたら、ティムがびっくりして起きて目を丸くしてこちらを見ていたが、気にすること無く前世の親子は抱き合って再会を喜んだ。


「ごめんね。寂しい思いにさせちゃって! 死んでしまって……離れてしまって……ごめんね……」


 母は泣きながら謝ってきた。


「うぅ……、でも会えたよ……、また……お母さんに会えることができたよ…………」


 私はしばらくの間、嗚咽で何も言うことができなかった。


 どれぐらい時間が経っただろうか。母に抱かれたまま母の匂いや母の変わらない手のぬくもりをひたすら懐かしく感じていると次第に心が落ち着いた。


「お母さん私ね、お母さんのような人を助けることができるようにいっぱい勉強して製薬会社に就職したんだよ」


 私は中学から今までの母の知らないであろう自分のことを全部話した。これまで会えなかった思い出を取り戻そうという思いと、また母が居なくなってしまうのではないか?という思いが合わさって必死で母と話した。


 母も自分のこれまでの生い立ちを話してくれた。それによると母も私と同じように前世の記憶があるままこの世界に転生したようだった。前世での知識を使って人助けをしているうちに私と同じように聖女様と呼ばれるようになったようだった。そこで知り合った剣聖エナジーとこの砦に住んでいたところ、子供たちを助けてほしいとアスペルド教団に頼まれて困っていたところに私が来てくれたということだった。


 母と話に夢中になっていると、レンとクリスとアルフレッドが部屋に入ってきた。


 クリスは私と母が夢中で楽しく話しているところを見て不思議そうな顔をしていた。


「どうしたの? 二人共そんなに仲が良かったっけ?」


「ああ……。みんなに紹介するね。この人は私の母親です」


 三人に母を紹介した。


「あれ? ティアラの母親は今、クロノスの町にいるんじゃないのか? それに見た目がぜんぜん違うじゃないか?」


 レンは私がおかしくなったのかと心配しながら聞いてきた。


「あ……、この人は私の前世の母親なの……この説明じゃわからないよね」


 私がそう言うとアルフレッドはさも分かったような素振りを見せた。


「ま……まあティアラがそう言うんならそうなんだろう。……ん? 何だよお前たちはまだわからないのか? 鈍い奴らだな」


 アルフレッドは勝ち誇ったように二人に言った。多分一番わかっていないのは彼だろう。


 私がこの砦にきて久々に笑っている顔をみて三人とも安堵したのかみんなで笑いあった。


 一通りみんなで笑いあったところでクリスが私達に言った。


「それじゃそろそろガンドールに向けて出発しよう」


「「そうだな」」


 私は母を見て、お母さんも一緒に来てくれるでしょ?、と心配になって聞いてみた。


 母は私を抱きしめると頭を優しく撫でてくれた。


「当たり前でしょ! 咲子の成長が見れないことがお母さんの心残りだったんだから! これから咲子の成長が見れるんだもの、もう二度と離れたりするもんか!」


 母の言葉を聞いて私は嬉しくなって抱きついた母の胸で号泣した。


 私達は回復した子供たちと一緒にガンドールに向けて出発した。

読んでいただきありがとうございます。

次話で第二章が終了します。

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