31.聖女の祭壇
私達はガンドールに向けて馬車を走らせていた。
私が作ったゴムタイヤとサスペンションはうまく機能していて地面の凹凸を吸収して車内はとても静かで乗り心地が良かった。これまでも馬車に何度も乗っていたが、乗り心地は比べ物にならないほど良くなった。
馬車の乗り心地は良くなったが、一点だけ私の馬車旅を不快にさせる原因があった。
それは男子三人が不仲なことである。
目の前にクリスとレンとアルフレッドが座っているが、三人とも先程から全く喋らないのである。
出発の朝、最初に私とクリスとエリカが馬車に乗り込むと同時にレンが当然のように私達の乗る馬車に乗り込んできた。それを見たクリスがレンに問いただした。
「何で? 君もこの馬車に乗ってくるんだい?」
「何言ってんだ。ティアラを守るように国王から命令させているから俺がこの馬車に乗るのは当然だろ」
確かに国王からそのような指示が出ていることをクリスは知っていたのでそれ以上は反論しなかった。だが次にアルフレッドも一緒に乗り込んできたので、またクリスが問いただした。
「何で? アルフレッド王子も乗り込んでくるんですか?」
「王族の馬車にもこの装置を取り付けようと思ってな、乗り心地を確かめる必要があるだろ」
「何も王子自ら試さなくても、使いの者でも良いのではないですか?」
「何を言う。私が直接乗って乗り心地を確かめなければ意味がないだろ」
アルフレッドはそう言うと無理やり馬車に乗り込んできた。私の隣に座ろうとしたがレンに阻止されたので、仕方なく男三人で私の目の前の席におとなしく並んで座っている。クロノスの町からかなり進んで来たけど相変わらず三人は一言も喋らないので、馬車の中は張り詰めた空気が流れていた。
たまらず隣に座っていたエリカが私に話しかけてきた。
「それにしてもこの馬車はすごいですね。本当に揺れないですよ」
「本当? ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ」
「本当だよティアラ。この馬車のおかげで遠くまで人や荷物を運ぶことができるよ」
クリスがそう言って喜んだ。
「今までは遠くまで行けなかったの?」
「ある程度までしか行けないよ。これまでの馬車は振動が人や馬に伝わって長時間進み続けることはできないからね。でもこの馬車なら人も馬も振動が伝わりづらいので、長時間進み続けるようになって、今までよりも遠くに人や荷物を運ぶことができるようになるだろうね」
「それって? すごいこと?」
「はっきり言って物凄いことですよ。このパープル商会にとっては遠くまで人や荷物が運べることはメリットしかありませんよ」
「そ……そうなんだ。そんなに喜んでくれると作った甲斐があるわ」
「ティアラ。本当に貴方という人は当たり前のように偉業を成し遂げてしまう。本当にすごい人だよ」
クリスに褒められてすごく恥ずかしく思った。クリスはそう言うと私の手を握ろうと手を伸ばしたが、アルフレッドがすかさず私とクリスの間に入ってきたのですぐに手を引っ込めた。アルフレッドはそのまま話しに入ってきた。
「お……俺だってすごいと思っているぞ」
「ちょ……ちょっと。アルフレッド王子!」
クリスは横から割り込んできたアルフレッドをにらみながらおとなしく席についた。
このままだとまた三人とも静まり返って嫌な空気が流れるのを危惧した私は話題を変えようとした。
「あ……あと、どれぐらいでガンドールに到着できるかしら?」
「んーー。明日には到着できると思うよ」
「そ……そうなんだ」
あと一日もこの空気の中、馬車に乗ってなければならないのか?、私が少し落胆しているとエリカがそう言えばティアラ様知っていますか?とこの場が凍りつくような話をした。
「ガンドールには聖女の祭壇というところがあってその場所でプロポーズすると必ず二人は結ばれるんですよ」
「「「なに!!!」」」
三人はものすごい剣幕でエリカに詰め寄った。
「「「そ……それはどこにあるんだ?」」」
「そ……そこまでは、わ……私も知りません」
三人の剣幕に押されてうろたえながらエリカが答えた。
私はなぜか三人の態度に身の危険を感じてエリカに迷信じゃないか?と尋ねた。
「いいえ、本当ですよ。現に私の祖父母と両親もそこでプロポーズして結婚しましたし……」
「へ……へえー、そ……そうなんだ?」
私が三人を見ると三人は私の顔をジーッと見ながら席に着くとまた無言になった。
それまではしかめっ面で座っていたがその後はなぜか三人とも少しニコニコして機嫌が良くなった。
私は何故か分からないがすごーーく嫌な予感がした。
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